第20話 ランタン

ただ遠くへ行けばいい

音の無い 声の無い

あなたの居ないあの場所へ


夜明け前に佇んで

髪を一掴み埋めればいい


湖沼が呼ぶわ

あなたの名と姓を


還り来る月の満ち欠け

想いは遠く


灯すランタンにアロマを添えて


眠る私に目覚めは来ない

あなたがそう望んだから


私はこれから遠くへと旅立つ


ともし火にしたランタンを頼りに

新しい船出を待つ海辺へと旅立つ



そこから広がるのは真世界

ようやく息の継げる濃い霧の世界



昔話を語る老婆の傍らで


胸をときめかせ少女が笑う

いつか時が過ぎ



そんな風に笑える日がまた来るのだと

胸元に抱いた白いユリの花を遠くへと放つ


それはまるでつばさを持つ鳥のように自由に

朝が近づいた空へと舞い


新しい夜明けのはなむけを想わせる



そうしてようやく穏やかに凪いだ海辺に

ランタンを浮かべ微笑みを取り戻す



ランタンはそれでもまだ、

灯りを消さず私を導き続ける



あの日得た輝きとともに



私を穏やかな心地にさせてくれる

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