第13話島の歴史

 まず何から話したものか。とりあえず、勘兵衛たちのことから話そう。


 あいつは昔からこの島からいつか出たいという思いを隠し持っていて、そんな勘兵衛の考えに同調するものもたまにおる。やつはそいつらをまとめ上げちょっとした賊を築いたのだ。


 初めのころは、ただ酒を飲みながら二度と見ることのない本土の事を夢想していただけらしいが、そのうちその不満をたまに島の客やほかのものに向けるようになっていった。


 まあ、少しのことは見逃してやらんこともないが、最近になって、あいつらの行動がやけに大胆になってきてな、島に来る貨物から木材や食料を盗み取ったりしていて私も困っていたのだ。


 流石にあいつらの行動も目に余るようになってな、私自身も街の見回りに出てどうにか捕まえようと試みたのだが、いつもうまく逃げられてしまって、最近はそのせいで私も疲れがたまっていた。


 聞く話によるとどうも盗んだもので船を作ってここから脱出しようという算段だ

ったようだ。どうやってかお前が寛治の息子だと知り、連絡船の息子ならとあいつからこの島からでたいと頼まれたのだろ。


 しかしな、すまんが勘兵衛たちをこの島から出すことはどんなことがあろうと許

されないのだ。


 徳治、お前はこの島で働いている者たちがどうしてここへ来たのか知っているか。もちろん遊女たちは、寛治とお前が運んでくるのだが、それ以外のこの島で働いている者たちの事をお前は知らんだろう。


 実はな、みな罪人なのだ。


 あるものは人を殺し、あるものは盗みを働き本土でとらえられた。通常はそのまま牢へ入れられ、牢の中で死を待つか打ち首になるはずなのだが、ただ一部の罪人たちには機会が与えられるのだ。


 唯一この島の商いに協力することを約束すれば、島のなかだけの自由が許される。そうしてその契約を結んだ者たちだけが、あの鉄道にのって連れてこられるのだ。


 だから仮にこの島から無傷で出られたとしてもだ、彼らは罪人として再びとらえられ、今度ばかりはその場で打ち首になる。仮に出られればの話だがな。


 徳治よ、だから勘兵衛たちの約束を守れずとも気にする必要はない。やつらはもともと悪人なのだ。


 なぜ罪人を島に連れてくるのか不思議におもっているだろう。それはな、昔の名残なんだ。遠い昔、徳治もお前の父の寛治も生まれるずっと前のことだ。この島には街も何もなかった。不夜知島などとも呼ばれていなかったそのころこの島に関するある言い伝えがあった。


 島にしか自生しないある野菜から様々な病に効く薬が作れるといった言い伝えだった。その言い伝えをとある薬師が耳にして、島に渡ろうとした。


 しかし、徳治もよく知っているように、この島の特異な潮に阻まれて何度も挑戦してみたがなかなか島に近づくことができなかった。


 薬師にはどうしてもその野菜が必要だったのだ。薬師の愛する妻は不治の病にかかっていた。薬師は幾度となく薬を調合し、妻に飲ませてみたが妻の病状はよくならなかった。だからこそ言い伝えにでもすがるしか道はなかった。


 いつまでたってもたどり着けない島に薬師は半分島に行くことを諦めかけたある日、偶然にも潮の流れの緩やかな海路を見つけた。薬師はその海路を使いようやく島にたどり着くことができたのだ。


 薬師はすぐに言い伝えの野菜を探した。野菜はすぐに見つかった。島の中央付近に見たことのない野菜が群生しているのを見つけたのだ。薬師はすぐにでも薬を調合し妻に届けたいと思ったが、ほんとに効くかどうか判然としない薬を愛する妻に飲ませるわけにはいかなかった。


 薬師は本土では多少名が知れていてな、中央の役人のなかにも薬師の薬をひいきにしてくれている者がいた。それゆえつてがあった。その中には罪人を管理する役人もおり、そのつてを頼り薬の実験台として罪人をこの島に連れてくることにした。


 薬師の見つけた比較的安全な海路を使い、罪人を島に連れてくると、薬師は小さな集落を作り罪人たちをそこへ住まわせたのだ。罪人たちははじめ知らない島に連れてきた薬師に反発していたが、島のなかでの自由が約束されていたので次第に薬師に協力するようになった。


 予想より長い時間がかかってしまったが、薬師はようやく念願の薬を作ることができた。すぐに薬師は妻を島に連れてきて薬を飲ませてみた。しかし、残酷なことに妻の病気のすべてを治すことは叶わなかったのだ。


 薬師はついに妻の病気を治すことをあきらめてしまった。しかし、悪いことばかりでなかった。妻の病気を完全に治すことはできなかったが、その代わりに、病気の進行をかなり遅らせることはできたのだ。


 それに加え、薬師の作った薬は通常の病気に抜群の効き目をしめし、島の近くでは万能薬として重宝されるようになった。中央の役人の計らいで、罪人を島に継続的に引きうける代わりに薬を売り込んでもらい、そのおかげで薬師は莫大な富を得ることができた。


 薬師はその莫大な富をもって島に小さな村を築き、そこに妻と一緒に暮らすことにした。村は町へと変わり、気がつけば大きな街へと変貌していた。ある時、中央の役人と薬師は一度にたくさんの罪人と薬を運ぶため、島に一番近い村から長い月日を費やし橋を架け線路を敷き、汽車を通したのだ。罪人たちは街に店を開き、薬師がそれを管理した。


 これがこの街の原型となったのだ。

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