調査クエスト
一閃。
刃を振り抜く。
真正面から斬り裂いたモンスター。
名前も知らないモンスターが、最後の咆哮を残して倒れた。
特徴として、無駄に大きな口と退化した目。…新種だろうか。
そんなことを考えるのも、俺たちが調査クエストに来ているからである。
『調査クエスト:新たに発見された新天地で生息モンスター情報を集めるクエストのこと』
と、ギルドの受付人が言っていたの思い出す。
光の粒子となって消え行くモンスター。
そんな光景を見ながら、俺たちは足を動かした。
既にクエスト時間は2時間を越えようとしている。いや、本来の時間など役に立たない。この場所において、時計は意味をなさなくなっていた。頼れるのは体内時計と勘のみの状況。
前も後ろも右も左も分からない。
それほどまでに、この洞窟、否、
「ねえ、お兄ちゃん~。何時になったら帰れるの~?」
「うーん、正直分からないな。流石に2日以上も俺と連絡が取れなくなっていたら、イカルかドレイクが捜索隊を出してくれると思うんだが…」
『
俺たちは孤立しないように常に固まって行動している。こうしていれば、強敵に出会しても対処できる。
ハノナ、グリアの防具もぼろぼろになっており、武器の耐久値も残り少ない。俺が握っているカタストロフィの耐久値もほとんど無い。
一応、予備の武器として何本か買ってあるが、あまり役に立つとも思えない。
「では、どうする。このまま捜索隊とやらが見つけてくれるまで待つのか?」
「いや、それは期待していない。こんな新天地、それも入り組んだ迷宮だ。捜索隊と一緒に迷子生活第2期の始まりだ」
グリアもこの状況を打開する策を考えているらしい。だが、答えが出ないようだ。
―チチチチチッ
何処からか、ネズミの鳴き声のようなものが聞こえる。それも1匹2匹ではない。もっと沢山。それこそ例のスライム事件と肩を並べるほどの―
―チチチチチッチチッチチチチ!!
前方、暗闇の中に光る赤い点。
それらは不気味に揺れ、次第に数を増やしていく。
ネズミのような鳴き声、赤い光、無限とも思わせる数。全ての特徴が一致するモンスターを俺は知っている。
《ザ・マウス》。現時点において、最も数が多い種だ。単体では最弱、群れを成せば強敵。冒険者なら誰もが知っていることだった。
「ザ・マウス?!よりによって…!」
「全員戦闘準備だ!サクラとカノは後方支援!あたしとコース、グリアは前へ!」
剣の柄を握っている手は、滲み出た汗で湿っている。その刀身からは、斬ったモンスターの体液が滴り落ちている。
ここにくるまで、数多くのモンスターを斬ってきた。だが、ここではそれ以上の数を一斉に相手にしなくてはならない。
場に走る緊張感。
モンスターとの戦闘時は常にこんな空気が流れている。この空気だけは何度浴びても慣れる気がしない。
朦朧とする意識の中、ハノナの合図で呼び戻された。
そうして、戦闘は始まった。
緊張、畏怖、焦りを一旦頭の外へ。
「『ミリオントラスト』!!」
「『ブラスターカノン』!!」
各々が各自の役割を果たすため、剣を抜く。ハノナはラッシュ数重視の攻撃、グリアは威力と広範囲を意識したスキルを発動させた。
『ブラスターカノン』。
グリアの新スキルであり、剣士技ではなく魔法技。そもそも、グリアは南国育ち。剣術より魔法の才に優れている。
「え~い!『サウザンドキャノン』!!」
「『インフィニティソード』!!」
サクラとカノも続いて魔法を発動する。
千の砲台と無限の剣。どちらとも強力な魔法だが、数の分体力切れも早い。
だが、それ以上の速度でネズミの数が減っていく。
ザ・マウスは群れると脅威となるため、上位モンスターと指定されている。そんなモンスターが為す術なく倒れていく。
―強い…!
停止していた思考を動かし、状況を把握する。
彼女たちは俺の想像を遥かに越える速度で成長していた。
気付けば、視界からザ・マウスの姿が消えていた。
皆の口から漏れる息はかなり荒れている。あの数相手に魔法、スキルの連発あるいは継続。疲労が溜まらない筈がない。
その場に座り込んで休息をとるパーティメンバー。俺は背後からそれぞれのアビリティ詳細を覗き見た。
『ハノナルノ・アースメルド level27
体力:1860 スピード:2000 防御力:1690
状態:―
装備:銀鎧Le.4 極彩剣Le.9』
その成長振りに俺は絶句した。
俺は以前のステータスをハノナのものしか知らない。他のメンバーの成長速度は分からないが、決して弱くない。
ここまでの異常な成長。人知れず積み重ねた鍛練の賜物だろうか。あるいは、経験値乱獲クエストの報酬か。
そのどちらでも構わない。ハノナは強くなった。その事実だけが俺の胸を熱くする。
そんな俺を怪訝に思ったのかハノナが隣まで足を運んできた。
「見ていたんだろう?あたしのステータスを」
「あ、ああ。かなり驚いた」
「…うん!そうかそうか!それなら良かった!これでようやくコースの隣に立っていられるな!」
瞬間、俺の胸は更に熱くなった。
赤い髪を手で捲し上げながら、彼女が放った言葉が頭の中でエコーする。
今、この時だけは、彼女の顔を直視することが出来なかった。
ソード・マジック・ワールド 蓬莱汐 @HOURAI28
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