第16話 ホームズ・モリアーティの答え合わせ
「ふむ。ララ君の親が死んでいた。だから君は犯人を知りたいというのだね?」
「はい!」
新聞で私の親が何者かに殺されたことを知った。不思議と私の中に犯人に対する怒りが湧いてきた。親がなにかしてくれたわけでもない。しかし何故か悲しみが湧いて、憎しみが湧いて……ぶち殺したいと思った。
「犯人を見つけて、どうするのかね?」
「殺します。生まれてきたことを後悔するまで、嬲り殺し……」
「心底どうでもいい。そんなくだらないことを私に報告しないでくれるかね」
私はキレた。ホームズ先生はなにを言っている?
今まで私を助けてくれた。それなのに、どうして今回は助けてくれないのか。あまりのその行為は無責任ではないだろうか?
「今回は人が二人も死んでるんですよ?」
「ふむ。おかしなことを言うね。ララ君。君は二人も殺してるではないか。私は自分で人を殺してる癖に、身内が殺されたから怒るのはどうかと思うのだよ」
「ん?」
「君が殺そしたファ……なんだっけな? 今は手元に手帳が無いから名前は思い出せないな。まぁいい、Aさんとでも呼んでおこう」
「……なにが言いたいんですか?」
「Aさん。彼女にも家族がいたのだよ。そして、その家族はきっと今の君みたいに怒り狂ってるだろうね。つまり君は人殺しである以上は親しい誰かを殺されても怒る権利はない。君が歩んだのはそういう道じゃないのかね?」
なにを言っている?
私は特別だ。つまり怒る権利がある。そこらの凡人共とは違う。
人殺しというのは私に与えられた権利だ。私は虐められて、全てを奪われた。だから人殺しをしようが許される。しかし私以外の人間が人殺しをするのは別だ。
「……その目。まさか本気で私に言ってることが理解できないのかね?」
「はい。私は虐められて、全てを奪われた特別な人間です。だから私は人殺しを世界から許可された人間ですよね?」
「続けたまえ」
「続き? ありませんよ。私は特別な人間だから殺しは許される。でも私の親を殺したのは普通の人。だから裁かなければならないんです」
「言っていることが支離滅裂になってるいる……」
「どこがですか?」
「自覚無しか。完全に壊れてしまったようだね」
「私の言っていることって間違ってますか?」
それからホームズ先生は作業を中断し、それから椅子を回転させて、私のほうを向く。それも優雅に指を組んで、手の甲に顎を乗せながら。
「いいや。120点の回答だよ。狂うように仕向けたのは私だが、ここまで思考がぶっ飛ぶのは予想外。満足だよ」
「私にも分かるように説明してもらいます?」
「私は君を使って一つの確認をしたのだよ。虐められた人間から倫理観を奪い、武器を与えたらどうなるのか」
それからホームズ先生は囁くように言う。ただ虐められていただけではダメ。メンタルが弱くなければならないこと。理由としてはメンタルが弱くなければ、倫理観は崩せないから。だから虐められていて、自殺寸前になるくらいメンタルの弱い私が選ばれた。
そして無事に倫理観を奪い、絶対に証拠を残さず殺せる手段という武器を与えた。その結果として私はファニーを殺害した。
「つまり、君がどうなろうが私はどうでもいいのだよ」
「……なんのためにそんなことを?」
「そうだね……データが欲しいのだよ。私は『あるもの』を探している」
「それは?」
「殺人トリガー。言うならば、どうしたら人は人を殺せるようになるのかという明確な基準だね。君意外にも色々な人で実験した。その結果として『倫理観を壊す』というのが重要であると言うことが判明した」
私はゴクリと唾を飲む。殺人トリガー。それが解明されると、どうなるかというのは分からない。しかし凄いことになるのだろう。
「しかし倫理観を壊すというのは難しい。しかし私は、なんとか『それ』を見つけた。あちとは実際に試してみて、間違っていないか確かめる。そして君が選ばれた。ガブリエル君はそれを人工的にサイコパスを作る行為と言ったが、ある意味そうかもしれないね」
「……満足しましたか?」
「概ねは。これで私の倫理観の仮説は証明された。しかし今はメンタルが弱い人にしか出来ない。しかし将来的には、メンタルが強い人の倫理観も破壊したい。そのためには、また一から研究しなければならないな」
それからホームズ先生は立ち上がり、私の後ろの方に行ってドアにカギを閉める。まるで退路を断ったかのようだ。彼はなにをする気なのだろうか?
「……リコという女を知っているよね?」
「それが?」
「彼女に人殺しをさせる。それが私の次の研究に大きく役立つ気がするのだよ。彼女を少し調べた。リコはメンタルも強く、正義感も強い。言うならば絶対に人を殺さない人間だよ。彼女が人を殺せば大きく私の求める答えに近づくと思うのだよ」
「なんで、その話を……」
「幸いにもリコは君に目を付けた。だから君を泳がせれば、リコを釣れると思ってね」
それからホームズ先生は私の眉間に銃を向ける。まるで殺すと言わんばかりに。
私が馬鹿だった。この悪魔を信用した私が馬鹿だった。私は信じる人間を間違えた。改めて、その事実を強く認識した。
「君に二つの選択肢を与えよう。ここで死ぬか、私の手駒になるかだ」
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