最終話 ミカが好きなぬいぐるみ

 まだ冬の駅前。

 寒さは一段と強くなっている。

 ドキドキする胸の高鳴り。

 スマホを片手に今までの出来事を思い出す。

 よくここまで傷だらけの心を保ってこれた。

 例え他の女性に心を奪われたとしても、ミカのことを忘れたことはなかった。

 それさえ心を壊さなかった。

 まだミカは姿を見せない。

 ミカは退院していた。

 メッセージのやり取りではつい最近の退院らしい。

 その間に俺のことを忘れたことはないらしかった。俺は遊び過ぎた。俺はバカだ。俺はひとりになって初めて気付いた。俺はミカを忘れられなかった。俺はまた泣きそうになる。

 だって、ミカが目の前に姿を現してくれたから。

 お互いに話すことを忘れたように何も言わない。

 ほんの五秒が永遠の喜びに思えた。

 俺はミカを力いっぱい抱きしめてあげた。

 ミカが好きなぬいぐるみ。

 なんだっけ?

 ああ、ウサギのぬいぐるみだ。

 ミカは俺の両腕の中で小刻みにウサギのように震えている。

 何も言わない俺たち。

 人目をはばからない。

「ごめんな……」俺は謝った。

 ミカは涙ぐんだような声で何かを小さく言う。

 本当にごめん。

 だから今は、せめてもの思いで抱きしめさせてくれ。

 俺はミカを抱きしめて暖めてあげた。

 これが答えだ。

 もう苦しまなくていい。

 これからはずっと一緒にいよう。

 ミカ、ごめんなさい。

 それと、大好き。

 もう離さないよ。

「ありがとう」小声のミカの表情は笑顔だった。



(終わり☆読んでくださって、ありがとうございました!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの子が好きなぬいぐるみ 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説