経験値モンスター哀れなり

「お前は…」


 イカルが何かを言おうとして、言葉を飲み込む。いや、何を言うべきなのかがまとまっていないのか。

 きっとイカルの中で様々な思考が飛び交っていることだろう。

 突然現れた謎のゴーレム、それを容易く消炭にした俺、そして、龍王ドラゴンキングの噂。

 理解しがたい異常な事が立て続けに起こったのだ。俺だって、イカルの立場なら混乱する。だから、イカルが俺のことを疑問に思うのは仕方がないのだろう。


「俺のことより、お前は誰だ?…ああ、イカル・ネシオンのことじゃない。の話だ」


「…そう、だったな。自己紹介をしよう。俺はカルマ・ネシオン。サブの人格だ」


「俺は…て、知ってるか」


 ああ、と返事をするカルマ。

 イカルと体を共有する別の人格。イカルがメインで、カルマがサブ。サブということは、ほとんどの時間隠れているのか。おそらく、カルマはイカルの半分も生きていない。

 そんなことを考えると、カルマのキツい口調も強がりに感じ取れてくる。


「それで…お前は?一体なんなのだ?」


 俺はカルマの言葉から一拍あけ、素直に返答した。


「俺が…俺こそが龍王だ」






 俺は互いの正体を明かした後、すぐに南国ギルドへ帰ってきた。イカルは仕事があるとか言って帰ってしまった。

 周囲では、「聞いたか?とうとう南国にも龍王が来たらしいぞ」「ああ、東部の洞窟が崩壊したんだろ?」などの噂がたっている。それにしても、噂ってのは伝わるのが早いな。どっから情報が伝わってるんだよ。


「コース!すまなかった!」


「迷惑をかけたようだな。悪かった」


 ギルド内の椅子へ腰を掛けた途端、ハノナとグリアに頭を下げられた。

 何を謝っているんだ…なんて事は言わない。ゴーレムが現れた時に、俺が全員を帰るように指示したことだろう。


「別に構わない。が、次からは戦意損失することだけは止めてくれ」


 俺は目に力を込め、真正面からしっかりと告げる。

 ハノナ目には涙が溜まり、グリアは苦虫を噛み潰したような顔をして俯いている。

 それぞれに思うところがあるのだろうか。まあ、反省してくれているなら、それでいい。それに、こんな暗い雰囲気は俺たちのパーティに合わない。

 誰か!この雰囲気を消してくれ!


「はいはい、それくらいで終わりにしようよ」


「そうです。これ以上お説教しても気分が悪くなるだけです」


 サクラとカノが良いタイミングで入ってきてくれた。流石は、我が妹(仮)たちだ。いつかは本物にしたい…!

 2人の言葉をきっかけに、ハノナとグリアが顔を上げる。その表情は割り切れてはいないが、前を向こうとしている顔だ。

 その顔に安堵の息を漏らし、俺は腰を上げた。


「さあ、行こうか」


 俺はギルドの扉に手を掛け、振り返りつつ言った。


「まずはレベリングだな」


 この時のグリアの嫌そうな顔が目に焼き付いて、思い出すと吹き出してしまいそうになるのは秘密だ。






 取り合えず、クエストに出てきたは良いが、状況がさっぱり分からない。一体何があった?


「ちょっ、お兄ちゃん助けてぇぇ!なんかザラザラする!あっ、ネチャってした!ねえ!ネチャってしたよぉ!」


「ひゃああ?!コースさん助けてください!このモンスターがゴツゴツしてて痛いです!あっ、ヌルヌルしてきました!お願いしますよぉ!」


 サクラとカノが様々なモンスターとじゃれていた。様々な、と言っても種類と金色は同一。違うのは形だけだ。

 現在進行しているのは『経験値乱獲!』というクエストで、内容は『闘技場にて経験値モンスターを時間一杯討伐し続けろ』だ。

 その経験値モンスターがこの金色異形のこれだと?

 なんとも羨ま…いけないモンスターたちだ。あんなにサクラとカノに纏わりつくなんて。もっとやれ。目の保養にな―


「ん…んん!」


「はっ…ぁん、ぁあ!」


「やっぱ駄目だろこれはぁぁぁ!!」


 俺は焉刃ラグナロクを握り締め、2人の元へ走り出そうとした。

 瞬間、俺の隣を風が走り抜けた。否、ハノナである。ハノナは唯一の武器である『極彩剣』を目にも留まらぬ速度で突き出していた。


「スキル発動!―『ミリオントラスト』!!」


「パブッ?!」「ピグッ?!」「プギッ?!」


 ハノナの攻撃を受けた経験値モンスターたちが次々に消えていく。あれ?あのモンスターってHP満タンだった筈なんだけど。いくら経験値モンスターと言っても一撃では倒せないだろ。現に、グリアはあっちで戦ってるわけだし。

 てか、なんか怖い!めっちゃキレてる!!


「スライム種が…、やはりお前たちは許さない…!」


 どうやらハノナさんのスライムへの怒りは収まっていなかったようです。経験値モンスターたち、哀れなり。

 それはそうと、このモンスターってスライム種なの?確かに半透明なところとか似てるけど、絶対同種じゃないだろ。完全な八つ当たりだ。

『levelup』『levelup』『levelup』『levelup』『levelup』…

 ヤバイことになってる。ハノナのレベルが凄まじい速度で上がっていってる。

 ちょっと魔眼で今のレベルを視てみるか。

『ハノナルノ・アースメルド level―』

 あれ?レベルが見えない。なんでだ?レベルが上限を超えて神々の領域へ―なんてことはないだろうし、単にレベルアップ速度が速すぎて追い付いていないのか?


「ペゴッ?!」「ポガッ?!」


 あ、経験値モンスターが全滅した。まだ時間はかなり残っているんだが。こういう内容のクエストにモンスター上限とかあったんだな。


「ふえぇぇぇえ」


「ハノナお姉ちゃんー!」


「よしよし、怖かったね」


 そう言いながら優しく頭を撫でるハノナは天使に見えた。いけないいけない、見た目は天使でも中身は魔王級の悪魔に違いない。騙されるところだった。


「もし、また次こんなことがある時には、あたしが守ってあげるからね」


「うんっ!」


「はいっ!」


 この出来事から、我が愛しの妹たちはハノナに懐いてしまった。くそっ!やっぱり悪魔だ!










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