第16話徳治の過ち

 頭の整理がまだできていない。金衛門は、途中から薬師の事を私というようになった。つまり、薬師とは金衛門のことなのだろうか。仮にそうだとすると、金衛門はいったいいくつなのだろうか。


「金衛門様、あなたが話のなかの薬師だとして、なぜあなたはそんなにも若く見えるのですか。そしてこれほどまでに長く生きているのですか。」


 僕の質問に答えるかのように金衛門は懐から印籠をだし、その中から白く丸い粒を手のひらに一粒取り出した。


「これが不死草の種だ。これを使い続ければ、たとえ数百年だろうとこの島のなかであったら私のように生き続けられる。この島の住人のなかには私と同じように数百年生きている者もいる。」


 そういって金衛門は僕の目の前で小さな白い粒を飲み込んだ。


 それは一瞬の出来事だった。


 面前にいる金衛門の姿を目視し、まばたきをたった一回しただけだ。さっきまで金衛門にあったはずの目じりのしわや口元のたるみが消え、確実に先ほどまでの金衛門より若返っていた。


 そして金衛門は少しためらいながらつづけた。


「新しくこの街の住人になったものは、初めてこの島に来た時に一度だけこの薬を飲ませる。後は、不死草自体にもわずかにその効能があるからな、新しい街の住人はそれを食べて長い自分の寿命が終わりを告げるのを待つのだ。」


 金衛門のその言葉を聞いた瞬間、頭の中ですべてがつながったように思えた。金衛門があれほどまでに勘兵衛たちを島から出せないといった理由。僕が家に帰れない理由。そして、金衛門が島の外へ出れない理由。


 僕が何かに気がついたのを金衛門は察してくれた。


「そう。お前が勘兵衛たちと食べた飯の中に見たことのない野菜か何かが入っていただろう。それが不死草だ。徳治、お前はそれを食べてしまった。お前がこの島から出たとき、薬の副作用がどんな影響をお前に及ぼすか私には予想がつかないのだ。寛治の大切な一人息子を死なせて、あいつを悲しませることは避けたい。分かってくれ、徳治。」


 やはり思ってた通りだった。受け入れがたい真実に僕はうなだれたまま黙り込んだ。


 しばらく金衛門は僕をそっとしておいてくれたが、じきここへ連れてきてくれた牢番が部屋へやってきて、僕を牢屋へと戻すため肩を支えて立たせてくれた。


 部屋から出ていく寸前に僕は金衛門にきいてみた。


「何か副作用を和らげたり、解毒できるような方法はないのでしょうか。」


 返答はなかった。つまりそういうことなのだろう。僕は牢番に支えられたままもと居た牢へと戻っていった。

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