千歳の特技がマジでくだらない。

「俺、彼女が欲しい」


 俺は一世一代の悩みを告白した。クズに。


「作れば?」


 短く、まるで興味ない感じで答えられる。


 放課後の教室。半袖のワイシャツに、学年カラーの緑色のリボンをつけて、夏服の装いで千歳はいつも通り頬杖をついていた。


「いやいや。もっとなんかないの?」


「は? 例えば?」


「友達もいないのに彼女なんて無理よ! とか」


「その通りね」


「キモいんだから一生できるわけないわ! とか」


「まったくもってその通りね」


「彼氏の間違いじゃない!? とか」


「言われてみればその通りね」


「…………あの、ツッコんでよ。じゃないと俺、立ち直れないよ……」


 千歳は俺との会話にはまるで興味ない様子。ぼおーっとしてる。


「はぁ……」


 実際、なんでこんな奴と連んでるんだろうか。千歳と偽リア充のチームを結成する時に、一ヶ月はチームを抜けちゃダメという約束をした。約束の期限は一週間後。

 千歳と関わってから、変な奴と知り合う機会が多い。その全部が千歳と関わるようになったから、始まった縁だ。


 続けるべきだろうか。


 偽リア充。


 俺は思う。


 ──このまま千歳と一緒にいても、俺はリア充になれないんじゃないだろうか。

 まあ、だからって、ここで千歳から離れても、偽リアどころか、ぼっちに逆戻りする未来しか見えないけど。


「まあ、そんなに落ち込むことないわ」


 え。


 千歳と関わってて、初めて励まされたような気がする。

 どういう風の吹き回しだ。


「私、特技あるの。短所を長所に言い換えられるのよ。イッツスーパーポジティーブ!」


 ドヤ顔で横文字を披露したが、どう反応していいか分からん。


「うーんと、例えば、『ぼっち』だとする。『ぼっち』という短所を長所に言い換えると、『人に流されない』『友達ができたら大事にしそう』」


 言い終えると、再びドヤ顔。


「できたら大事にしそうってあやふやすぎるだろ」


「実際そうでしょ」


「まあ。自分の部屋に写真をたてまつるくらいはするかな」


「キモ!」


 えっ、しないの!?


「でも、良い感じだな。『ぼっち』という短所が、長所の武装を施したような、とても良いと思うぞ」


 今までの千歳と比べれば、悪くないと思う。口を開けば悪口のオンパレードだった彼女から、フォローの言葉が聞けるなんて。感無量だ。


「ねぇ? 何の話してるのー?」


 俺と千歳に、話しかけてくる女子生徒の声。俺は振り返る。そこには茶髪で巨乳のリア充、小早川紗楽さんがいた。


「チッ。懲りずにまたやってきたな」


 千歳が嫌な顔をする。


「懲りずにって何よ? 私は別に、西君にレ◯プされても構わないわよ」


「構えよ! つうかしねえよ!」


 何なの、この自称幼馴染は。


 すると、千歳は紗楽さんの体をジッと見つめ、頷いた。


「『夢と希望が詰まってる』」


「は?」


 紗楽さんはポカーンと、口を開ける。


「いや、今、人の短所を長所に言い換えるってことをやっててだな」


「私のこのナイスボディは短所じゃないわよっ!」


「どこからどう見ても短所だろ!」


 千歳と紗楽さんは睨み合う。どうしてこの二人はこんなに仲が悪いんだろうか。ホント、呆れるな。


 紗楽さんは負けじと、こう言った。


「なら! なら『クズ』は!? クズを長所に言い換えてみなさいよ」


「西君は別にクズではないと思うけどな」



「「お前だよ!!」」



 紗楽さんとツッコミが被った。


「まあ、『カワイイ』とかじゃない?」


「それ『クズ』じゃなくて、『千歳』のことだろ」


「あら、ありがとう。西君だけよ。面と向かって可愛いって言ってくれるの」


 ニコッと、千歳は笑った。か、可愛い……。


「お、おう。え、いや、違う!」


 俺が言いたいのはお前が可愛いなんてことじゃねえ。


「ムキー!!」


 なんか、紗楽さんが悔しそうにしていた。が、それと反対に、千歳はイキイキとしている。


「もっとお題をくれ」


 何故かノリノリだ。


「じゃあ『足が臭い』は? 私のお父さん足が臭いのよ。それをどことなく指摘したいのだけれど」


 紗楽さんがそう言うと、千歳は黙って考える。そして、すぐに口を開く。


「『足からフェロモンが出せる』」


「早くも大喜利と化したな」


「西君、君はぼっちだから知らないと思うけど、青春は大喜利なのよ?」


「なに名言っぽいこと言ってんだ? お前もぼっちだろ」


「はいはい。無駄話はいいから、早くお題ちょーだい」


 むしろ、この短所を長所に言い換える遊びの方が無駄話だろ。


 俺は呆れながら答える。


「じゃあ、お前にさっき言われた『キモい』は?」


「『存在感の塊。自己主張の天才』ね」


「キモいからだろそれ!」


「でも、なんでキモい人ってあんなに存在感あるんだろうね」


 と、紗楽さんが俺を見て言う。

 千歳も俺を見て言う。


「だから、キモいからだよ」


「二人して俺を見るな!」


 仕切り直して、紗楽さんが口を開く。


「あっそうだ。私、こないだ『LINEでブロックされちゃった』んだよね」


 なんて悲しい現実なんだ、リア充よ。


「うむ、短所とは違うので却下」


「いやいや! せっかく恥ずかしい思いを我慢して告白したのにっ!」


「いやお前が勝手に言ったんだろ」


「ううー……」


 本気で悲しそうな顔をする紗楽さんを見て、申し訳なく思ったのか、千歳はしょうがなく頷いた。


「分かった、しょうがない。それは『直接話したいという無言のメッセージ』だろ」


「おお!」


 俺は思わず歓声を上げた。


 中学時代、クラスメイト全員からブロックされた経験を持つ俺にとって、それはすごく励みになる言葉だった。


「つまり、中学時代のクラスメイトは全員俺と直接話したかったってわけか」


「いや、それは西君が単に中学時代のクラスメイト全員から嫌われていただけよ」


 なんでだよっ!?


「『うんこ』! 『うんこ』は?」


 嬉々として、紗楽さんは言う。

 紗楽さん、女の子がそんなこと言っちゃダメだぞっ。


「『洗い流せる』」


「誰が上手いこと言えと?」


「思いついちゃったんだからしょうがないじゃない」


 うむ。思いついちゃったんなら仕方ないな。


あっ、そうだ。じゃあ俺の今のこの悩みは、どうフォローしてくれるんだろう。


「じゃあ、『彼女が欲しい』は?」


 ニコッと、千歳は笑う。


「『恋の物語を描き始める準備ができた』」


 おお。おお!


 いや、確かに凄い。だけど、何故だ。何故、それを一番最初に言わない? 果てしなく無駄な時間を使ってしまったじゃないか。


 でも、こうして放課後に、クラスメイトと駄弁るというリア充み溢れる行動は、悪くなく、結構楽しかった。

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