南国

 ふと思ったことがある。

 俺は魔眼によって人や武器のステータス情報を視ることが出来るようになったわけだが、ハノナのステータスって?

 西国が滅ぼされたことにより、現在南国へ移動中だ。道中、嫌でもモンスターと遭遇することがあった。

 ハノナはそれらを簡単に討伐していったのだ。まあ、モンスター自体が大した強さじゃなかったが、気になる。

 こっそり視ようか。

『ハノナ・アースメルド level6

 体力:1080 スピード:1600 防御力:900

 状態:―

 装備:鉄鎧Le.2 極彩剣Le.4』

 これは強いのか?基準が分からないな。

 モンスターをいとも簡単に倒したところを見るに、上位クラスなのか。だが、ファイアドラゴンに手も足も出ていなかったな。ファイアドラゴンはそんなにも強いモンスターだったのか。

 …あれ?じゃあ俺は?そのファイアドラゴンを倒した俺はどうなんだ?


「おい、コース。勝手に人のステータスを視て何のつもりだ?」


「あ、悪い。ちょっと気になってな」


 少し不機嫌そうな顔を見せるハノナ。

 勝手に視たのは俺が悪いが、そんなに怒ることか?


「…せろ」


「え?」


「コースのステータスも視せろ!」


 それはいいんだが、顔が近い。てか、近くで見ると本当に可愛いよな。目も大きいし、唇とか綺麗だ。…駄目だ、俺もしかして変態なのか?

 俺は自分を戒めながら魔眼をハノナに渡した。乱暴に俺の手から魔眼を奪い取ったハノナは直ぐに俺のステータスを視た。


「…は?」


「どうだった?」


「お前、本当に何者だ?化物か?」


 失礼なやつだな。正真正銘、人間の純血だよ。むしろ、他種族の血が混ざってたらまずいだろ。

 だが、ここはスルーだ。ハノナだって本気で言ったわけでは無いだろう。多分、そうだと思う。思いたい。

 ハノナは突然腰を下ろし、地面に何かを書き始めた。おそらく俺のステータスだろうか。ありがたい。


「っし!出来た!」


「どれどれ」


 そこには、

『エンドゥー・コース level978

 体力:9999 スピード:9986 防御力:9999

 状態:―

 装備:無敵インビジブルコートLe.― 神刀・神威Le.― 焉刃ラグナロクLe.86』

 と書いてあった。

 ハノナさん、ごめんなさい。僕は化物かも知れません。スピード以外カンストしてますしね。

 に、してもインビジブルコートは初めて聞いたな。いつ入手したのだろうか。そんなもの着てないんだけどな。だって服装とか初期のままだし。


「っ!コース!」


「どうした」


「どうした、じゃないだろ!南国の入口だ!こんなに直ぐに着くとは思っていなかったが。うん、コースと居ると時間が流れるのが早いな!」


 満面の笑みを浮かべ、こちらを見るハノナ。それを見て俺は不思議な感覚に襲われていた。

 …胸がざわつくな。

 普段はきつい性格な為か、時々口にする言葉にドキドキすることがある。

 間違いないな。俺はハノナに好意を持っている。だが、これが恋愛感情かどうかは分からない。

 俺は考えに一旦の整理をつけ、顔を上げた。


「コース!早くしろ!」


 そこには笑みを浮かべたままのハノナが居た。


「…勘弁してくれ」


 俺は聞こえないように呟き、ハノナの後を追った。





 ―南国ソウザク

 門を潜ると、西国で見たものと同じ表示が現れた。

 南国は西国とは違い、近未来的と言うか何と言うか。所謂、『魔法マジック』と言うもので成り立っているような国だ。

 そのせいか、建物が基本的に西洋風となっている。魔女が出てきそう。

 冒険者らしき者も多々見られるが、殆どが剣ではなく杖を装備していた。ステータスも全体的に低い。魔法使いは近接戦をする必要性が無いから当然と言えば当然なのだが。

 キョロキョロしながらハノナに付いていると、他の建物より一際大きな建物に着いた。


「着いたぞ、コース。ここが南国のギルドだ」


 扉を開け、入っていったハノナを追うように中へ入る。そこは外よりも賑わっており、人口密度が高かった。暑い。女の人も居るが、大抵が男の人だ。なんか嫌だな。

 男率が高い冒険者という職業だからだろうか。ハノナが中へ入った途端に静かになった。沈黙から約3秒ほど。男共がハノナに集ってきた。


「あの!僕たちとパーティ組みませんか?」


「あ!ずりぃぞ!是非僕たちと!」


「お前こそ抜け駆けしてんじゃねぇ!俺たちと組もうぜ!」


 と、まあハエの如く群がっている。俺の存在なんて無いようなものだよな。知ってました、はい。

 俺がその光景を端から見ていると、金髪碧眼のイケメンが出てきた。と思いきや、いきなりハノナの肩を抱いた。

 ぶっ!思わず吹き出してしまったが、あいつ何してんの?


「うるせぇぞ!雑魚ども!この子は俺と組むんだよ!分かったら散れ!」


 イケメンの一言で舌打ちをしつつも退散していく男冒険者たち。イケメンなら仕方ないってやつか。

 確かに並の女ならこれで堕ちるな。だが、ハノナは違うと思うぞ。


「助けてくれたことには感謝する。が、その手を離してくれないか。連れを待たせているのだ」


「連れ?それって女の子かな?」


 お前、その質問完全に女目当てだろ。イケメンはこれすら許されるのか。神様、次生まれ変われるのならばイケメンにしてください。

 なんて祈りを捧げていると、ハノナの指が俺を指していた。

 俺を見た金髪碧眼の冒険者は一瞬驚いたような顔を見せたものの、直ぐに爽やかスマイルを取り戻した。そして、早足で俺に近付いてきた。


「君があの子の連れか。初めまして、グリア・グリムホールだ。宜しく頼む」


「はあ、エンドゥー・コース。宜しく」


 何このスマイル。すっごい黒い意味がありそうなんだが。

 グリアが握手を求め、俺がその手を取る。すると、グリアが急に腕を引き、俺は前へ倒れそうになった。

 その耳元でグリアはとんでもないことを言い出した。


「すまないが、あの子を俺にくれないかな?」





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