リア充って精力ゴリラってま?

「あら? なんか、すれ違う人々全員がこちらを凝視してくるのだけれど」


 当然だ。お前の隣にいるのは全校生徒が『ぼっち』という共通認識を持っている天下の大ぼっち西にし 八尋やひろ様だぞ。


 何故そんな悲惨なことになったかというと、実のところ俺にも原因がわからない。

 俺だってこの世に産声をあげた時からぼっちだったわけじゃない。何事にも始まりがあるように、ぼっちにもきっかけがあるわけで……。だが、それがいつからだったのか、はっきりとは分からない。言われてみれば高校生になる前からぼっちだったような。

 でも、中学の時はぼっちではなかった。俺にも友達が一人くらいはいたさ。何故そいつと同じ学校にしなかったかって? そりゃ俺も同じにしたかったさ。


「俺、咲高さくこう受けるから、お前も受けろよ」


 その言葉を最後に、彼は俺の前に二度とその姿を見せることはなかった。

 どこの高校行ったんでしょうね、彼……。今思うと、彼ともそこまで仲が良かったのだろうか。もしかしなくてもこれは一方的な友情だったのかもしれない。遊びに誘われること一回もなかったし。たまたま二回連続で席が隣だっただけだ。なんか、泣けてくる。


 まあ、無事、咲高さくこうに進学した俺は、まあ、ご覧の通りぼっち街道をまっしぐらなのだが、俺ははたから見れば『リア充』と化している。


 何故なら、俺の隣には美少女が歩いているからだ。

 目が大きく、肌は白く、唇は薄桃色。純情可憐で大和撫子。しかしそんな大人っぽさの中に幼さも感じられる顔立ちの、まさに美少女。


「何見てんだよマジで。死ねよクズカス」


 が、言動に難あり。こちらを物珍しそうに見てくる生徒に、暴言を吐いて回るガッカリ美少女。

 彼女の名前は千歳ちとせ 千李せんり。彼女もまた、ぼっちらしい。らしいってのは、実は俺は、この美少女でありクラスメイトである千歳 千李の存在自体、数時間前に初めて知ったからだ。


「さてと、ここら辺でいいわね」


 と、彼女は足を止める。


 いや。


「なんで体育館裏!?」


 はっ、カツアゲ!? まさか、千歳がぼっちっていうのは嘘!? 隠れてた仲間が陰からドビャー! って出てきて「銭払えや兄ちゃんオラ」って。これ以上ぼっちから何を奪い取る気なんだこの悪魔め……!


「よし、──青姦しましょ」


 あー、なんだ、カツアゲじゃなかった……。うん、え、あおかん?


「……あ、えっと、聞き間違いかな? 青姦って言った?」


「ええ。青姦。何よ? リア充と言えば青姦でしょ? 青姦でアホなリア充共を一網打尽よ! リア充ホイホイよ!」


 いや、リア充=青姦ってどんな偏見だよ。精力ゴリラじゃねえか。

 そもそも、……いや、待て。これは、俺は、千歳とコトをするチャンスではないのだろうか。ものの数分しか関わってはいないのだが、充分性格がクズってのが分かった。だがしかし、顔だけ見れば超絶美少女。そんな子とできるというのは……リア充街道まっしぐらではないのだろうか。友達を作らずしてリア充になれる、最大最強の大チャンスではないのだろうか。


「なに固まってんの? もしかして童貞? なんなら私がレクチャーしてあげよっか?」


「ご指導ご鞭撻べんたつのほど宜しくお願い致します!!」


「よろしい!」


 心なしか、前より千歳が可愛く見える。


「じゃ、とりあえず、服を脱ぎなさい」


 やばい、こんな簡単にリア充になれるのか……! はぁ、はぁ、はぁ。


 俺はゆっくりと、鼻息を荒くして、ブレザーを脱ぐと、手を震わせながら、ワイシャツのボタンに手をかける。あれ、なんでだろう、は、外せないな……。まあ、どうでもいい。引きちぎっちゃえ!


 ブチーン!


 俺はワイシャツを勢いよく引きちぎり、俺のやわな肉体美が空気に晒される。


「はぁ……、はぁ、はぁ、はぁ」


 っ……! そうだ。ち、千歳。千歳は今、どんな状態なんだろうか。

 俺は顔を上げ、羨望の眼差しで、千歳を見た。

 制服を着て、醜い物を蔑むように白い目を向けていた。


「……なんで服脱いでんの?」


 は? え? ん?


「な、なに……? 状況がわけ分からないんだが」


「アンタの格好と、制服の脱ぎ方の方がわけ分かんないわよ」


「いや脱げって言った!」


「言ったけど本当に脱ぐ奴があるか!」


「はぁ!?」


 なんなんだ、コイツは。


「じゃあ服着たまんますんの?」


「当たり前じゃない」


 変態か!?


