第5話前編 彼女の恋は、満月の夜空のように残酷で美しい
健斗と陽菜と別れてから、俺は涼香と家路についていた。そして先ほどから俺は少し緊張をしている。
その理由はというと……
「ちょっと、話がしたいから……、近所の公園までいかない?」
「え、いいよ?どうしたの?」
「俺の小学校の時の話さ」
そう俺が言うと、涼香は真剣な表情をしてから、黙って首を縦に振った。
涼香の家の近くにある公園まで移動し、ベンチに腰かけて話を始める。
「改まってこうすると、どこから話していいかわからないな……」
「ゆっくりで、自分のペースでいいよ?」
「ありがとう」
なかなか話しだせない俺に涼香は優しく笑いかけてくれる。そんな彼女に対して安堵と感謝の気持ちがわいてくる。
しかし今だなお、話すことにためらいを持っている自分に嫌気がさしてしまう。いずれ話すということは決めていた。
朱里とのことを向き合うのに少なからず俺の背中を押してくれた。きちんと向き合う機会をくれた、いわば恩人のようなものなのだ。だから、一足先に言っておきたかったのだ。
しかしためらってしまうのは、俺が涼香を信じ切れていないからなのだろう。俺はこの話をしてしまうと、心のどこかで嫌われてしまうのではないのかと考えてしまっているのだ。情けない、どうしようのないほどに情けなくみじめな自分を知られることで。
俺は散々大切だなんだとほざいていながら、結局は逃げてしまった情けない、臆病者の薄情者だ。どうしようのないやつだと、見放されてしまうのではないのかと考えてしまうのだ。涼香はそんなことはしない。それは頭では分かっていることだ。
しかし、体がなぜか嫌がり、避けようとしてしまうのだ。だが、話すなら今しかないと思うのだ。自分の中で整理の付いた今しかないのだ。
俺は自分の中の拒否反応と戦うため、一つ深呼吸をする。そして、ゆっくりと話し始めた。
私は智樹君と一緒に近所の公園のベンチに腰掛けていた。それは彼が私に、自分の昔の話をしてくれるというからだ。
小学校の時に、私は彼が校外で何をしているのか気になり、それからよく考えるようになっていた。彼に対しての好意を自分でも気づいていない頃は突拍子のないことばかりを想像しては笑っていたのを覚えている。
しかし、彼に対しての好意を自覚してからは、嫌な想像ばかりをしてしまっていて、よく悩まされていたものだ。もしその想像が当たってしまっていたら、私は最後まで彼の話を聞くことができるのだろうか……。
それは自分でもわからないことだ。しかし、私はもう彼の話を聞くしかないのだ。長年考え、悩んでいた問題。それが今日、その答え合わせができるのだ。
私ははやる気持ちを押さえつけて、彼の話を静かに聞く。
「俺には、幼馴染がいたんだ……、市原朱里っていうんだ。雪のような白い肌をしてて、綺麗な黒髪で、笑うとかわいい娘だった」
そう話しはじめた彼の表情からは、彼女に対する彼の気持ちが痛いほど読み取ることができた。
その時、私は嫌な想像が当たってしまったと思った。そしてそれと同時に、彼の昔話なんて聞かなかったらよかったなんて思ってしまった。我ながら最低だと思う。
しかしこればっかりはしょうがないことだ。今私の胸はこんなにも苦しく、痛いのだ。どうしようもなく、自分でも意味が分からないほどに。
知らなければ、分からなければ人は鈍感でいられる。鈍感でいられれば、何も考えずにまっすぐに一点だけを見つめていられる。何も、邪魔なモノなんて何も映ることなく、見つめていられる。
彼の過去に何があっても、今の彼の隣には私がいるし、私だけしかいない。ゆっくりでいい、ゆっくりでいいから彼にとって大切な存在になれたらいいなんて思っていた。
しかしそれは、今となってはかなわぬことだ。彼の話を全部聞いてしまうとダメになってしまうと、そう直感した。どう頑張っても、彼にとっての一番大切な存在になんてなれないのだと、そう思ってしまった。
