第15話 ありえない

「ルナがミスをした。そして、この街にリコが直々にやってきたと」

「うん」


 ルナさんがゾエの拉致に失敗した。ここに来て私の復讐の雲行きは怪しくなっていた。そこで思い知らされる。今まで順調だったのはルナさんが簡単に拉致をしてくれていたからだと。


「……リコ。軽く手合わせしたけどめちゃくちゃ強い。あれは完全に人間をやめてるレベル。これはこっちも本気でいくしかなさそうね」

「ルナ。奥の手は隠すべきだよ」


 そうしてルナさんはポケットから紫色の薬品の入った注射器を出す。あれはなんなのだろうか?


「あーそういえばララちゃんは知らないんだよね。これはXXダブルエックスっていうお薬よ。打つと三日は寝込むけど、身体能力を何十倍にも増幅させるの。言うならば私の最後の切り札。もっとも違法薬物だけどね」

「それじゃあ……」

「んーどうだろ? これを使ってもリコとは五分五分かな。あの女の身体能力の高さは異常なんだよ」


 そんなことを言いながらルナはガーディアンを脱いだ。するとなにかが引っかかっていたのか小石くらいの金属片が零れ落ちた。


「なにこれ?」

「ふむ。小型の発信機だね。恐らくリコという女が戦闘中にバレずに付けたのだろうね」

「え……」

「つまり最悪だ! この位置まで割られたということだ!」


 なんていうことだろうか。状況は最悪この上ない。つまり下手したら今すぐ騎士団がここにやってきてもおかしくない。そんなことを考えてると外を見ていたガブリエルが大慌てでこっちの方にやってくる。


「みんな! あのリコだ! リコがこちらに向かって単独でやってきている!」

「恐らく、ここで我々を捕まえるつもりだろうね。ここまで追い詰められたのは数年ぶりだ。まったく……面倒なことになった」


 そんなことを言いながらホームズ先生は先程買ってきた樽を足で破壊する。そして中から鼻を刺すような刺激臭。考えるまでもなく、それがガソリンだと分かる。


「ララ君。ガブリエル君。騎士団はいつ諦めると思う?」

「私には、あの女が諦めるとは思いませんが」

「同感。リコが諦めるわけがない」

「騎士団が諦める時。それは犯人が死んだ時だよ。どんな優秀な人間でも、あの世までは追って来ないと私は思うのだよ」


 まさか! ホームズ先生は私達をここで殺して逃げるつもりか!

たしかに考えてみればホームズ先生に私達を助ける義理はない。しかしそんなのって……


「ララ君。勘違いしてないかい? 実際に死ぬわけじゃない。死を偽装するだけだよ。幸いにもここには死体が二つある。そして私とガブリエル君は騎士団にばれていない」

「まさか……」

「そう。性別が分からなくなるぐらい高温で死体を燃やして、消し炭にする。それを君とルナだと偽造する。すると騎士団は犯人は死亡したと思い、諦めるだろう」

「なるほど……でも、そんな簡単に出来るでしょうか?」

「さぁ? でも存在してるかどうか不明の犯人を追うのは精神的にかなり疲れるのだよ。いくら優秀な騎士団の一人といっても、そう長くは持たない。恐らく一か月も大人しくしてれば諦めると思うよ」


 おかしい。まるでホームズ先生の用意が良すぎる。まるでこうなることを分かっていたかのようだ。もしかしてホームズ先生は私が騎士団に疑われた時から、この計画を考えていたではないだろうか? そして動揺した振りをして私達を騙してルナを行かせた。ルナが失敗するのも、騎士団に発信機を付けるのも全て思惑通り。しかし私達を騙す必要は……


「さて、ファイヤー!! といこうか!!!」


 そういってホームズ先生は家を燃やした。火の手はあっという間に広がり、家を燃やし尽くしていく。私達は裏口からコッソリと誰の目にもつくことなく、その場から逃げ出す。


「さて、とりあえず一か月は街を離れようか」

「何故ですか?」

「防犯カメラで姿を見られたら台無しだからね」

「なるほど……」


 そうして私達は生まれ育った町を後にした。そこからは簡単だ。ホームズ先生が用意した馬が二頭。それに乗って見知らぬ山に行き、山小屋に身を隠す。

 私達は完璧に逃走した。


山小屋に身を隠して数日が経った。そこで私はホームズ先生が買ってきてくれた新聞を読む。あのあと、どうなったのか知るため……

 そこには『少女ララの家から焼死体が二つ! 自殺か!?』というセンスの無い大きな見出しと共に詳しい流れが書かれていた。内容としてはララが殺し屋に依頼して、ファニー、ガブリエル、トムを殺害。そして最後は殺し屋と共に焼身自殺。動機は不明。


「……トムって誰だろう?」

「トムはファニーの彼氏だ」

「なるほど」


 新聞を読む私の横でガブリエルが補足する。新聞には不思議なことに虐めに関することは一切書かれていなかった。そしてリコが調査したということも。だが、これが騎士団のこの事件の正式な発表らしい。


「そして行方不明者は死体は出てないが、恐らく死んでるだろう……か」


 恐らく騎士団が関わってくることはないだろう。つまりまだ復讐を続けられるということだ。私はそんなことを思いながら、もっと深く新聞を読む。


――すると予想外の一文が出てきた。


 私はそれに思わず言葉を失う。そんな! 一体誰が……


『また近くの沼地でララの両親の死体を発見。死後から約一ヶ月近く経過。その犯人も恐らくララだと思われる』


 


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