「じゃあ、いくわよ」


「お、おう」


 俺は唾を呑んだ。


「あっ……いや、やめて……、ダメよ、八尋君」


 は。


「あっ、そんなっ……お、おっき……ぃ……入んないよぉ……、あっあん! あんっ……あっ……あっあっ……だめっ……」


 千歳は喘ぐ。なお、俺は千歳に指一本触れていない。もっと言うと、千歳本人も、自分のソレに触れていない。


 つまり、千歳は喘ぐ、フリをしている。

 女の子の演技怖ええ、とか思う暇なく、千歳は喘ぎ続ける。


「あっ……ああぁっ……! あんっ……。らめぇ……やめてぇぇ……! イクイクイクぅ……! イッちゃうのぉぉおお……!! ……いや、ちょっと、ボサッと突っ立ってないで、何か言いなさいよ」


 千歳は急に冷めた口調。俺も冷めた目と口調で返す。


「お前の方がわけ分かんねえよ」


「感想は求めてない。女の子に恥をかかせる気? お前もやりなさいって言ってるの」


「もうかいてんだろ、勝手に」


「だから、お前も一緒に喘ぎなさいよ」


「喘ぐか!」


 頭沸いてんのか、この女。


「──本番は……」


 突然、か細い声で、千歳は言う。


「本番は好きな人としたいじゃない」


 純……情……!?


「違う。そんな純情ぶってポイント稼いでるところ悪いけど、俺が気になってんのは、この青姦芝居をする意味だよ。青姦芝居をして、リア充になれんのか?」


「まずは形からって言うでしょ?」


「青姦型リア充なんて聞いたことも見たこともねえよ!?」


「見たことはあるでしょ」


「ねえよ!!」


「おかしいわね。私の見たビデオではそういうのばっかだったのに」


「それAがつく大人のビデオだろ!?」


「筋肉ムキムキのイケイケの兄ちゃん達がファッファッしてる」


「しかも野獣パイセンかよ!?」


「冗談よ」


「どれがだよ」


「A◯なんて観たこともないわ。汚らわしい。はっ、まさか! こんな人気ひとけのない所に連れ込んで、レ◯プでもする気!?」


「お前が連れ込んだんだろ!」


 あと、もっとオブラートに包め!


「さあ、青姦芝居の重要性も理解してもらえたところで、続きをしましょ?」


「何一つ理解してねえんだが」


 なんなんだコイツは。下品な単語恥ずかしげもなく発しやがって。顔は可愛いし、声も高くて可愛いのに。

 だから、ぼっちなのか。


 まあ、人のこと言えんし。俺はイケメンでも美少年でもない、ただのぼっちだから、なおのこと何も言えない。俺にとってのステータスは、このぼっちだが、ゲスだが、クズだが、顔だけは可愛いこの千歳という少女と、一緒にいることなのだろうな。


「ふぁぁああ。マジでダリィ……」


 突然、男の声がした。そして、体育館裏に向かう足音も聞こえる。どうやら、こちらに向かってくるようだ。


 俺達の間に、無音の緊張が走る。


 俺はそっと千歳の顔を見た。

 千歳と目が合う。その、大きな瞳は一瞬だけ閉じて、こちらに合図を送った。


 おいまさかやめろ。


「ああああああああああああッッッッ!!!」


 突然、千歳は大きな声を出す。


「らめぇぇえっ……! イクイクイクゥッ……!」


 足音は、完全に止まる。どころか、全速力でこちらに走ってくるではないか。


 しかもなんでコイツ喘ぎ声がみさくら語なんだ。精通し過ぎだろ。


 俺は全力で千歳の口を腕で塞ぎ込み、


「ふがっ……」


 暴れる千歳の小さな体を羽交い締めにして抑え込むと、地面に倒した。


「かっ……おいっ! さすがにそれは痛いって!」


「うるせぇ。マジで。俺はお前のためにやってんだよ!」


 ダダッ、と。尻餅をつく音がした。

 先ほどの生徒だろう。

 俺は千歳がまた妙なことをしないように、羽交い締めにしたまま、顔を上げる。

 チャラそうな男子生徒が、こちらに驚愕の眼差しを向け、尻餅をついていた。

 それもそうだ。女子を羽交い締めにしてるんだから。


「ああ。違うんだ。これは……」


「制服ビリビリのぼっちが精力を抑えきれず千歳さんを人気ひとけのないところでレ◯プしてるぅぅぅううう!!??」


 全速力で走り去る男子生徒。


「違うんだッ!!」


 俺は千歳から飛び離れ、全速力で男子生徒の尻を追っかけた。


 ☆☆☆


 その後、俺は生徒指導室に連行されたが、千歳が誤解を解いてくれて、なんとか俺は事なきを得た。

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