事実、彼の隣には私しかいないのに、彼は私だけを見つめてくれることはなかったのだから。いや、私だけなんて言い方は間違いなのかもしれない。彼が見つめてくれるとしたら私たち。
でも、現実は違う。彼女しか、市原朱里しか見ていなかったのだ。彼はずっと、彼女しか見つめていなかったのだ。時たま彼が見せる悲しげな、しかし少し楽し気な表情は、彼女のことを想っていたからなのだろう。そう思い返し、結論付けると、私の中ですべての疑問がすっきりと解決した気がした。
ならば、もう聞かなければいい。そうすればもうこれ以上傷を広げずに済む。そんな考えが私の中でぽつりと生まれてきた。
しかし、そうはいかない。もう止めることはできないのだ。もう彼にとって一番大切なモノになれないのだとしても、やはり私は彼にとって大切な存在でありたいのだから。
だから私はこのままじっと、彼の昔話に耳を傾けるのだ。
「出会いは物心がついた時にはもうすんでいた。俺たちの両親が仲良しで、よく一緒に遊んでいた。あの時の俺は楽しくって、うれしくって、いろんなところに一緒に言って遊んでたんだ。そして、こんな毎日がずっと続くんだろうなってただ理由もなく、漠然と思っていた」
そう言った彼の表情と声はどんどん暗くなっていく。それは今から彼が話す内容に同調しているかのように……。
「小学校に上がって二か月ぐらい過ぎたころだった。朱里が突然倒れた。俺はその時朱里と一緒にいて、怖くなってわんわん泣いたのを覚えているよ。朱里のお見舞いに行ったときに、朱里の両親からは心臓の病気だって聞いた。その時の俺はまだ餓鬼だったから、『すぐに治るよね?』なんて何の考えもなくいったんだ。その言葉に笑顔でうなずいてくれた朱里の両親には残酷なことをしてしまったなぁ……」
そう言って自分のこぶしを強く握りしめる姿は、今すぐに抱きしめたくなるほどに痛々しく、弱々しいものだった。
きっと彼にとってそのことを思い出すこと、話すことはとても苦痛なことなのだろう。しかしそれでも話してくれるということは、どうしても私に知ってもらいたいということなのだ。私は今まで考えていた情けない考えを改め、彼のほうを改めて向く。
しかし、彼の話しぶりから察するに、朱里さんは今もなお病気と闘っているのかもしれない。そして考えたくはないことだが、もしかするとすでに……。
彼は食いしばった歯を緩め、ゆっくりと続きを話しはじめた。
「俺はそれから毎日朱里に会いに行った。何があっても、必ず……。会ってすることなんて、ほんと他愛のないことばかりだった。その日学校であったこととか、読んだ本の話とか、病室でできるゲームとかもしたなぁ……。それでいつの間にか病院で友達ができたりしたこともあったな、二人ぐらい。それでよく一緒に話したり遊んだりしたもんだった……」
そう言って懐かしむ彼の表情は幸せな表情と自暴自棄になっている表情が混在しており、とても見ていられない顔だった。彼にとってその思い出は華やかな宝物であり、彼を縛り、痛めつけるいばらのようなものなのだろう。
しかし、彼が放課後に何をしているのかは疑問に思っていたが、朱里さんのお見舞いに言っていたなんて、正直一度も考えたことなんてなかった。ただ簡単に女のことだなんて浅はかな考えをして悶々としていた自分が馬鹿らしく、恥ずべきことだと改めて再認識させられた。
「でも、そんな日は長くは続かないもんだったよ――……」
一気に声のトーンが落ちた。それはまるで、私まで当時の彼の感情が分かるほどに、鮮烈に、そして様々な負の感情入り混じる混沌とした声だった。
「朱里の病状が悪化した。しかもすぐに手術を受けなければいけないほどに……。受ければ必ず助かるんならよかった、完治しないまでも、生きて俺と一緒にいてくれるのなら、俺はそれだけで満足だったんだ。でも、現実は、病魔はそんなに甘いもんじゃない!」
