第8話 悪役の生誕祭

「奪われた者には奪う権利がある。全てを奪われた弱者ララ。君には奪う権利がある」

「でも……」

「舞台は私が整えよう。物語にバッドエンドはあってはならない。泣き寝入りの物語はバッドエンドだ。だからララ君は自分の物語をハッピーエンドに書き換える必要がある。そしてそのために必要なのは覚悟だ。全てを奪い、なにがなんでもハッピーエンドにする覚悟が必要だ」


 覚悟。それは死んででも成し遂げるという意思の強さ。私に足りないのは意思だと……


「悲劇を悲劇で終わらせてはならない。だから君は――戦え。そして抗い、全てを嘲笑え」


 その覚悟が私にはあるのか。

 そんなことを考えてると、私にある感情が湧いてきた。アイツらが憎い。全てを奪ったアイツらが笑って日常を過ごす。それが憎い。アイツらも同じ目に合うべきだ。


「覚悟は出来てません。でもアイツらが笑ってるのが憎い。アイツらを落とすためなら私はなんだってする!」

「ほう?」

「だからホームズ先生! 私に復讐する手段……武器をください! 私はアイツらから全てを奪いたい!」

「いいとも。その返事を待っていたよ」


 覚悟なんて大層なものはない。あるのは絶対に痛い目に合わせるという執念のみだ。どんな手を使ってでも、地獄を見せてやる。私が受けた痛みをそのまま味合わせてやる!


「ファニーにゾエにエステル。そしてリリアン。私が復讐したいのはこの四人」

「……なるほど。それなら順番通りにファニーからいこうか」

「しかし復讐とはなにをするんでしょう?」

「そうだね。一番簡単なのは拷問じゃないか? あれは拉致して痛めつけるだけだから手間がかからないから良い。しかし二時間足らずで終わってしまうのがデメリットといったところだろうか。でも獲物は四人もいる。一人くらいチュートリアル感覚で無駄にしてもいいんじゃないか?」

「でも……」

「そうだね。ならどうでもいい学生を一人実験台にしてみてはどうだろうか?」

「いや、無実の人を巻き込むのは、ちょっと……」

「無実? おかしなことを言うものだ。君のクラスメイトはララ君が虐められてるのを見て見ぬ振りをしたのだろ? それは罪ではないか?」


 あの状況では仕方ないの。もしも虐めを止めようものなら自分に矛先が向く。だから止めるのは、とても勇気のいることだ。それをしなかったから罪というのは少しだけ違う気がした。


「もしも彼らが少しでも勇気を振り絞れていたら君は全てを失わなかったのだよ。助けられる人を助けなかった。それを罪と言わず、なんというのかね?」

「それでも私は……」

「見殺しは等しく罪だ。ララ君もそれを理解した方がいい」

「はぁ……」


 そうして私達はコーヒーを三杯くらい飲んで、少し話し合ってから家へと帰宅した。ルナさんは出かけているのか、家にはいなかった。


「まだ気乗りしないみたいだね」

「ホームズ先生の言いたいことは分かりますし、間違ってはいないと思います。しかしどうも私は見殺しが悪だと思えなくて……」

「なるほど。感情は理屈じゃないというくらいだし、仕方ないのかもしれないね」

「すみません……」

「感情は理屈じゃない。しかし理屈で動かないと物事は失敗する。私はララ君には感情を殺して理屈で動ける人間になってほしいと思うね」

「善処します……」


 私はそれだけ言って、台所に移動した。最初のうちはホームズ先生が料理をしていたが料理くらいは出来るようになった方が良いということで必死に覚えた。そのお陰で『炒める・焼く・茹でる』の三つの動作だけは覚えた。おかげでシンプルな料理だけなら、なんとか出来る。そして今の課題は揚げるである。


「ホームズ先生。晩御飯の注文はありますか?」

「そうだね。小腸とトマトの炒め物でお願いするよ。小腸なら私が買って冷蔵庫にあるはずだよ」

「分かりました」


 私は冷蔵庫から味噌漬けにされた小腸を出して、ブツ切りにしていく。そしてトマトはサイの目切りで細かくする。メインは小腸であり、トマトではない。トマトは引き立て役だから、目立たせないように心がけて……


「そういえばホームズ先生。少し前に私にキャンバスライフを楽しめって言いましたよね」

「言ったね」

「それって学園島での生活を指す言葉で私には当てはまりませんよ」

「そういえばそうだったね。教授の時の癖が抜けなくてね」

「教授? もしかして学園島で講師をしてたんですか?」

「いや、前世の話だよ。実は私は前世の記憶があってね」

「ホントですか?」

「ああ。ホントだとも。これでも大学では社会学と数学の講師をしていてね」

「大学?」

「学園島のようなものだよ。学園島と大学は殆ど同じと言っても過言ではない。もっとも島一つを全て学校にするほど狂ってはないがね」


 学園島。世界で一番頭の良い学校で、この国の大臣などが排出したりする。無事に全ての単位を取得すれば、どんな仕事にも就けるという都市伝説すらある。

 もっとも私には関係のない話なので詳しく知らないが。


「ホームズ先生はなんで死んだんですか?」

「墜落事故。飛行機が不慮の事故で墜落してね」

「飛行機?」

「まぁそこら辺は、そのうち話すとしよう」


 私は今の話で確信した。恐らくホームズ先生の前世はこの世界ではないどこかだろう。そんな気がしてならない。私はホームズ先生について少し考えながら、料理を完成させる。そして料理が完成すると同時に玄関と扉が開いた。


「ただいまー」

「おかえり。ルナ。私の頼んだものは持ってきてくれたかね?」

「もちろん!」


 そうしてルナさんは人を投げた。しかもよくよく見ると私のクラスメイトだ。手足がロープで縛られていて、口にはガムテープで喋れないように、目隠しでなにもみえないようにされている。


「そういえばララ君には言ってなかったね。ルナは人攫い屋であり、殺し屋なんだよ」


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