第12話 天空の神
もはや、元が人型であったなど想像も出来ない異形がそこに顕現していた。
前後に引き伸ばされた胸部は、巨大な角にも見える円錐状の突起がまっすぐ突き出ている。
肩部には、元の腕の長さを越える大きさの可動式装甲が接続され、それに伴って二周りほど大型化した。
腕部も肩に併せて太く長く改良されている。新しい掌に相当する部分には人間のような五指ではなく鋭利な爪を備えた指が三本装備され、掌低部は大きな穴が穿たれている。
一番大きな変化があったのが下半身だ。腹部から腰部左右にかけて接続された装甲が展開して上半身の荷重に耐えられない脚部を包み込むと、蜂の尾のような形になって背部に移動。代わりの足として元の腹部を挟み込むように巨大な脚部が接続されている。
背部には、大型化した上半身を越えて腰部後方のスカートへと届こうかというほどに巨大なラックを左右に装備し、挟まれるような形で中央から伸びるアームは折りたたまれて収納されている。
そして、新たな頭部も、上半身と同じように前後に長い構造になっていた。元の頭部に近いデュアルカメラアイに加え、額から十字に切られたレールの上を、単眼タイプのカメラがせわしなく動き回っていた。
「…………」
(…………)
自騎の身長を軽く上回る巨体に、パンドラ=マリアとその中のジャックは、揃って驚嘆の表情のまま息を呑んだ。
圧倒的な威圧感に、指一つ、握り締めた操縦幹一本も動かす事が出来ない。
『ふははははっ!声も出せぬか。来い、ウラヌス!』
ずん、と床が陥没せんばかりの超重量が闊歩する。一歩ごとに、敷き詰められた砂が巨体を覆い隠すように高く舞い上がる。
皇帝の本体である箱の前まで来ると膝を折って、厳重に覆われていた腹部を開く。幾重にも装甲が包み込んでいたその中は、まるで主の帰りを待っているようにぽっかりと空間があった。
そのまま、兵器そのものとなった腕を恭しく差し出すと、まさに腫れ物を触るような繊細な手つきでゆっくりと箱の中から中枢となっている回路――皇帝の自我そのものを取り出して己の腹へと収めた。
役割を終えるように箱は崩れだし、それが映し出していた老賢者の幻影もスッと消失する。
『ようやくだ。ようやく、ワシはワシの意志通り動く事ができる身体を手に入れた。何者にも邪魔されることなく、世界を蹂躙できる鋼の身体を!』
狂喜から来る充足感と共に背後を振り返る皇帝。
そこには、白銀と紺青に染め上げられた反逆の騎士が立っている。
『どうだ、ジャック?もう一度聞いてやろう。ワシの下に来る気はないか?今な――』
「断る!!」
一秒でもその言葉を聴いていたくない、という思いのこめられた絶対的な拒絶が返って来る。
『――そうか、致し方ないな。代替となる存在を探すとしよう』
やれやれ、と嘆息すると、拳を振り上げた。
『では、皇帝自ら創り上げた
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