「失敗する確率のかなり高い手術、それも失敗したらしんじまう。おまけに成功したってまたすぐに病状が悪化するかもしれない!いつまた、おなじ手術を受けなくて話ならないほどに、朱里の容態は悪くなっていたんだ……」
顔を怒りにゆがめて彼はそう叫んだ。それは朱里さんに付きまとう理不尽に対してなのか、その理不尽を前に何もできない自分がいるからなのか、それは私にはわからない。ただ私にわかることは、彼が激しい悲しみと怒りにさいなまれていることだけだ。
「結果的に、朱里の手術は成功した。でもいつまた危険な状態に陥ってしまうかはわからない。俺は朱里が落ち込まないように、怖がらないように支えていこうと決意した。でも、そんな俺の決意はただの薄っぺらな暖簾みたいなもんだった」
そう空を見上げ、自嘲気味に笑う。その頬には滴が流れていた。
「朱里を支える、支え続けると決意した俺の前に突き付けられた現実は朱里の東京の病院への転院だった。でもそれは朱里にとっては一番いい選択で、東京ならいい医者がいっぱいいるし、もしかしたら病気が治る可能性だってあるかもしれない。だから俺は、遠くからでもいい、電話なり手紙なりで励ましたり話したりして、そうやって支えていければいいと思っていたんだ。いや、そうやって夢見て、都合のいいことばっかり考えて、それしか見ていなかった……」
流れる滴は止まることはなく、今もなお流れ続けている。その流れ落ちていく滴の中に少しでも彼の悲しみが混ざっていることを、私は願ってしまう。それほどに、目の前の彼の姿は痛々しく、悲しすぎるのだ。
「最後に朱里から俺に残されたものは、感謝と、もう二度と連絡も、会いもしないという手紙だった」
「な……なんで?」
彼の口から出た言葉に、私は自分の耳を疑った。そして思わず聞き返してしまう。
「はは……、朱里は見抜いていたんだと思うんだ、俺が薄っぺらで、弱々しいってことを……。そして自分が同じように弱く、そして比べ物にならないくらいに強いってことに」
「それってどういう……」
自嘲気味に笑いながら言う彼の言葉は私をさらに混乱させる。
彼女の、朱里さんの考えていることが私にはわからない。好きならば、大好きならばずっと一緒にいたいはず。いつ消えてしまうかわからない命ならば幸せに、いっぱい笑って死にたいはずだ。
なのに、なぜ彼女はそんなことをしたのだろう。それに彼のいう、弱くてつよいって言葉の意味は何なのだろうか。
「俺と朱里はいつの間にか互いに依存しあっていたんだ。互いに、相手がいないと自分を保っていられない、それほどまでに依存し、危うかった。だが、それは実際には少し違っていた。朱里は簡単に言ってしまえば危うい命におびえるのを和らげるのに、恐怖から逃げるために使う、薬のようなもの。つまりは絶対に必要なものだ。それに引き換え、俺は違う。朱里を失ってしまっても何もない。ただ悲しいだけ。何かの恐怖におびえるわけでもなく、ただ、普通の、ごく一般的な学生に戻るだけだ。ただ、一つのことを除いて」
「一つのこと?」
引っかかる言い方。それは重くのしかかる意味合いを持つのだろう。
「ああ、それは俺が本当に朱里なしではだめなほどに依存してしまうことだ。さっき言ったことと矛盾してしまうけど、朱里の俺への依存は恐怖への対抗としての薬だ。それはそういうものとして受け入れ、克服してしまえば別にいらないものでもある。実際に朱里はかなりの割合で自分の死の恐怖を克服していた。それは当然といえば当然なのかもしれなのだが、長い間病院生活でいつ死んでもおかしくないといわれ続けて生活してきたのだ。朱里の中で何かしらの覚悟が出来上がってしまっていたのだ。しかしそれでも人である以上は少なからず恐怖は持ってしまう。それを押さえるために俺を薬として依存していた。しかし俺の場合は違う。俺は長い年月、朱里と過ごしている中で朱里のことが、本当になくてはならない存在になり始めた。それは間違いなく悪い方向の依存という形で……」
