第20話 最大のピンチ

「ふへ~」


 私はベッドに体を投げる。家は全焼してしまったので仕方なく高級ホテルで寝泊まりすることにした。もっとも金はたい焼き屋のおっさんから奪ったものだが……

 そしてベッドで寝そべりながら常備している手鏡を見る。そこには左半分がリボンで出来ていて、右半分は青紫色に腫れている。腫れている理由はよく分かる。あの女が私を蹴り飛ばしやがったからだ。


「可愛くないわね」


 そして手鏡を投げ捨てる。改めて、あの蹴りの威力はあまりにも高かったことを再認識する。さすが騎士団の第三部隊の隊長を任されていることだけはあると言ったところだろう。もしも彼女を殺すのなら、しっかり計画を練らねばならない。


「……明日には一人は殺しましょう」


 先程、シャワーを浴びた。しかし物足りない。やっぱり血のシャワーじゃなければ私は満たされないのだろうか? 生温い血を全身に浴びてみたい。そんな欲求が日に日に強くなっていく。もしも血を浴びたらどんなに気持ちいいだろうか?


「学校と命どっちが大事かって言われたら学校よね。だって命は奪えるけど学校という概念は無くせない。だから学校の方が大事なんだろうな。だって壊れない方が大事なものなのは当たり前でしょ?」


 価値があるもの。それは壊れないものだと私は思う。

 最近の世の中では命は重いという風潮だが、そんなことはない。命なんて言うのは指を鳴らす程度で奪える軽いものだ。軽すぎるのだ。それに少し外に出れば、そこら中の転がっている。それなのにどうして重いなんて言えるのか私は心の底から気になる。


「いやぁどうだろ? 学校も命も等しく価値はないと僕は思うよ」


 そんなことを考えていると天井裏からひょっこりと大きなバッグを背負ってガブリエルが現れた。

 これでも一応は高級ホテルなのだからセキュリティはしっかりしてほしいと心の底から思う。


「この世界で価値があるのはリコだけ。他はすべてゴミクズ以下。もちろん君も含めてね」

「そんなことより、あんた……なんでここにいるの?」

「いやぁホームズ先生から君を見張れって指令が来てね。しかもこの街には、まだリコもいるみたいじゃないか。リコがいるところに僕はいるのさ」

「随分とキャラが変わったわね」

「ララが変わったんだから僕も変わるべきだろ? それに僕はこれでもWeb作家。自分のキャラを作るくらい造作もない。中二病から紳士、そしてド変態。どんなロールプレイも出来る。もちろん今もロールプレイ中。本当の僕は誰も知らないのさ」


 こいつと話してると疲れる。さっさと帰ってほしいのだが、そういうわけにもいかないだろう。いっそのこと殺すか? いや、ホームズ先生に怒られそうだからやめておこう。


「それとホームズ先生から資本金を貰って来たよ。これで当分は遊んでくらせるぞ」

「そう……」

「それと君にプレゼント」


 そういうとガブリエルは持っていた大きなカバンを開けた。すると、そこには手足をグルグル巻きにされた男性が入っていた。黒髪で髭がもじゃもじゃな男。彼に見覚えはない。彼は一体何者なのだろうか……


「そこら辺を歩いていた男を拉致って来た。名前は知らない。ただ、ララもそろそろ人を殺したくなるところかなと思ってね」

「そうね。ありがとう」


 私は指を鳴らして剣を出す。これで血のシャワーを浴びられる。男は私の剣を見て驚いた表情を見せる。


「ちょっと待って。僕はこの男の断末魔が聞きたい」


 これから血のシャワーを浴びる。そんな時にガブリエルが割って入ってくる。そして男の口からガムテープを剥がす。すると男は落ち着いた声で喋り始めた。


「……ったく。スックラ団長と同じ能力持ちかよ。めんどくせぇ」


 これはヤバい! 私は本能的にそう感じて剣を何本も飛ばす。しかし男は全て見切って回避する。しかも手足がガムテープで縛られた状態で……


「ガブリエル! この男はなに!」

「わからない!」

「そう喚くな。俺はロジャー。まぁあれだな。リコに仕える騎士団の第三隊の一員でおとり捜査をしていた。リコ隊長も面倒な依頼をしやがる。もっとも美味い酒を奢ってくれるから引き受けたが……これは俺じゃなきゃ死ぬな。リコが俺に依頼した理由がよく分かるぜ」


 そう言いながら『ふんっ』と言いガムテープを引き裂いて、男の身は自由になる。完全に嵌められた! リコはガブリエルが来ることも、彼が誰かを拉致することも読んでいた。そして彼はどうやったか知らないが、自分を拉致るように仕向けた……


「お前らが俺を選んだのは偶然じゃねぇ。単純に空気を操ったのさ。俺を拉致したくなる空気というやつさ」

「あなたも能力値……?」

「違うね。空気っていうものは表情とかで簡単に変えられる。お前らだって表情から怒ってるとか悲しんでるとか見極めるだろ。それだよ」

「化け物……」

「それはお前だろ。顔面の半分がリボン。そっちの方が化け物じゃねぇか。気持ち悪い」


 それから男はのんびりと近づいてくる。私も剣を何本も作り、抵抗する。しかし

男は全て見切っているかのように避けていく。まるで未来予知。ダメだ。これは奥の手を切るしかない。そう思った時だった。男は一方後ろへと下がった。そして男のいた場所に無数の剣が出来て、落ちる。


「体内に剣を作り、内蔵を切り裂く。素人がやりそうなことだな。お前の剣は恐らく座標指定して生成、そして噴射と操作をする。そして座標指定してから生み出すまでの時間は約2.5秒か。いつ作り出したのか分かれば簡単に避けれるな」

「ララ。ごめん。僕のミスだ」

「ガブリエル。あんた、覚えておきなさい」


 考えろ。この危機をどう乗り越える? 頭を回せ。なんか突破方法があるはずだ。

 私は必死に頭を回す。しかしなにも思いつかない。それでも今は……


「さて、覚悟しろよ。悪党共。俺はリコみたいに優しくねぇから手加減した蹴り一発なんかじゃ済ませねぇぞ?」


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