第12話 Lemon Skunk x Super Silver Haze
6号室のドレッドの男は、巴の部屋から出てきた卍と階段の入口で顔を合わせると会釈した。卍はドレッドに爽やかに微笑むと、バイクに跨りヘルメットを被ってエンジンを吹かし、あっという間にビルの谷間へ走り去る。
エキゾチックな顔立ちと中性的な卍のスタイルに、ドレッドは走り去るバイクが見えなくなるまで
だが、何故こんな所に
まだ生乾きの
高層ビルに囲まれたアパートのベランダ越しに、隣の部屋から The Wailers の Rasutaman chant が聞こえてきて、ドレッドは思わず背伸びして柵越しに隣のベランダを覗く。イスに座ってビールを飲み、トウモロコシにかぶり付く巴と目が合い会釈した。
ドレッドは気不味そうに洗濯バサミを取り部屋へ入ると、天井のハリにヒモを通し洗濯バサミで
「素晴らしい……! この
1週間が経ち、ドレッドは毎日天井から吊るされる
そこに見えたものは、
「素晴らしい……」
新宿の紀伊国屋の地下で買ってきた、大型でガラス製のフラスコ型
グラインダーのフタを開けると、猛烈な
グラインダーの中でモグサのようにフワフワになった
片手で
ポコッ、ポコッ、ポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポッ!
ゆっくりと
いったん火を止める。まだケムリの入っていない肺の中の空気を全部外に吐き出すと、
肺に溜まったケムリは張り巡らされる毛細血管の中へと溶け込み、身体全身を巡ってチャクラにまで行き渡る。ドレッドは瞑想するように眼を閉じてしばらくケムリを肺に溜めると、ゆっくりと口と鼻から大量のケムリを吐き出した。
眼を瞑ったまま、波間に浮かんでいるような浮遊感に包まれ始めると、突然脳細胞がスパークした。
眼を見開くと、最近慢性化していた偏頭痛がピタリと止み、久しぶりに頭の中がスッキリして。このところ常に頭の中にチラ付いていた痛みを伴う、モヤモヤとして追い詰められたネガティブなイメージが吹き飛んだ。
点けっ放しのTVからは、ドレッドが慢性的な偏頭痛の症状を抑える為にいつも買っていた薬のCMが何度も流れている。
部屋のゴミ箱には△マークの増量パックの空き箱が幾つも捨ててあって、溢れた空き箱は床にまで転がっていた。
バビロンの美しき聖なる女神の化身は、街中に溢れる△のサブミニナルを摺り込むが如く。何度となくTVから同じ事を繰り返しループさせる。
手の平を合わせてから正面に一気に広げた△から覗く片目からは、誰も逃れる事はできず。バビロンを支配する女神は発光するTVの中から実体が現れたかのように、ドレッドの前に愛らしく佇む。
ケムリの立ち籠める部屋の床に転がる△マークの空き箱を拾い上げたドレッドは、真紅に染まった眼を見開いて呟く。
「解ったよ……」
△マークの空き箱をゴミ箱に放り投げ、眼の前に愛らしく佇む女に言った。
「薬をもったな……」
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