「……」
何も言うことができなかった。私には軽々しく口を開くことなんてできない。それほどに、彼の言葉は重く、この場にのしかかってくる。
「それを感じ取った朱里は、俺を突き放した。俺がずるずると落ちていかないために。そして、自分もまたそれに引きずられてしまわないように」
彼の声音はだんだんと強く、悲しくなっていく。
「俺は強くあろうとしながら、弱くなっていた。想えば想うほどに、脆くなっていた。その笑顔を見れば見るほどに、俺は手放せなくなっていた……。そして朱里も、死を受け入れようとすればするほど、受け入れられなくなっていた。想えば想うほどに、あきらめきれなくなっていた。会えば会うほどに、離れることができなくなっていた……。薬も多ければ毒となる。俺という薬は朱里にとってはただの毒にしかならなくなっていったんだ……」
悲しみは依然高まり、声の強さはなくなっていく。
「俺たちに待っているのは、最悪の結末しかない。薄れていた恐怖にのまれて終わる、大切なモノをすべて失った抜け殻になる最後……。そんなものしか、俺達には用意されない。だから――……」
そう区切って彼は顔にこびりつく滴をシャツの袖で乱暴にぬぐい、続ける。
「朱里は離れていったんだ。それも、自分を守るためじゃなく、俺を守るために。自分の苦しみを、悲しみを、寂しさを、恐怖を者ともせずに。ただ俺のことだけを考えて!本当は一番怖いのに、一番つらいのに、一番泣いてしまいたいのに、一番寂しいのに……!!それなのに、俺よりも、朱里は強かったっ!!」
悲痛に叫ぶ。その叫びはどこに、誰に届くというわけもなく、ただ私たちのいる狭い公園の中で響いてこだまする。
「その提案に、決断に、俺は乗ってしまった。自分の中で薄々と気づいてはいたから……俺たちの先に幸せなんてものは、希望なんてものは存在しないってことに。だから、俺は手放せないはずのその手を手放してしまった!その時にわかってしまった!俺が依存していたのは好きで好きでたまらないからではなく、ただバカに、何も考えずにただ想い、好きでいれば夢の中にいられると思っていたからだ!」
遠くない先に見るであろう悲しい現実を、彼は一度考えてしまったのだろう。そして、見て見ぬふりをして真逆を、幸せな今という時間しか見ていなかったのだ。だから彼は昔も今も苦しんでいるのだ。
そんな彼の姿を見て、私にできることは、ただ彼の話を聞くことしかないのだ。
「……俺はあの時に目を覚ますべきだったんだ。最初の頃のように、ただ純粋に俺自身が朱里と一緒にいたかったと、楽しいからずっと一緒にいたかったんだとっ!ただ純粋に好きだからずっと、いつまでもずっと一緒にいたいんだとっ!!……そうすれば、俺はその弱々しくも、強い手を手放すことなく、今もずっと隣で握っていられたんだ!!」
「でもそれはっ……!辛いことがあれば、誰だって立ち止まることはあるよ……」
感情が氾濫し、彼の顔はくしゃくしゃになって、声もとぎれとぎれになる。それでも、彼は心の中から湧いてくる言葉を止めることはできない。
そんな彼の姿を見て私は思わず彼の真正面を向き、彼を肯定する。彼は自分を、過去を否定することしかできない。絶対に肯定することはない。なら私は、私にできることは、彼のことを、過去を肯定することだ。
「ああ、たしかにあるとは思うよ」
「なら!しかたな――」
私の言葉を遮るように、彼は叫ぶ。
「仕方なくなんてないんだよっ!」
「っ!?」
