第4話親友の喜助

 しばらく家の前でふたりで座り、暗い海の向こうに見える明るく光る不夜知島を眺めていると喜助が口を開いた。


「なあ、徳。これが終わったら、俺らは本格的に家業の手伝いをすることになる。そしたら、今までみたいに遊んだりもできなくなるのかな。」


 喜助は少し寂しそうにいった。


「昔、俺がいきなり徳のところを訪ねた事があったよな。」


 小さいころ僕は、家の事や引っ込み思案で内気な性格のせいか友達のいない少年だった。しかしある日僕の前に突然喜助が現れた。喜助は、宿で誰かに聞いた噂話が本当かどうか確かめに来たそうだ。


 急に家にやってきた喜助を初めは不審におもっていたが、喜助と話しているうち、いつの間にか彼の持ち前の明るさと人懐っこさに心を開いていた。


 その時の噂がどんな話だったか忘れたがそれ以来、新しい噂話を仕入れると、いつも僕の家に来るのだった。そのうち、自然と喜助と友達になり、気づけば活発な喜助に連れられ村のほかの子たちとも遊ぶようになっていた。


「そういえばそうだったな。あの時は僕は喜助のこと変な奴だと思ったよ。」


 僕は笑いながら隣の喜助の方を見た。


「実はさ、あの時宿の宿泊客に徳の親父さんの仕事の事聞いてさ、なんかお前に共感を持ったんだよ。」


 喜助は照れながらつづけた。


「俺もさ、間接的だけどに島に関わる仕事をする家に生まれてきたからか、たまに年上のやつらからいびられて、嫌な思いをすることがあってさ。同じ境遇の徳と友達になりたいって、そう思ったんだよ。」


 喜助がこちらを向いた。


「俺は徳のことを一番の友達だと思ってる。だから、子供でいられる最後の年に、忘れられない思い出を作りたかった。だから、賭けなんて手を使って無理やりにでも徳を参加させたかったんだ。」


 喜助が急に熱く語ってきたもんだから、僕も照れ臭くなった。


「ありがと、喜助。そういってくれて嬉しいよ。」


 僕も喜助のことを親友だと思っていたし、喜助の口からそれが聞けてとてもうれしかった。それと同時に、これから先今までのように遊べなくなるかもしれないと思うと、とても寂しかった。


「だからと言っておれは鴨葱うどんを奢る気はさらさらない。徳、お前も真剣にやってくれよな。」


 この雰囲気に喜助も照れ臭くなったのか、話題を変えた。


「分かったよ、喜助。僕もがんばってみるよ。僕も鴨葱うどん、奢りたくないしね。」


 どうやら僕が本気ではないことは喜助にばれていたようだ。こんなにもまじめに僕のことを考えてくれているのだから、このまま負ける気でいたら喜助に対して失礼だし、なによりも喜助のことを裏切ってしまうような気がする。僕は改めて決心した。


 そのあと、喜助と少しだけ話したところで、玄関から母が顔を出して、夕食ができたことを告げてきた。母は、喜助を夕食に誘ったが喜助はこの後家の手伝いをしないといけないと丁寧に断りすっかり暗くなった道を走って帰っていった。


 喜助の姿が見えなくなるまで見送った後、家に入ると食卓に父が先に座って僕が帰ってくるのを待っていたようだ。


「ただいま。」


「喜助くんは帰ったのか。」


 うん、と僕は返事した。


「そうか。どうせなら一緒にご飯でもと思ったが、それは残念だったな。」


 僕もすぐに食卓につき夕食を食べ始めた。


 夕食の最中、今度喜助の家に泊まりに行くことを伝えた。これは、あの島に行くことを隠すための嘘だったが、両親は何か察したらしく、母はほかに何も聞かず、


「迷惑はかけちゃだめよ。」


 とやさしくいった。


 夕食を食べ終わりお風呂に入り、布団に入ると、今から寝室に父がやってきた。


「明日、島に行く用ができた。徳治、お前もついてこい。」


 と言って、父は自分の布団に入った。なんの用か父に聞こうと思ったが、最近は不漁ということも聞かないし、たぶん遊女を運ぶのだろうと僕は思いそのまま何も聞かずに眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る