スライム超グッジョブ!

「ハノナさん!行きましたよ!」


「了解だ!―『ミリオントラスト』!」


 先日、ハノナが会得した新スキル『ミリオントラスト』。どうやら音速にも近い速度で斬撃を繰り出せるらしい。そんなスキルを得たためか、俺達はクエストに駆り出されていた。

 グリアがグリーンスライムを追い詰め、ハノナがスキルを使って仕留める。今日だけで何度目だろうか。

『依頼名:緑の妖精大捜索

 内容:リーフフェアリー15体の捜索・保護

 場所:毒沼

 報酬:1500000G

 ?????』

 このクエストはいつもと違うところがある。

 まず、グリアがいること。俺はグリアの戦闘スタイルをあまり知らない。だから、連携が取りにくいが、これは大した問題ではない。

 次に、このクエストはギルドで受けたものではない。これが問題なのだ。

 ギルドで受けていない、それはギルドには無かったということだ。つまり、ギルドに認められなかった、またはギルドには頼めない何かと言うこと。

 これは本当にフェアリー捜索が目的のクエストなのか?


「うわっ!また出てきた!」


「え?わあああああ!!」


 どうやらグリーンスライムの仲間が来たらしい。

 この世界、と言うか全ゲームで雑魚中の雑魚位置であるスライムなんて何体出てきても余裕だろ。何をそんなに慌ててるんだ?

 そう思いながら声の方へ首を回した俺は、目の前の光景に言葉を失った。


「え、何この量。何か気持ち悪い」


 俺の視界に入る地面は、グリーンスライムによって真緑になっていた。数は数百ってところか。うねうねしてる、気持ち悪い。

 ハノナはひたすらに『ミリオントラスト』を放ち続け、グリアは剣にも魔法杖マジックロッドにも見える武器で攻撃していた。

 クイックウルフ戦では斬撃系スキルを使っていたが、数が数なだけに斬撃系スキルを控えているのだろうか。

 そういえば南国は魔法中心国だったな。グリアは使えないのか?

 俺も早くこの気持ち悪いものを排除したいし、聞いてみるか。


「おい、グリア。お前、魔法は使えないのか?」


「いや、使えるのは使えるが。僕の魔法は溜め時間が長くてね。まあ、でも使えればスライムを一掃くらいは出来る筈だ」


「よし、分かった。その時間は俺が稼ぐ。お前は魔法でスライムを蹴散らせ」


 そう言って、俺は近付いてくるスライムを次々に真っ二つにしていった。グリアは俺の後ろで魔法詠唱を始めている。つか、ほんとに長い。

 俺がグリアを庇いながらスライムを斬っていると、隣から真ん中に穴が開いたスライムが飛んできた。

 まあ、十中八九ハノナだよな。


「すまない、遅くなった」


「いや、大丈夫だ。俺が前に出てるから回復を済ませろ」


 ああ、と言い、ハノナは回復薬アナクティシ・ドリンクで回復した。

 その後、俺とハノナでスライムを数十体ほど倒し、グリアが槍の雨を降らせ、スライムを一掃した時。


「きゃああああ!」


 俺の背後、さっきまでハノナが居た辺りから叫び声が聞こえた。

 振り返ると、他のスライムより数倍ほど大きいスライムがハノナに纏わり付いていた。それだけなら脅威ではないが、スライムは装備を溶かす体液を持っている。冒険者に女性が少ない理由の1つだ。

 案の定、ハノナの装備は融解を始めている。

 ハノナの装備は鉄鎧。ゲームで言えば初期装備だ。だからだろうか。ハノナの装備の融解が早い。

 既に腹部の鎧は溶けきり、胸の下辺りまで無くなっている。

 更に、スライムの体液は鎧しか溶かさない。鎧の下、その…下着はそのままだ。ある意味、一番恥ずかしい格好である。


「コースぅぅぅ!助け…ひゃっ!」


 ハノナが何かに驚いたような声を漏らした。

 よく見ると、スライムは下着の中にまで侵入しようとしている。確かに固体と言えるほどの原型はないけどさ、下着の中に入るとか羨ま…とんだ変態モンスターだな。

 つか、グリア。お前手で見えないようにしてるつもりかも知れないが、隠れてないから。その中指と薬指の隙間は何だよ。

 なんて思っていると、ハノナの甘い声が耳に入ってきた。


「あ…ぅん。い…や、ひゃっ!」


 あー、えっと、助けにくい。何か、うん、すごくイケナイものだと思います。眼福…じゃねぇ!


「ハノナ!―『断罪』!」


 ハノナが取り込まれている以上、斬りかかれなかったが、『断罪』を使うことでスライムのみを斬ることが出来た。

 このスキル、かなり便利だ。

 スライムが消え、その中から出てきたのは座り込んでいるハノナだった。胸の部分も溶けきり、完全に下着姿だ。

 脱力した様子で、息を切らしている。HPゲージは後9割ほど残っている。つまり、ほぼ満タンだ。

 あのスライム、ただ鎧を溶かしただけとか。スライム超グッジョブ!


「コース」


「…どうした?」


「ん」


 ハノナは静かに手を出してきた。え、どういうこと?


「手。貸して」


 俺が戸惑っていると、ハノナは少し怒ったように言った。


「ほら」


「よい、しょっと」


 立ち上がったハノナの足元はふらついている。まだ力が入らないのだろうか。

 それに顔がかなり赤い。まあ、さっきまでスライムにあんなことをされていたんだ。仕方ないか。

 後、グリア。なんでお前が一番恥ずかしそうなんだよ。ハノナより顔赤いだろ。


「…リタイアするか」


「まあ、妥当ですね」


「いつの間に戻ってきたんだよ」


 俺の提案にグリアとハノナも頷いている。

 俺はハノナを背負い、グリアと共に毒沼を後にした。




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