あの子が好きなぬいぐるみ
野口マッハ剛(ごう)
第1話 春にウサギ
やっと風が暖かくなった。
自転車で外出が楽になった。
俺は桜を眺めては心が彼女に重なってしまう。
彼女の名前はミカ、俺のひとつ上の二十歳。
そろそろ待ち合わせ場所である駅前に行こう。
ミカはウサギのぬいぐるみが好き。
俺は桜にサヨナラと言った。
駅前は通りすぎる人々でいっぱいで、ミカがいつ現れるのか俺は待っている。スマホに着信音が鳴る。俺は電話に出る。
「もしもし? どうした?」
ミカは泣いているようだ。
どうしたんだろう?
「ミカ? 何かあったのか?」
「すぐ行く……」
プツッ。
ん? なんだろう?
俺はミカに言われた通りに待った。
ミカがやって来てその暗い表情は俺をドキッとさせた。
「ミカ? 何かあったのか?」
「ごめんなさい、もう大丈夫」
ミカは長袖のシャツだった。
俺とミカは街へ歩き始めた。
何気なく俺は手をつないだ。
チラッとミカの横顔を見る。
まだ暗い表情で目線は下を向いている。
とりあえずカフェに入る。
お客は多かった。なんとか席を見つける。
「なぁ、長袖は暑くないか?」
「うん、失敗しちゃった」そう言ってミカはやっとニコッとした。
気のせいだろうか?
なんかいつものミカらしくない。
注文はアイスコーヒーを。
ミカが水の入ったコップに手を伸ばした時だ。
ミカの手首に切り傷があった。
俺はすぐにリストカットだとわかった。
どうしよう、聞きづらいし、何か悩みでもあるのか?
「ねぇ、アルバイト以外には何かしているの?」
ミカの質問に俺はなぜか慌てる。
「え? アルバイトだけだよ?」
俺の返事を聞くとミカは水を一口飲んだ。
おいおい、両方の手首にリストカットしたのか?
それから会話は続かない。俺はあえて何も言わない。彼女には何かあったのだろうなぁぐらいにしか俺はわからなかった。聞いてみたいけど、やはり聞きづらい。
ミカがアイスコーヒーをカランカランとかき混ぜる。ミルクも砂糖も入れていないのに。
俺は何かはわからない不安を覚える。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます