三大勢力

 太陽が東の空から顔を出し、街を照らし出す時間帯、俺たちは南国ギルド本部に呼び出されていた。

 この場に居るのは、英雄ヒーローイカル・ネシオン、魔法帝王マジックエンペラー、そして俺こと『龍を喰らう王キング・オブ・ドラゴンスレイヤー』だ。

 俺の二つ名は龍王ドラゴンキングから大きく変化を遂げていた。防衛戦以来、俺は龍の王ではなく、龍を狩る側の存在だと噂が流れたのが理由だ。いつの間にか『3強』なんてメンバーに数えられるまでになっていた。


「はあ…」


「どうしたコース。昨夜は眠れなかったのか?」


「欠伸じゃねふああぁ」


 イカルがお茶を片手に聞いてくる。ちなみに、もう片手にはお茶請けを持っていた。

 欠伸をしながら、欠伸じゃないと否定しておく。ここまで説得力の無い言葉は、自分でも初めて聞いた。だが、勘違いしないでほしい。本当に寝不足では無いのだ。


「で?なんで俺は呼ばれたんだ?かれこれ数時間ほど何もしてないんだが」


 理由はこれだ。真夜中に呼び出され、何かと思って出てきたが、特に何もしていない。数時間ただひたすらにお茶を啜っているだけ。呼び出された意図が全く分からずにいた。


「君を呼び出したのは私だ、『龍を喰らう王』。名は…エンドゥー・コースと言ったか?」


「ああ、それで合っているが…お前は?」


「これはすまない。私は『魔法帝王』ドレイク・オリオンだ」


 啜っていたお茶を置きながら答えるドレイク。

 その隣ではイカルが尚もお茶請けを漁り、手に取ったものを口に運んでいる。その様子をドレイクも横目で見ながら、1つ溜め息を溢した。


「しかし、おいネシオン。貴様は頼まれたことすら出来ないのか?」


「やらはぁホレイフ。ほへはっへはほはへはほほ―」


「あぁ、もう!口に入れたものを飲み込んでから話せ!は行ばっかりで何言ってるか分からん!」


 口の中に水を流し込まれるイカルと、流し込むドレイク。まるで夫婦みたいな光景だ。まあ、男同士なんだけどな。何だかイケない関係の2人に見えてくる。 それにしても、イカルは何かを頼まれていたみたいだな。

 一体何を頼まれていたのだろうか。そんなことを考えている内に、イカルの口内から食べ物が無くなった。


「げほっ!げほっ!いきなり何しやがんだ!」


「うるさい、いいから早く話せ。今度は溶岩を流し込むぞ」


 魔法杖マジックロッドを構えながら、イカルに死刑宣告を言い渡すドレイク。魔法帝王と呼ばれているだけあって、冗談に聞こえない。


「っひ!わか、分かりましたよ!」


 怯えつつも、一息置いてから話始めた。要点だけを取り出すと、『今月末から東国に行ってくれ』らしい。意味が分からない。何故か、いきなり南国の出禁をくらった瞬間だった。

 イカルは話終わったかのように、再びお茶請けに手を伸ばした。刹那、イカルは机に叩き付けられた。それも、物凄い勢いで、更に言えば魔法杖という名の鈍器によって。


「ってえ!説明しただろうが!」


「貴様はアホか?!あれじゃあ、ただ出禁をくらっただけみたいになるだろうが!」


 反論するイカルをすぐさま上から押さえ付けるドレイク。もう、本当に結婚してしまえ。…と、いうかドレイクの口振りからして出禁はくらってない様子だ。良かった。南国を守って出禁とかなったら、鬱になる自信がある。


「え~と、兎に角、俺は出禁をくらった訳では無いという解釈でいいのでしょうか?」


「ああ!勿論だ!英雄より英雄らしい君を出禁にする筈が無いだろう!」


「おい待て!こいつが俺より英雄らしいだと?!聞捨てならんぞ!」


 ドレイクの下からイカルが何か言っているが、もう基本無視で進める。ドレイクは机の上のティッシュを丸め、イカルの口内にねじ込んだ。

 話せなくなったイカルを机の下に転がし、俺はドレイクから詳細を聞くことにした。


「まずは、そうだな。西国亡き今、この世界には3つの国が存在する。南国、東国、北国。それぞれが違った特徴を持っている。ここまでは分かるな?」


 コクリ、と首を縦に振った。

 そんな俺を見たドレイクは、口元を緩ませながら会話を続ける。


「南国は魔法使いが多く、北国は剣士が多い。それぞれのバランスを保つため、近接戦闘向きのイカルが南国、魔法力が高い私が北国に属してきた」


 そういうことか。ここで俺は、何故東国行きを言い渡されたのかを理解した。


「それで、最大勢力として顔を出した俺は均衡を保つために東国行き…ね」


「…ああ、理解が早くて助かる。勿論、あちらに君の邸も用意しよう」


 別に不思議な話じゃない。ある部分に力を集めすぎると、暴走した際に収拾がつかない。これは、日本における『権力分立』の考え方と似ている。

 それに、そろそろ自宅が必要だと感じていた。

 俺が東国へ行けば、3か国は均衡を保て、俺は自宅を手に入れられる。Win-winの関係だ。断る理由が無い。


「…分かった。だが、邸は俺一人で住む訳じゃない。パーティメンバー分の部屋も用意してもらえると助かる」


「当然だ。そのように手配しよう」


「んじゃ、話も纏まったことだし帰るわ」


 俺は席を立ち、扉に向かって歩き出した。まだ明朝とはいえ、ハノナにバレれば、また叱られる。


「すまないな。こちらの都合に巻き込んでしまって」


「…構わないさ」


 不意に掛かった声に、別段驚くこともなく返答し、俺はパーティメンバーと泊まる宿へ足を向けて進みだした。

 その後、イカルはドレイクにたっぷりと肉体的指導を受けたらしい。




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