第6話 理由と赤い葉
リストカットの理由はミカの友だちから聞かされた。
ミカがアルバイトをしていたのは知っていた。
精神的に追いつめられたからだそうだ。
人間関係に疲れ、アルバイトを辞め、生きる意味がわからなくなったから、とミカの友だちからはそう聞いた。
ミカが自分の手首にリストカットをして、俺に何かを伝えたかったらしい。
俺はそれがわからなかった。
そうして、最後にはあれほどのリストカットをした。
俺はミカを忘れたくない。
「なぁ、どうしたの? 私のことってキライ?」
俺は、はっとした。今はカフェで別の彼女とアイスコーヒーを飲んでいる。彼女は俺の二つ上の二十一歳。名前はイヨだ。
「考えごとをしていた」
「教えてよ?」イヨはタバコを吸っている。
「言えない」
イヨはタバコをふかして俺の目を睨み付けるようにする。
「なんで言えないの?」イヨはニヤニヤしている。
「なんでって……」
イヨは元ヤンなのだ。付き合ってから初めて聞かされた。
「それじゃ、私のことをどう思っている?」
俺は会話のペースに追い付けない。
俺は黙ってしまう。
「わかった。私の家に来いよ?」
「え?」家? なんで?
イヨはタバコをネジ消した。
外は暗くなりかけている。
風もぬるかった。
過ごしやすい秋なのに、俺は居心地というかなんというか落ち着かない。
紅葉がはらっと落ちた。
イヨの家に着いた。
俺は何も言わずに上がった。
そして早速、イヨからこう言われた。
「なぁ、ここだったら言えるよね? さっき考えていたことが何か教えてよ?」
言えるワケがなかった。
「アルバイトのことだよ」俺はウソを言った。
イヨはニコニコしているが、それは次第にイライラの表情に変わった。
「お前さ、私にウソを言っているだろ!」怒鳴るイヨ。
俺は足が震え始める。
イヨが何かを俺に投げつけた。
柔らかい物。痛くない。
床に転がるそれを見たら、ネコのぬいぐるみだった。
すると、イヨは俺の胸ぐらを掴んだ。
「何を考えていたの? 教えろ」
俺はイヨへ絶対にミカのことは教えられなかった。
「何か言えよ!」
イヨからビンタを頬にもらった。
俺は腰から床に体勢を崩した。
(続く)
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