幕間 無力
「まぁーそういうわけです」
「ふむ。そういうわけか」
あれから12時間。ララちゃんは逃げ出した。足取りは一切掴めない。そしてスックラ団長が来て、近場の中華料理屋に来ていた。
「それでリコ。お前の背中で寝てる女は?」
「リリアン。ララちゃんを虐めた主犯です」
「さしずめ殺されそうだから保護したというところか」
「その通りです。これからどうします?」
「任せる。俺は今回の事件は動かん。お前の命令に従うだけだ」
困ったな。完全にスックラ団長に事件を全て任せて、私は寝るつもりでいた。しかし、勝手に動いてくれないなると……
「困ります」
「少しは成長しろ。俺が全てやったらお前のためにならん」
「はぁー仕方ないですね。とりあえずララちゃんはゾエとエステルを狙うでしょうね。だから、この二人を護衛すればララちゃんと、また会えると思います」
「……リコ。甘すぎだ。相手はホームズ・モリアーティだ。ララなんて小物は放置しておけ」
「ちょっと? 人の命がかかってるのにそんな言い方はないんじゃありませんか?」
「だからこそだ。ララに気を取られてるうちにホームズ・モリアーティに大規模テロとかされたら、どう責任をとる?」
こればかりは正論か。ホームズ・モリアーティは危険な男だ。ララちゃんにかまってる場合ではないのは事実。今は彼を逮捕することを最優先で動くべきだ。
「でもスックラ団長。その考えは間違ってますよ」
「相変わらず変わってないようで安心だ。どこが間違ってるか言ってみろ?」
「ララちゃんにも気を配る。ホームズ・モリアーティもマークする。両方やるんですよ」
「正解だ。難しくてもやる。不可能でもやる。それが騎士団だからな」
「それじゃあ真面目な話をしましょう。どうすればいいと思いますか?」
私の感想としてはホームズをマークとは言っても行動が読めなすぎる。だから一度忘れて、ララちゃんを調べるべきだ。もっともスックラ団長の言う通りホームズがテロをする可能性は高い。しかし『どこで、いつやるか』ということすら分からないテロを対策する方法を私は知らない。
「そうだな……まずはホームズ・モリアーティの目線で物事を考えよう。テロをするとしたら、どのタイミングで、いつやるか。それを予測して動くんだ」
「なるほど。だとしたら、この辺りですね」
「人口も多い。高確率でそこだろうな」
私達は地図を広げて、相談する。テロをやる理由は多くの人を殺したいから。それなら人口密集地でやるのは確実。そして騎士団の信用を値に落とす。
もっとも騎士団の信頼を落とそうとしているならという話だが……
「しかし良くて20%だな。あいつの事件に意味は無い。ただの娯楽としてやってるからな。つまり目的の無いテロ。もっと言うなら人を一人でも殺せるなら、それでいいのレベルだ」
「そうなんですよ…………あ、分かりました」
読めた。ホームズの行動が。ホームズ・モリアーティはララちゃんを悪として育てるのが目的だと私は考えている。しかし、あの男は二つや三つの目的を持って動くから危険で、行動が読めないのだ。私達の予測はあくまで自分達が一番されたら困ることを挙げてるだけだ。
「なんだ?」
そして私達がされたくないこと。それがテロだ。
だから今回はテロをされる前提で動く。されなかったらラッキー程度に考えておこう。もっともしない確率の方が高いとは思うが。
「ララちゃん。これがキーになってるんですよ」
「今回の事件の発端だから当たり前だな」
「それでララちゃんを虐めた輩を巻き込んで、一斉に大量の人間を殺せたらどうです? 私は少なくとも手間がかからなくて良いと思いますね」
「なるほど……つまりホームズ・モリアーティがテロを起こすとしたら学校か」
「イエス。しかもあの男のことです。表舞台には出てこないで、全てララちゃんに任せて終わりでしょうね。変な話すると剣を適当に飛ばしてるだけでも数百人の人間が殺せると思いますし」
「それで、お前はどうする?」
うん。そんなのは簡単だ。やることは一つだ。
「というわけで、女子高生になってきますね!」
「そうなるのか……」
女子高生になって学校に侵入。内部から生徒を守る。それが一番だ。しかし学校なんて久しぶりだ。まさか19歳にもなって再び高校に行くことになるとは。世の中というのは分からないものだ。
「スックラ団長はゾエとエステルの護衛をお願いしますね」
その時だった。私の携帯とスックラ団長の携帯が同時に鳴った。
私達はそれに目を通す。そして全てを察する。
「リコ。今のメールを見て分かると思うが、ゾエが拉致られたそうだ」
「十中八九、助かりませんね。スックラ団長はエステルの保護をお願いします」
「了解した」
最悪だ。私達は食事を終えて外に出る。とりあえず防犯カメラ、目撃情報。全てを漁ってゾエの現在地を把握する。しかし相手がホームズなら無駄足になる。恐らく殺されるまでの時間は長くて、これから20分。そして現場まで屋根の上を走っても7分が良いところ。どう考えても時間が足りない。
そもそも24時間しっかり護衛しろというのは、無理な話。もっと言うなら相手が能力持ちで返り討ちに遭う可能性が高いため、部下にも任せられない。
こればかりは最初から防げない事件だ。しかし、それでも私達はゾエを守らなければならなかった。自分達が無力過ぎて反吐が出る。
「不可能でもやる。しかし望んだ結果が得られるわけではない。人は神じゃないからな」
「私は人というのは神だと思いますね。私の世界には『人間が想像出来ることは必ず人間が実現できる』という言葉があります。それを信じるなら人間は全知全能。間違いなく神です。でも私はゾエを……」
「まぁ詳しい話は後だ。急ぐぞ!」
「はい!」
それから私達は駆け回った。しかしゾエを見つけることは出来なかった。
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