南国防衛戦後編

「必殺スキル…か。カルマ、お前がやれるのは半分なのか?」


「ああ、俺の必殺スキルは馬鹿みたいに魔力値を持っていかれる。だから、あの数全ては無理だ」


 カルマの必殺スキルで倒せるのは半分。現在、他の近接部隊は地上へ降りた龍種ドラゴンズと対峙して、かなり消耗している。4、5時間の辛抱だ!とか言ってられないほどに。最早耐えるという考えは捨てるべきだ。即効戦いを終わらせなければならない。なら…


「分かった。なら、俺も協力しよう」


「…なに?」


「俺も使用するんだよ。…必殺スキルを、なっ!」


 迫っていた白龍ホワイトドラゴンの首を落とし、カルマとの会話を続ける。


「コースも使えるのか?!」


「まあな。それでどうする?」


「是非頼みたい!…が、問題は『詠唱』時間を誰が稼ぐかだな」


 え?詠唱?何それ俺知らない。この時の俺の頭上には、きっとクエスチョンマークが浮かんでいたことだろう。

 そんな俺を見たカルマは不思議そうな顔で、此方に振り返った。


「まさか…詠唱を知らないのか?」


「え…うん」


「それじゃあコースの必殺スキルには詠唱が必要ないのか?!」


「多分。今まで詠唱なんて使ったことがない」


 いや、そんな『何言ってんのコイツ』みたいな顔されても。使ったことないんだから仕方ないだろ。


「なら、コースに時間稼ぎを頼む。そうだな、1分程度くらいだな」


「了解…っと!」


 左右から飛び掛かってきた火竜レッドドラゴン緑龍グリーンドラゴンを斬り払った。俺はカルマが常に視界に入るように立ち回りつつ、攻撃を仕掛けてくる龍種を全て斬り伏せていく。

 カルマが瞼を下ろし、大きく深呼吸をした。詠唱が始まる…!


「『我欲するは不滅なり』」


 剣を自身の前に突き出し、言葉を発した。


「『全ては滅び、全ては無に還る』」


 カルマが持つ聖剣デュランダルに、光が集まっていく。これまで見たことがない程の輝きを放ち、力の凝縮を示すかのように1つに纏まっていく。


「『世界に終焉が訪れて』」


 俺は片手でカタストロフィを振りながら、神威を実体化させる。

 龍種の目線は一斉にカルマに集まった。だが、誰一人行動を起こそうとはしない。


「『万物が滅びようとも』」


 カルマはゆっくりと瞼を上げ、異様な輝きを放つデュランダルを鞘に納めるように引いた。…今だ!


「『この剣のみは悠久の時を駆け抜けた』!行くぞ、コース!―奥義『絶対なる不滅の刃アポリート・アサナタ』!!」


「分かってる!―秘奥義『雷切』!!」


 俺はカルマと同じタイミングで神威を振り抜いた。

 カルマの必殺スキル『絶対なる不滅の刃アポリート・アサナタ』は、刃が描いた軌道上から無数の斬撃が放たれるというものだった。

 それに対し、ただ強烈な一撃を与える雷切。発動する度に威力が増加していくスキルを持つ神威は、初期の雷切を遥かに上回る威力を発揮した。

 四方から聞こえる龍種たちの断末魔。中には命乞いに聞こえるものもあったが、それも直ぐに消えてなくなった。

 数秒後、その場に龍種の影は無く、あるのは静寂と陽の光だけだった。






 ギルドに戻った俺たちは、イカル主催の下、祝勝パーティを楽しんでいた。勿論、俺はイカルの隣の席だ。


「コースさん!最後に使ったあのスキル!一体何て言うスキルですか?!」


「今度特訓してください!コースさん!」


 さっきからこういう冒険者が俺のところにやって来る。南国防衛戦ラストで俺は『雷切』を使った。即ち、それは俺が『龍王ドラゴンキング』であることを公表したに等しい。それが原因で敵対視されるかと思っていた。だが、俺が最前線で龍種と戦っているのを見ていた冒険者によって防がれたのだ。


「ああ。時間があればな」


 それだけ伝えると、冒険者たちは自席の方へ戻って行った。こんなに注目されることが無かった分、無駄に疲れる。


「人気者だな」


「ほぉ、イカル。そんな人気者の俺からお前にプレゼントだ」


 俺は手元にあったフルーツの果汁を、イカルの顔にぶっかけた。


「ぎゃああああ!」


 席から転げ落ちながら、目を擦るイカル。どうやら、柑橘系のフルーツだったらしい。初めて見るフルーツだったから仕方ねえな。うん、避けなかったイカルが悪いことにしよう。


「コース…何てことするんだ」


「まあまあ、悪気は無かったと思うぞ。それよりも、ほら!このジュース飲んでみろよ!」


「お前の事だろう!なんで他人事みたいに言ってんだよ!…ったく!」


 そう言いながら俺の手からコップを奪い取り、中の赤い液体を飲み干した。直後、イカルは喉を押さえながら苦しみだした。

 どうした、どうした。これって飲み物だよな?…あれ、なんか書いてある。えーと、『激辛ソース※お好きにご使用ください』?あ、これ飲み物じゃねえ。なんでコップに入ってんだよ。


「お、おおお客様!お水です!」


 慌てて出てきた店員に渡された水によって、イカルは少し楽になったらしい。


「ぷはっ!はっはっ」


「おいおい、発情期の犬かよ」


『はっはっ』ってのが、家で飼っていた犬に似ていた。あの駄犬、俺の布団をトイレ代わりにしやがるし、発情期になると静かに近付いてくるし。怖かった。まあ、イカルは弄ばれるタイプだから俺の飼っていた駄犬とは違うか。


「きっ貴様ぁぁぁ!!」


「ああ?!…うわっ!!」


 掴み掛かってきたイカルの頭を押し返しながら、口論を繰り広げていると、いきなり剣先が俺の頬を掠めていった。この剣、見たことある。

 恐る恐る振り向くと、冷徹な笑顔を浮かべたハノナが立っていた。


「…コース?お迎えに参りましたよ?」


「何故に疑問系?そして、何故に敬語?」


「帰るぞ!コース!」


「…はい」


 俺はパーティを最後まで楽しむこと無く、ハノナに連行されてしまった。あ、イカルは次あった時に斬る。絶対だ!


「コース!」


「…ごめんなさい」


 ハノナの読心術は相変わらずだった。







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