VRがもたらすは、祝福かあるいは
【第11回創元SF短編賞一次選考通過作】
「人の価値観が強烈な原体験によって左右されるなら、現実により近い五感VRはその『原体験』になりうる。つまり、人々の価値観はそのVRのコンテンツメーカが握ることになる。」
――2044年。
五感VRは環境問題や人種差別などへの関心向上のための教育用コンテンツなどとして世に浸透しつつあり、世界最大のVRコンテンツメーカVR社の理想とする「健全」な価値観を持つ人々は増える一方であった。しかし、反VR主義団体〈自由意志の砦〉を筆頭に、否定的な意見の持ち主も根強く残り、未だ「不健全」な価値観の「治療」は完遂していなかった。
そこで、VRエンジニアである藤野翔太は新たなるVRコンテンツ〈プロテウスの祝福〉の開発に着手した。VRに対する懐疑的な態度を「治療」するものだ。しかし、〈プロテウスの祝福〉の被験者でもあった、藤野の娘ジュリアは成長と共にVRへの依存度を高め、VRに狂信的になっていく。
彼女のVR過信を脅威と感じた藤野は「VR過信」の治療用VR〈アンチ・プロテウス〉の開発に着手するが……。