第25話 ユルサナイ
目を覚ます。体の痛みは既に殆どない。
私はベットから出て、顔を洗う。
しかし、それにしても良いベッドだ。おかげでぐっすりと眠れた。
「おはよう。ララちゃん」
「おはようございます。リコさん」
「歯を磨き終わったら、朝食が出来てるから来てちょうだい。その時に夜中に帰ってきた同居人も紹介するわ」
「わかりました」
そうして私は洗面所に行き、歯を磨く。
同居人。それは一体どんな人だろうか……
そんなことを考えながらダイニングに行った。するとリコがトーストを頬張りながら私の方を見る。
「リコさん。同居人の方は……」
「まだ起きてこないわね。まぁあの子は朝が弱いし、もう少し時間はかかるんじゃない」
そんなことを言いながらリコは私の方にカードを半分程投げてくる。どこからどう見てもただのトランプだ。これで一体なにを……
「ただ食べながら待つだけなんて退屈でしょ? だから簡単なゲームをしましょう」
「ゲームですか……」
「ポーカーよ。ララちゃんはルールは分かる?」
「はい」
「それなら良かったわ。それじゃあ始めましょう」
そうして配られた5枚のカードと目の前に置かれたステーキサンド。さすがに目の前で普通のトーストを食べてた人の前でステーキサンドを食べるのは気が引けるものが少しある。
「遠慮しなくていいわよ。私はステーキが嫌いだから」
「ステーキが嫌いなんて珍しいですね」
「厳密に言えば脂が嫌いなのよ。特に和牛。あれは胃もたれ起こすから絶対に食べたくないわね。でも脂が乗ってない安物の肉を使ったステーキは好きよ」
「もしかしてこの肉って……」
「知人から頂いたA5和牛よ。もっとも私はそんなの食べないのだけど、捨ててしまうのは勿体ないでしょ?」
なんて高級なものを……
しかもそれを朝に。絶対に胃がもたれるではないか。なんなんだこの女は……
「誰から貰ったんですか?」
「ソフィアよ。あの子とはプライベートで友人だから」
「ソフィアってまさか!?」
「この前に起こった平和革命。その戦いの末になった女王で間違いないわよ」
平和革命。かなり大きな事件だ。第二王女ソフィアが多数決制度を利用して誰一人殺すことなく王位を奪った。その結果として騎士団の体制は見直されて、死刑制度は完全撤収。それに革命軍との和解もしている。
「……多数決で全てが決まる。ほんとにふざけた制度よね。こんなに簡単に王位を取れてしまうのだから」
「でも、多数決で勝って王位を奪うなんて前代未聞ですよ」
「まさか、本当にただの多数決でソフィアが勝ったと思ってる?」
「どういう意味ですか?」
「言わないわよ。教えたら国が無くなるわ」
国が無くなる。それはどういう意味だろうか。今の私には少しよく分からない。ていうかリコがどうしてここまで知ってるのだろうか……
「それに平和革命の主犯は私よ。だから裏事情は全て知ってるわ」
「ええええええええええええええええええええ!!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。気に食わなかったから、少し国盗りをしただけよ」
「気に食わないって理由で国盗りって……」
「悪い?」
「いや、出来るものなのかなと……」
「出来るかどうかじゃないのよ。やると決めたらやる。それだけよ」
そんない歴史が覆る話をしながらポーカーをしているが全然勝てない。ハッキリ言って強すぎる。電子ゲームで負けっぱなしだから弱いと思っていたのだが……
「それじゃあ、なんでリコさんが王様じゃないんですか?」
「仕事が面倒だからよ」
「ならニートでもしてればいいじゃないですか」
「それは嫌よ。仕事が無い人生というのはつまらないものなのよ。それに騎士団の仕事は頼めばソフィアが王様命令で私に有給をくれるから楽よ」
「ええ……」
なんとなく読めてきた。革命を起こしたのはリコ。そして王様の仕事は面倒だからソフィアという代理を仕立て上げた。そしてリコはソフィアからの援助を受けながら遊んで暮らしていると……
ほんとにこの人は自由奔放だな。
「働けば分かるわよ。仕事っていうのはお金だけでやるものではないからね」
「そればっかりはよく分かりません……」
「分からなくてもいいわよ。最終的にどんな手段でも人生を一番楽しんだって心の底から言えたらいいのよ。人生を楽しむ方法の一つが働くことって勝手に私なりの答えを出しただけだから。ララちゃんが楽しいと思えることをしなさい。もちろん法に触れない範囲でね」
「まるで母親みたいなことを言いますね……」
「癪に障ったのならごめんなさい」
そうしてリコが手札を公開する。見事なロイヤルストレートフラッシュだ。完全に敗北が確定するため。そして欠伸をしながら一人の女の子が下りてくる。私は彼女の姿を見て腸が煮えくり返りそうになる。どうして彼女がここにいる!
「おはようございます……リコさん」
「おはよう。リリアン。ご飯な……」
私は剣を出してリリアンに飛ばす。私から全てが奪った人間のクズ。今ここでぶち殺してやる!
「……まぁそうなるわよね。しかし本当に能力持ちだったとはね」
「そこを退け!」
しかし剣は届かない。リコに弾かれて剣は天井に突き刺さる。それから何度も飛ばすが全て受け止められてリリアンには届かない。
「嫌よ。私の目の前では誰一人殺させないわ」
「この女は!!」
「あなたを虐めてたんでしょ? 把握してるわよ」
「それなら……!」
「虐めてたなら殺してもいいのかしら? それは違うでしょ」
もう話にならない! それならリコも殺してリリアンも殺す! 最初からそうすれば良かったんだ。邪魔をするなら殺す!
「すごい殺気。でも、ララちゃんに私が殺せるかしら?」
その時だった。足がすくんだ。まるで鬼を目の前にしたようだった。殺される。ロジャーに弾丸を打ち込まれた時の倍は怖い。私は間違いなくここで死ぬ。
「もう一度だけ聞くわ。あなたに私が殺せる?」
私は力強くリコを睨むことしか出来なかった。完全に舐めていた。どこかでリコを下に見ていた。しかし彼女は腐っても騎士団の隊長クラス。この世界においてトップクラスの存在なのだ。
「そう……どうやら暴れ足りないみたいね。それなら気が済むまで私が本気で相手になってあげるわよ」
「舐めやがって!」
その時、既にリコは私の目の前にいた。
あまりに速くて目で追うことすら出来ない。そしてリコは私のお腹を慣れた手付きで撫でる。
「思ってたよりスベスベね」
「なんのつもり!」
「理解しなさい。私が手にナイフを持っていたらあなたは腸を地面にぶちまけていたのよ」
私は膝をついた。間違いなくリコがその気なら私は死んでいた。今の私はリコに生かされているに過ぎない……
「どうして殺さないんですか?」
「人殺しは嫌いなのよ。とりあえず暴れる気がないなら席に着きなさい。色々と思うことはあるだろうけど、話し合いましょう? 過去と未来について」
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