旅の始まり

 俺は神威に目線を落としていた。

 あの時、神威が放った威力はクリムゾンドラゴンのそれを遥かに凌駕していた。

 普通に考えれば、刀は使い手の成長と共に強くなっていく。だが、俺は大した成長をしていない。なら、これは神威本来の力なのか?

 後者の可能性が高いな。

 だが、一体どうやって確認するものか。

 顎に手をやり、深く考え込もうとした時。


「おい、コース!これは凄いぞ!」


「なんだ?」


 いきなり声を掛けないで下さい。心臓に悪いです。


「クリムゾンドラゴンのドロップ品だ!レア中のレア!超激レアアイテム、『魔眼クリムゾンドラゴンの眼』だ!」


「何に使うんだ?」


 眼なんて要らないだろ。武器に使えないし、加工しようにも柔らかくて弱そうだ。

 まあ、超激レアアイテムと言われれば貰わないわけにはいかない。うん、仕方がない。これは人の性だ。


「これは人や武器のステータス、HP、状態異常などを知ることが出来るものだ!」


「前言撤回、超要る。めっちゃ必要」


「あ、ああ。そうか」


 かなり食い気味で近寄ると、少女は少し引きながら魔眼を差し出した。なんだろう。胸がチクッとしたな。

 俺は魔眼を目の前で持ち、それを覗くようにして神威を見た。

 すると、神威の周りに文字が浮かび上がってきた。魔眼から目を離すと文字は消えている。なるほど、こういうことか。

 再び魔眼を使う。

『武器名:神刀・神威

 攻撃力:9999 耐久力:9999 魔力:―

 スキル:雷神 一撃必殺

 秘奥義:雷切』

 そこに浮かんだのは目を疑うような数値だった。


「は?」


 何これチート?強すぎだろ、これ。攻撃力と耐久力なんてカンストしてるし。魔力が表示されてないのも気になるな。

 それに、スキルの一撃必殺は分かるが、雷神って何だ?


「なあ、スキルの詳細って見れるのか?」


「…ハノナ」


「…え?」


「ハノナ!ハノナルノ・アースメルド!あたしの名前だ!」


「あ、じゃあハノナ。スキルの詳細は…」


「見れる。魔眼を通して見ながら、そのスキル名を呼べばいい。口に出さなくても、考えるだけでも出来るはずだ」


 まさか、このタイミングで女の子の名前を知ることとなるとは。

 まあ、それはそれとして。

 俺は言われた通り、胸の中でスキル名を呼んだ。

(雷神!)

『スキル名:雷神

 能力:神威を使えば使う程、魔力が大幅に向上していく』

 そういうことか。だから、魔力は表示されていないのか。

 しかし、これは使ってもいいものなのか?たった3度使っただけであの威力。下手をすれば俺が国を滅ぼすのではないだろうか。

 だが、代わりの武器もない。武器屋も潰れてしまっているし。あと、武器を手にいれる方法と言えばクエストの報酬―

 あ、ファイアドラゴン2体のクエストの報酬に武器があったな。あれ?でも、どこで受け取るんだ?


「ハノナ、クエストの報酬ってどうなってるんだ?」


「ああ、それならストレージボックスを見てみるといい」


 ストレージボックスって何だ。そんなもの俺は知らない。


「まさか、知らないのか?」


 いや、そんな目を見開いて驚かれても。

 まあ、ここは素直に従おう。それ以外に道はないな。


「はい。知りません、御教授ください」


「う、うむ。右上辺りに逆三角形がある。それに焦点を合わせればいい」


 …おお!開いた!えーと、武器はこれだな。何々、『焉刃ラグナロク』これか。

 俺はラグナロクを取り出し、魔眼を使った。

『武器名:焉刃ラグナロク

 攻撃力:4500 耐久力:6980 魔力:8700

 スキル:獄炎 断罪』

 秘奥義ってのは神威だけのものなのか?スキルの詳細も見てみるか。

(獄炎!)

『スキル名:獄炎

 能力:消えることのない炎を発生させる』

(断罪!)

『スキル名:断罪

 能力:相手の存在を罪と仮定し、その罪を裁く』

 よく分からないが、とにかく強いな。特に断罪は対象を世界に設定すれば、世界をも裁けるのだろうか。…ラグナロク。世界の終わり…か。

 これがあれば神威は使わなくて済みそうだな。本当にヤバくなれば使うが、普段は抜かずにおこう。

 …それにしても西国は復旧不可能か。流石に復旧させる人が居なければ直るものも直らないからな。

 うーん、南に行くか。理由は無い。


「ハノナ。俺はこれから南の国に行く。お前は」


「あたしも行くに決まってるだろう」


 あ、決まってるんだ。だが、1人で行くよりはいいかな。それに何故かハノナからは目が離せないし。


「そうか。なら、これからも宜しく頼むよ、ハノナ」


「こちらこそ宜しく頼む、コース」


 こうして俺と彼女の小さな旅が始まった。



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