英雄のステータス

 英雄や勇者に憧れたことはないだろうか。

 自分は特別だ。きっと自分には出来る。自分には他人に無い何かがある。そんなことを考え、実現するために必死に足掻き、そこへ辿り着いたものが得られる称号。それが英雄だ。

 ならば、勇者とは何か。

 それはきっと何かに挑戦したものに与えられる称号だ。

 ならば俺は、少なくとも勇者になろう。

 必死に足掻き、そこへ辿り着けず、英雄になれないのであれば、せめて挑戦した証だけでも。

 俺は必死に足掻いた。

 そして、俺は英雄になった。





 俺達は今、南国で一番大きな商店街横の道を歩いている。やはり、隣に大きな商店街がある影響で、この道に人影は少ない。


「お兄ちゃん!今は何処に向かっているの?」


 俺の腕にしがみつきながら、サクラが問い掛けてくる。

 やはり、自然の匂いがする。

 そして、それは反対側からも。


「こら!サクラ、離れなさい!」


 そう言うのは、カノだ。

 彼女たちは、森妖精グリーンフェアリーと呼ばれる種族である。妖精族は他種族より魔力値―正確には魔法武器の適性―が高く、大半が魔法使いへの道を歩み出すそうだ。

 レベルもハノナの6に比べ、サクラとカノは8と、2も高いのだ。

 見た目が幼女な分、弱そうに見えるが、実は強い。詐欺である。


「これから『英雄』に会いに行こうかと思ってな。グリアが知っているらしいから案内してもらう」


「まあ、そういうことです。魔法帝王マジックエンペラーと対をなす英雄ヒーロー。私の憧れです」


「ツイヲナス?」


「ナスの新種でしょうか」


 違います。そんなナスは聞いたことがありません。

 しかし、英雄の噂は聞いたことがあるが、魔法帝王ってのは知らないな。グリアの口からたまに名前を聞くことはあったが、無知といっても過言ではない。まあ、名前から察するに魔力値が高いんだろうな。


「そうだぞ、コース。魔法帝王とは、この世で最も高い魔力値を持つ男だ。時間・空間支配魔法ですら使えてしまうのだからな」


 ハノナ絶対に心を読むスキル持ってるだろ。この間から心を読まれてるんだが。まあ、知られたくないことを知られたわけではないからいいか。

 それにしても、この世で最も高い魔力値…か。魔法帝王なんて呼ばれるくらいだから分からなくもないが。

 なら、英雄は?一体何をもって英雄と呼ばれているのだろうか。


「さあ、着きましたよ」


 そうこうしているうちに、英雄のお家に到着した。流石、国家公認英雄様。素晴らしい敷地のお家です。

 ただ、敷地のわりに門番とかは居ないな。

 英雄ならそんなもの居なくても、なんとかなるのか。

 俺が門の前で考えていると、グリアは先へ歩いていく。どんだけ英雄に会いたいんだよ。

 俺達はグリアの後を追って、門から玄関までの長い道を歩き出した。

 玄関までの道中、様々な石像があったが、誰か分からないもの大半だった。ムキムキのおっさん像が多かったな。

 グリアが扉を開けて、勝手に入っていくのだが良いのだろうか。はい、良いわけありません。

 背後に突然現れた気配が、俺を目掛けて剣を振りかざした。


「はあっ!!」


「うわっ!」


 降り下ろされた剣に驚きつつも、黄昏一千と焉刃ラグナロクを使って弾く。…だけの筈だったのだが。俺の異常ステータスのせいで、英雄を吹き飛ばしてしまった。


「いってて…。俺が吹き飛ばされるなんて、どんな化物だよ」


 そういって立ち上がる英雄。

 手に構えられた剣は、何処にでも売っているような初期の剣。英雄と言われるのだ。何か他に武器があるのだろう。

 その剣を抜いたときが楽しみだな。

 そんなことを考えながら、俺は英雄に近付く。


「すみません。力加減を誤りました」


「ん?おお、大丈夫」


 並んでみると、英雄は大型でも小型でも無い。顔立ちもイケメンではないが、不細工でもない。超平均。あんまり強そうではないな。


「連れのものが申し訳ありません。私はグリア・グリムホールと申します。貴殿が英雄様で間違いありませんでしょうか?」


「ああ。俺こそが『英雄』イカル・ネシオンだ。…それで、お前の名は?」


 イカルは俺を指差す。

 一瞬戸惑ったが、俺は出来るだけ失礼の無いように自己紹介をすることにした。


「エンドゥー・コースです」


 うん、聞かれたことには答えた。これが俺流失礼の無いように話すコツだ。聞かれたことだけ答え、余計なことは一切口にしない。トラブルにもならない。

 だが、それが気に入ってしまったのか。イカルは俺の背中を、バンバンと叩きながら笑い声を上げた。


「あっははは!そうかそうか。なるほど面白いやつだ!」


 …なんかおっさんみたいな人だな。

 そんなことよりも、背中を叩かれているが大して痛くない。さっきの剣もそうだった。確かに威力は凄いのだろうが、深紅龍クリムゾンドラゴン蛇王龍キングスネイクドラゴンには全く効かないような威力だ。

 もしかしたら、この英雄は武器に頼っただけの『愚者』なのではないだろうか。

 そんな考えが頭をよぎった。


「イカルさん。失礼します」


「…ん?」


 俺は魔眼を取り出し、イカルのステータスを視る。

『イカル・ネシオン level56

 体力:3480 スピード:2990 防御力:3700

 状態:―

 装備:英雄の凱旋level39 聖剣デュランダルlevel860

 オリジナルスキル:英雄伝説ヒーローストーリー

 レベルたっけぇ?!それに、聖剣のlevelも異次元だぞ?!なんだ860って!やっぱり武器頼りじゃねえか!!

 …あれ?オリジナルスキルって初めて見るな。なんだ?

 まあ、少し見てみるか。

(英雄伝説!)

『スキル名:英雄伝説ヒーローストーリー

 能力:全ステータス2.5倍に、スキル威力3.0倍に強化する』

 ……は?

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