龍王再臨

 謎の咆哮と共に現れたのは、大きな人形の化物。例えるならば、ゴーレムだ。全身に重装備を纏って、細く長い直剣を構えている。その構えに隙はなく、ただただ目の前の敵を狩るハンターのようは威圧感。

 間違いない、あのゴーレムは強い。

 魔眼で視たゴーレムの性能は俺の予想を上回るものだった。

 レベルは…86?!なんだこの攻撃力!6000オーバーは反則だろ!


「サクラ!カノ!ハノナとグリアを連れてギルドへ戻れ!」


 俺は、サクラとカノに全力で叫んだ。とてもじゃないが、あいつらを庇って戦うなんて器用なこと俺には出来ない!


「でも…それじゃあコースさんは…」


「お兄ちゃんは?!お兄ちゃんはどうするの?!」


「俺はいい!お前たちは早く帰れ!」


 サクラとカノが心配してくれるのは嬉しい。が、今はその優しさが裏目に出ている。

 時として優しさは身を滅ぼす、とはこの事か。


「で、でも…!」


「いいから行け!俺は後から帰る!」


「コースさん…それなら一緒に―」


「カノ…!」


 カノの言葉をサクラが遮り、腕を掴む。

 カノは驚いた表情を見せたが、サクラの考えを読み取ったのか、ハノナとグリアの元へ駆け寄っていった。…そうだ、それでいい。犠牲は最小限に留めるべきだ。まあ、犠牲になんてならないけどな。


「では、コースさん!後ほど!」


「お兄ちゃん、信じてるよ…」


 そう言い残し、サクラとカノは転移術を使い、この場から離脱した。

『信じてるよ』、か。ますますやる気が出てきたな。

 俺は焉刃ラグナロクと黄昏一千を実体化し、臨戦態勢に入る。


「これはこれは、深紅龍クリムゾンドラゴンなんて目じゃ無いほどの化物が出てきたものだ」


「全くだ。なんだよあいつは、デカすぎだろ」


「ああ、確かにな。本当に化物だ。そして、そんな相手と出会した時のお前の判断は正しかった。…が、帰るという約束はするべきでは無かったな」


「…勝てないと?」


 イカルは聖剣デュランダルを構えたまま、何も返答してこない。つまり、肯定というわけか。

 だがな、イカル。お前のその思考の中に1つだけ入っていない情報があるんだよ。それは俺が『龍王ドラゴンキング』であるということだ。


「…英雄イカル」


「なんだ突然。何か遺言でもあるのか?それなら悪いが俺も生きて帰れるか分からないから受け取れない」


「まあ、落ち着けよ。そんなことより、お前は龍王の噂を聞いたことがあるか?」


「何を言って―」


 Bhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


 ゴーレムが雄叫びを上げ、少しずつ動き出す。図体がデカイ分、動きは遅い。だが、俺はともかくイカルは一撃で瀕死確定コースの戦いだ。

 なら、こいつは俺がやるしかない。


「っ!来るぞ!」


「イカル、お前は見学だ。英雄様に見せてやるよ、西国を滅ぼしたと噂されている龍王の力を」


「お前は一体…?」


 俺は前へとゆっくり歩き出した。堂々と、悠然と、力強く、足を進める。そして、ゴーレムとの距離が数十メートルというところまで来た。

 近くで見ると、本当にデカイ。ドラゴンが小さく思えてくる。それに、主成分は土っぽい。いや、焼き煉瓦れんがのような感じか。

 ダラリ、と垂らしていた2本の剣を持ち上げ、全力で大地を蹴った。

 その勢いを利用し、黄昏一千でゴーレムの脛部分を斬りつける。が、切断までは出来ず、少し切傷がついた程度だ。

 やはり、ドロップ品やクエスト報酬品じゃ大したダメージを入れられないか。…だが、スキルは別だ。


「スキル発動!―『迅雷』!!」


『迅雷』。黄昏一千のスキルで、敵を100パーセント麻痺状態にするチートスキルだ。


「スキル発動!―『一閃』!!」


『一閃』。敵の認識速度の限界で動くことができる。それに俺のスピードを合わせれば、ゴーレムの認識速度の数倍上をいけるだろう。

 スキルを掛け合わせした状態では、武器の耐久値の減少が早い。ここから求められるのは短期決戦だ。

 俺は剣を握り直し、再び大地を蹴る。

 そして、斬りつける瞬間―


「スキル発動!―『獄炎』!!『断罪』!!」


 更に掛け合わせをした。

 両の剣を振り抜き、足は完全に切断することができた。


 Bhaa…!


 ゴーレムは『迅雷』のスキル効果で麻痺状態になり、その場に膝を付いた。追い討ちをかけるように『獄炎』の効果で切断部から炎が噴き出している。ゴーレムの足を完全に切断できたのも『断罪』のスキル効果あってのものだろう。

 麻痺の効果がどれくらい続くのかは知らないが、『獄炎』の炎は徐々にゴーレムの体を浸食しつつある。決して消えることのない炎。それに任せるのも1つの手だが、時間が掛かりすぎる。

 ………仕方がない。神威を使う。

 俺は2本の剣を仕舞い、神威を実体化させた。腰に来る重み。

 俺は神威の柄を握り締め、鞘から引き抜く。この手に馴染む感じ。大して使っていないのに、これが1番しっくり来る。

 今日は今までで1番火力が出せそうだ…!!


「必殺スキル発動!!―秘奥義『雷切』!!!」


 瞬間、目の前が真っ白になり、何も聞こえない何も見えない状況に陥った。あるのは肌に感じるパリパリという感覚だけ。

 それも一瞬、先に戻ってきたのは聴覚だった。轟音が辺りを震わせ、頭の中で暴れまわる。

 それに続き戻ってきた視覚で捕らえたのは、真っ平らになった足元と、陽の光が差し込む空洞だった。

 洞窟だからと手加減せずに振り抜いたが、やり過ぎたか…?まあ、ゴーレムは跡形も無いわけだし結果オーライ?だな。

 俺は神威を鞘へ戻し、踵を返す。

 そこには目と口を、これでもか!というほど開いたイカルが居た。

 完全に忘れてたわ…。



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