第4話 あの春を思い出す

 夏祭りにトモヨとデートする。

 さすがに小説の話題は出ない。

 普段の雰囲気とは違い、彼女は子どもみたいに並ぶ屋台をキラキラした目で眺め回る。

 トモヨは俺のひとつ下だから、やっと素顔を見れた気がした。

「ねぇねぇ、りんご飴買って!」そう言うトモヨの笑顔が今まで俺に見せたことのないものだった。

 りんご飴を買ってやって、しばらく俺とトモヨは屋台の並ぶ道を歩く。

 ペロペロと舐めている彼女は無言だ。

 俺はミカを思い出していた。

 最後の走り去る後ろ姿は俺の心をきゅうっと締め付ける。

 あの時のミカはひょっとしたら泣いていたかもしれない。

 走り去りながら。

 俺は目に熱いものが込み上げている。

「どうしたの?」トモヨの言葉に俺は歩くのを止める。

 トモヨは相変わらずりんご飴をペロペロと舐めている。俺とトモヨは向かい合って立っている。

 俺は我慢出来ずに涙を流してしまう。

「え? どうしたの?」そう言うトモヨの表情がボヤけて見えない。

 俺はミカを忘れたつもりだった。

 でも、今でも覚えている。

 ミカの最後の後ろ姿を。

 きっと彼女は泣いていたんだ。



(続く)

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