第14話不死草

 少し話し疲れたのか、金衛門は肘置きの隣に置いてあるお茶を口に含んだ。金衛門が教えてくれたのはこの街の歴史で、種子島家に伝わるものなのだろう。


 それに、勘兵衛たちを外に出すわけにはいかない理由にも納得がいった。


 しかし、僕の中には疑問が残る。


 今のところ金衛門の話にはこの島の街を囲う大きな壁の事が出てきていない。それに、勘兵衛から教えられた金衛門でさえも島から出られないということ。


 そして、僕を家に帰すわけにはいかない理由。


 僕は思い切って金衛門にぶつけてみた。


「この島の歴史は分りました。約束通りそのことについては誰にも話しません。けど、まだ僕の中にいくつか疑問が残っています。壁の事、それと僕を家に帰してくれない理由、それはどうしてなのですか。」


 僕は早口で金衛門に訪ねてみた。


「まあ、待て徳治。昔のことを思い出して疲れてしまった。すこし休憩させてくれ。まだお前に話さないといけないことは残っているのだ。」


 昔のこととは金衛門がこの歴史の事を聞いた時のことだろうか。金衛門は一息つき再び話し始めた。


「今でも薬の取引は続いていてな、島の裏手の竹林があるあたりに畑があるのを徳治は知っているか。」


 畑は島に来るたびに見たことがあった。そういえば何の作物を育てているのか気になったことがある。


「あれがこの島でしか育たない不死草というなの野菜だ。あれを煎じるとさっき言った薬ができる。」


 あの作物のことがわかって少しすっきりしたような気になる。


「徳治、お前の疑問はすべてその不死草が答えてくれる。」


 金衛門は大きくため息を吐いた。


「街が大きくなってからある問題が生じ始めた。島に来た罪人の中に島から脱走してまた悪さをする者たちが出てきたのだ。はじめは汽車に忍び込み抜け出すものがいた。私は自警団を組織し、汽車の出入り口を監視することにした。そうして汽車から島を抜け出すものは少なくなっていった。そうすると次は海に飛び込みに抜け出すものが現れたのだ。大概、潮の流れに負けおぼれ死ぬのがほとんどだったが中には潮から抜け出すものもいた。だから次に私は大きな壁で街を囲ったのだ。」


 なるほど島の壁の事はわかった。しかし、それと不死草となんの関係があるのだろうか。金衛門は続けた。

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