また、はたから見ればゲイとクズ。
休み時間、ぼっちである俺こと西 八尋は、一人でいる時間がなくなった。
寝たフリをするだけの、酷く退屈な時間だったその時間になると、俺は周囲の視線を気にしてフラフラと窓際の席に向かう。
窓際の席に、こちらを睨んでいる童顔黒髪の美少女。
「遅い!」
いきなり怒鳴られる。
童顔黒髪美少女は髪を掻き分け、こちらに大きな丸みのある目を、尖らせる。
千歳 千李。顔は可愛いが、クズで、支離滅裂で、罵詈雑言で、ぼっち。
「遅いわよ」
「いや、チャイム鳴ってから、すぐ来たんですが」
「チャイム鳴った時には私に話しかけなさいよ。私を一分一秒でもぼっちにしないでよね」
「無理だろ! どうやったらチャイム鳴る瞬間に、教室の端から端を移動できんだよ!?」
俺の席は、教室の一番後ろの一番出入り口に近い席。加えて千歳の席は窓側の真ん中らへん。
猛ダッシュして、クラス中から奇異の目で見られても、とてもじゃないがチャイム鳴った時には辿り着けない。
「はぁ? 授業終わりそうになったら、四つん這いでもなんでもしなさいよ!」
「授業中に四つん這いだと……!?」
嫌だ。
そんなことしたら本当に、ぼっちじゃ済まされなくなる。
「あーあ。アンタのせいで貴重な休み時間が削られちゃったじゃない」
「休み時間が貴重……」
そう。俺達は今、はたから見ればリア充なのだ。
三段論法だ。
俺達はリア充。リア充は休み時間が貴重。だから俺達は休み時間が貴重。
ドヤるな。
「まあ、こないだからは考えられなかったんだからいいじゃない。思いもしなかったでしょ? 休み時間が貴重だなんて」
「そりゃ……まあ……」
感謝していいのだろうか。このクズに。
「とりあえず、私達は仮に偽リア充なわけだし。どうせならリア充にしかできないことをしましょうよ」
「ええー、昼休憩でも放課後でもないのに?」
コイツのリア充への憧れと偏見は何をしでかすか分からないバネになる。ただの授業と授業の間の休み時間に、こないだの青姦芝居でも始めてみろ。いよいよただのぼっちでは済まされな……おっと天丼になってしまう。
「とにかく、嫌なもんは嫌だ」
「まあそんな無下にすんなよ。私もこないだの失敗を踏まえ、今回は犯罪スレスレのラインを攻めることにした」
「スレスレじゃダメなんだよ!? 何一つ失敗を踏まえてないよ!? 君!」
「大丈夫よ」
そう言った彼女は、机の中からA4サイズの一枚の紙を取り出す。
紙にはクラスメイトの名前がズラッと。どうやら名簿のようだ。しかし、気になるのは名前の隣に書かれたアルファベット。
「これ……」
「そう。クラスメイトをランク付けしたの。友達になってメリットでかそうな奴とか簡単に友達になれそうな奴とかはSランクで、友達にしたくない奴とか友達になりにくそうな奴になるにつれて下がってく。一番下がFね。言わば友達リストだな」
他人をランク付けとか最悪だな、コイツ。
よく男子がクラスメイトの女子を見た目でランク付けしている会話を耳にする。親しい人間がいないながらも、俺は少し不快な思いをする。やっぱりそういうのってよくないと思うんだ。
しかし、このランク付け、女子は無条件で底ランクだ。よくてE、ほとんどの女子がFランクに付けられていた。その反面、男子は最高がA、そのほとんどがCランクだ。……もしかしなくてもコイツ、ビッチなのか?
気になるところ、俺の名前のところには『A』と書かれている。
コイツ、なんだかんだ言って俺のこと、友達だと思ってんのか。可愛いじゃねえかよ、このっ。
「ん?」
すると、とある人物に『S』とランクが付けられていた。
「どれどれ……千歳千李って自分かよ! はぁっ!? 自分Sってなんだよ! どんだけ寂しいんだよ!?」
千歳はジト目を向ける。
「はぁ? 誰が私のって言った? お前の友達リストだよ」
「俺の友達候補お前が一番高いのかよ!?」
「当然でしょ」
と、千歳は平然と言ってのけ、
「あと、男子はみんなCにしといた。気が利くでしょ?」
よく見ると、男子は俺以外、Cランク。
「お前は無類の男好きだからな」
「やめてくれ。クラスメイトの前で変なイメージ作るのだけはやめてくれ」
「そうか? ぼっちよりマシじゃない?」
「違う。俺がゲイになると『ゲイぼっち』になるんだ。『クズぼっち』のお前なら分かるだろ」
「誰がクズぼっちじゃ!!」
「痛い!」
……腹パンされた。
「まあ、お前の欠点は友達になれそうな奴が少ないってことだ」
千歳は澄ました顔で言う。
つまり??
はてな顔を浮かべていると、
「別に顔も悪くない。コミュ力も極端に低いわけじゃない。美少女の友達もいる。そんなアンタに何故友達ができないのか」
俺は唾を呑む。
現時点でメリットの塊である俺に、何故友達ができないのか。
「それは」
「それは?」
千歳は息を大きく吸う。
一瞬綴じる瞼。
ニコッと笑う、白い歯が見える。
大きく口を開けて、
人差し指を俺の目の前に、突き刺す。
「それは、西君、お前がキモいからよ!」
な、ななな、なんだって!?
「具体的どの辺が……?」
「とりあえず、言動ね。友達欲しさが滲み出てて、なんかコイツと関わるとヤバそうじゃね? ってのが直感で分かるわ」
「まさかの第六感!?」
「あと、西君、女子の名前と顔、一致してないでしょ?」
「あ、う、まあ、それは、そうですけど」
「理由を言ってみなさい」
「……男子のことしか考えてなかったから」
「はいキモいッ!!」
そんな、あんまりだ……。
でも、コイツの言ってることは正しい。
「でも、今の時代トランスジェンダーなんて珍しくもないじゃないか。そんなんでキモいなんて言われる筋合いない」
「トランスジェンダーならいいのよ。恋愛対象が男なら、男が好きでいいじゃない。でも西君は違うでしょ? 女の子が好きなのに男のことしか考えてない。なんこれ? 変態じゃない」
「……つまり、本当にゲイになればいいと?」
「お前がそれでいいなら」
「……やめときます」
「そうね」
と、千歳が言ったところで、授業開始のチャイムが鳴る。
「あっ」
初めてだ。休み時間にこんな夢中になって誰かと喋っていたのは。
授業が始まってから急いで授業の準備をした。リア充はこんなハラハラしながら、授業の準備をしていたのか。
そう思うと、少し嬉しくもある俺だったのだ。
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