オリジナルスキル

 Gugyaaaaaaaaaa!


「ひゃあああっ?!」


「うわあああ!お兄ちゃーん?!」


 サクラとカノが俺の後ろに走り込んでくる。


「くっ!何だこいつは、硬すぎるっ!」


「なっ?!あれは魔力チャージ?!特大魔法を撃つつもりか?!」


 視界の中で、頭が牛の狂戦士ミノタウロスが暴れている。手持ちの大剣に魔力を集めているのか、赤く光っている。一体どんな魔法を撃つのやら。

 ミノタウロスと交戦しているのは、ハノナとグリアだ。

 ミノタウロスのlevelは26。大剣、鎧を装備している。ハノナたちとのlevel差はかなりあるが、理性や知性が乏しい分、勝機はあるだろう。未だにそれを見つけ出せてないようだが。

 隣で英雄イカル・ネシオンはニコニコしている。いい性格してやがる、本当に。

『依頼名:牛戦士との死闘

 内容:ミノタウロス1体の討伐

 場所:南国東部洞窟内

 報酬:600,000G

 牛革ローブ』

 今の戦闘は依頼であり、本来ならイカルがするべきものなのだ。それを、イカルは押し付けてきた。まあ、力を見せてくれ!なんて言われればするだろうな。俺は興味ないからやらないが。


「いいのかい?大事なお仲間が狂戦士と戦っているというのに、こんなところで見ているだけなんて」


「…本当に危なくなったら助けるさ」


 命の危険があれば助ける。だが、それまでは手助けはしない。押し付けられたのは癪だが、結果的にハノナとグリアのレベリングになっている。流石にlevel一桁では、これから先、俺の戦いに付いてこられなくなる。

 まあ、今でも結構ピンチなんだけどな。


 Guaaaaaaaaa!


 咆哮の後、ミノタウロスが大剣を大きく振りかぶり、そのまま地面へ突き刺した。剣と地面の境界から赤い光が溢れだし、地割れを引き起こした。


「うわあああああ?!」


「ぐああああ!」


 2人は悪くなった足場の上で動けなくなっている。それは、不安定な足場の上で不用意に動くことを避けているのか、あるいわ―


「ひっ…!」


「あ、ああ…」


 恐怖心からのものなのか。

 2人とも腰を抜かし、その場に臀部を擦り付け、無様に怯えている。

 モンスターとの戦いは恐怖したものが負けるのだ。つまり、ハノナとグリアはミノタウロスに敗北した。呆気なく、ただ1度の魔法のみで。


「お兄ちゃん…、ハノナお姉ちゃんどうなるの?」


「コースさん…」


 サクラとカノが不安気な声を出しながら、俺の両腕にしがみつく。助けに行こうとした、その時。


「…ふっふふ」


 突然笑いだすイカル。いい趣味とは言えない。他人の恐怖する姿を見て嗤うのは、俺の想像していた英雄とは正反対だ。…だが、理想を現実に求めてはいけない。

 イカルは腰に掛けていた剣、聖剣デュランダルを抜き、ミノタウロス目掛けて走り出した。

 ミノタウロスも気付いたのか、標的ターゲットをハノナたちからイカルへ変更し、大剣を構える。


「おらおら!牛戦士!本気で抵抗しろよ!」


 Gugyaaaaaaaaaaaaaaaa!!


 長めの咆哮を放ち、ミノタウロスは大剣を降り下ろす。その軌道上にはイカルの頭部がある。体格的にも、武器のサイズ的にも、ミノタウロスの勝利が確定したと、その場にいた誰もが思っただろう。

 だが、その剣がイカルを捕らえることはなかった。

 空を切り、降り下ろされた剣は地面を切り裂いた。


 Gya?


 間抜けな声を漏らし、首を少し傾げるミノタウロス。それもそうだろう。普通ならあの攻撃を避けることなんて不可能だ。普通なら、な。

 俺は見逃していなかった。大剣が降り下ろされた直後、イカルの口が動いていたのを。

『オリジナルスキル発動。―英雄伝説ヒーローストーリー

 聞こえていたわけじゃない、ただの勘だ。だが、間違ってはいなかったようだな。

 イカルは大剣を紙一重で避け、そのままの体勢でデュランダルを振り上げた。


「全く…少しも楽しめない。特別危険個体種の上位互換、深紅龍クリムゾンドラゴンあたりが出てくれれば楽しめるかな」


 そう言いながら振り上げたデュランダルは、ミノタウロスの顎を真っ二つに斬り裂いた。


 Gyaaaa…aa…


 ミノタウロスの断末魔は弱々しく、崩れ落ちた体は光の泡となって消滅した。

 イカルはデュランダルを鞘に納めつつ、こちらへ戻ってくる。


「やあ、おまたせ」


「…どういうつもりだ?」


「いやあ、見てたらうずいちゃってね」


 第一印象とは全く違う人格。

 優しく、接しやすかった印象から非情で、近寄りがたい印象へ変わりつつある。

 それはハノナとグリアも同じなのだろう。

 こちらを見たまま、開いた口が塞がらない状態だ。


「随分と性格が変わるんだな。クエストだからか?」


「…!ああ、そうだ」


 なんだ今の反応は?何かを隠しているような気がする。一体なんだ?

 俺が口にしたのは性格の変化についてのみだ。なら、その反応の理由は、性格の変化のことしかない。

 なんだ?性格の変化には何かあるのか?


「…イカル?」


「…」


「イカル!」


「…っ!なんだ?」


 まさか、こいつ。

 俺の頭の中で少ないピースがパズルを完成させた。


「お前、二重人格…か?」


 そう、俺が出した答えは二重人格だ。

 口調の変化、性格の急激な変化、名前への反応、どれをとっても納得がいく。

 おまけにイカルのこの表情。間違い無いな。


「お前…いつから―」


 Bhaaaaaaaaaaaa!!!


 イカルの言葉を遮り、俺の耳に届いたのは地響きだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る