「立ち止まることはあったとしても、また進みださなきゃいけないんだ。ただ悔いるのではなく、自分を!朱里を信じて!想って!また進みださなきゃいけないんだ!!……過去をいくら悔いても、今が変わることなんてない……。なのに、俺は今まで悔いることばかりして、何もしようとしてこなかった。できそこないの、薄っぺらくて脆弱な覚悟しか持ち合わせていない俺は何もすることができなかった。俺は、失う怖さにおびえて、本当の自分らしさを、本当にあった気持ちから目をそらして逃げていたんだ!そうしないと向き合わなくてはいけないから!!朱里の死にっ!!」
全部わかっていて、それでもできない。それほどまでに、彼の中の彼女の存在は大きく、彼を縛り付ける茨なのだ。美しい花にはとげがあるように、彼にとって最も美しい花の彼女は彼にとっては最も鋭く、きつく縛り付ける茨なのだろう。
「朱里にとって一番いいのは残り短い命をより良いものにすることだ。いっぱい笑って、いっぱい楽しんで……いっぱい幸せを感じることだ!俺は、本当はその手助けをしなきゃいけなかったんだ!大切な人に、かけがえのない大切な人のために、この人生を、命を懸けて朱里を愛さなければならなかった!!なのに!結局人生を、命を懸けて愛したのは朱里のほうだった……。自分のことを度外視にして、俺のことだけを考えて朱里は自分の人生を、幸せを捨てて俺の先の人生を残したんだ」
彼の感情の激流は収まることを知らず、とどまることなく流れ出してくる。
「……でも気づくべきだったよ。朱里のいない俺の人生に色なんてないことに、楽しさなんて、幸せなんてないことに。何をするにでも、朱里がもしいたらなんて考えて、後悔して。俺の選択肢は一つしかないって気づいてないのに感じていた」
彼が彼女に対しての感情を、想いを吐露するのと比例して、私の中で何か重く、冷たく、そしてなぜだか暖かく熱いものがたまっていくのを感じていた。私はその正体がわからず、もやもやとイライラが混ざった何か嫌な感じを感じてはいたが、それについて詮索するつもりはなかった。
それは詮索してしまえば、はっきりとわかってしまえば、今までの私らしく振舞うことができないからだ。
「だから俺は、長い時間がかかってしまったけど、行動しようと思ったんだ。涼香や健斗が背中を押してくれたように!自分らしく、俺がしたいことを、してやりたいことをしたいと思うんだ!」
彼の決心した表情。その顔は私の大好きな彼の顔は、今までで最もかっこよく、輝いている。
「朱里は人生を懸けて俺の元から離れた。なら、俺は!人生を懸けて、朱里のものになる!」
そう彼が宣言する。その宣言は私にとっては判決の言葉。もうあきらめろと、もう彼の一番にはなれないのだと、そう言い聞かせる言葉。彼の話が始まった時からわかっていたこと。いや、彼と一緒に過ごしていく中で、うすうす気づいていたことだ。彼は私たちを見ているようで、実際は見てはいない。彼は私たちを通して、何か遠いものを、はたまた理想を見ていたのかもしれない。きっとその理想は私たちの輪の中に彼女がいるのだろう。健康で、楽しそうに笑い、動いている彼女の姿が、彼の眼にははかなげに映っていたのかもしれない。
ならば、私は彼に向って笑顔で、声をかけなければいけないのだ。「頑張ってね、大好きな朱里さんのために、頑張ってね」と、大好きな彼に、一番にはなれない私は笑って言わなければいけないのだ。そう、私は思うのだ。
その言葉は失恋した私にはちょうどいい言葉。往生際悪く、食らいつくのではなく、きれいに身を引いて、いつまでも、あとくされなく彼にとっての最高の友人に戻るのだ。それが、一番いい。
だから私は真剣で、以前までの暗い、何か抱えているような表情は全くなく、闘志と熱意と、愛情に満ちた、大好きな彼に私は言うのだ。
「大好きだよ、智樹君――……」
私から出た言葉は、私の考えとは正反対で、私の気持ちにはとても正直な言葉だった。そんな言葉は、涙とともにはかなく、熱くあふれ出し、零れ落ちた。
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