第11話 いいんですか?


カランカランッ


喫茶店のような音がする。オシャレだな?!


「おっ!領主様のとこの奥さんとお嬢ちゃんじゃねーか!どうしたんだ?」


入って早々に、受付らしきところで話をしていた厳つい熊のおっちゃんから声を掛けられた。


「こんにちは。今日用事があるのは私じゃなくて、この娘なのよ。」

「嬢ちゃんの用事か?なんだ?」


お母様はこの人と知り合いらしい。


「お母様、この人はだあれ?」

「この人はね、ここの一番偉い人よ!」


ってことはギルドマスターって事か。

それって下に居ていいの?普通は執務室に居るんじゃないの?


「おう!俺はここのギルマスのヨシュアだ!よろしくな!嬢ちゃん!」

「はじめまして!ネフィリア=モンクスフートです!!」

「おうおう!元気がいいな!」


そう言いながら大きな手で頭をわしゃわしゃと撫でてくる。


肉球が…っ!ぷにって!ぷにって!!


「それで、今日はどうしたんだ?またなんかの採集依頼か?」

「私の護衛探しです!」

「ほう、それはまたなんでだい?」



――――――かくかくしかじか…。


事情を説明し、ヨシュアさんの顔を見る。


「なるほどな…。」

「誰かいい人は居ませんか?」

「お嬢ちゃんの護衛となると“領主様の娘”って事でしっかりした奴じゃねぇとな、」


しばらくウンウン唸っていたヨシュアさんが急に顔をバッと上げた。


「わわっ!」


耳をもふもふしようと手を伸ばしていた私は少しびっくりしてよろけてしまった。


「おっと、すまんすまん!」

「私こそごめんなさい、勝手に触ろうとして」

「触りたかったらいいぞ?ほらっ!」


屈んでケモ耳を触れる高さにしてくれるヨシュアさん。見た目に合わず優しい。


「そうそう、護衛の件だがな…。」

「はい。」


私はもふもふを止めてヨシュアさんを見る。


「俺…なんてどうだ?」

「ちょ!マスター!何言ってるんですか!?」


ニヤリと笑うヨシュアさんに、受付の女の人が慌てて言う。


「いやー、だって冒険でちゃダメって言われるしよォー!依頼ならいいかなーと。」


それでいいのか、ギルマスよ…。


「いいわけありませんっ!」


やっぱダメなんじゃん。

しっかりしようぜ、ギルマスぅー…


「もし、どうしてもと言うのならレーナさんに許可を貰ってください!」

「うげっ…、」


レーナさん?って誰だろう?ヨシュアさんがすごい嫌がってるっぽいけど…。


そう思っていたら顔に出ていたのかお母様が教えてくれた。


「ヨシュアさんのもとパーティーメンバーで今はここで秘書…、まあサブマスターをしている人よ。」

「そうなのですか…。」


ヨシュアさんは何故こんなに嫌がってるんだろう?


「マスター、私に何か御用でも?」

「呼んでないのに何で分かるんだよ…、」


2階の方からツンっとした感じの兎族の綺麗な女性が降りてきた。


「何だか下が騒がしかったもので。

また、マスターが何かやらかしたのかと。」


ヨシュアさん、信用ないのかな…。


「またとはなんだ!“また”とは!」

「あら?違いました?」

「違いません!レーナさん聞いてください!ギルマスったら、冒険に出たいからって護衛の依頼を受けるって言い出したんですよ!」


受付の女の人に全部バラされた。


「へぇ…?で、その依頼主とは?」

「はい!私です!」


私は元気よく手を挙げ、返事をした。


「あら、領主様の所のお嬢様じゃない…。

それがまたどうして護衛を?」


レーナさんにもさっきと同じ説明をする。


「なるほどね、それで…。」

「はい!なので誰かいい人は居ませんか?」


レーナさんは少し考え込むとスっとヨシュアさんのほうを向く。


「いいでしょう。マスター、この依頼受けてもいいですよ。」

「まじ?!よっしゃ!!」

「レーナさん?!いいんですか?!」


まさかの許可が降りた。


「この人は居てもどうせ書類整理とかやらないので、外で魔獣狩って稼いでもらった方がギルドのためになります。」


その言葉になるほどと頷く受付の人と、周りで話を聞いていた冒険者の人達。


「でも、こんな戦闘狂…というか冒険したがりを護衛にしてもいいんですか?」

「こんなんでも面倒見はいいほうだから大丈夫だと思うわ。」


ギルマスを“こんなん”呼ばわり…。

レーナさんって実はここで一番偉いんじゃないのかな…?


「という事で、あなたの護衛はコレでもいいかしら?嫌なら断ってもいいのよ?

こんな厳つい、ごついやつ嫌でしょう?」


すごい…ギルマスの事を貶してる…。


「酷くね?」

「貴方は静かにしていなさい。私はお嬢さんに聞いているんです。」


…この世界は女性のほうが強いのかな?


「私、護衛はヨシュアさんがいいです!」

「ほんと?こいつに脅されたとかじゃないのよね?」

「そんな事しねぇし!」


ヨシュアさん、よっぽど信用ないのね…。


「はい!強そうで優しそうなのでヨシュアさんがいいです!」

「わかったわ。奥様もいいですか?」

「ええ!もちろん。逆にとっても安心だわ!」

「ほらっ!ほらなっ?!」

「貴方は黙ってなさいと言いましたよね?」


お母様の言葉にテンションの上がったヨシュアさんは、レーナさんに睨まれまた黙った。


「それでは、手続きしておきますね。

護衛開始は明日からでいいですか?」

「はい!」

「では、そのようにやっておきますね。」

「よろしくお願いします!」



依頼を出すための細かい手続きなどはお母様とレーナさんが全てやってくれた。


「ではまた明日、朝にここへ来てくださいね」

「待ってるからな〜!」

「はいっ!」




私はワクワクしてスキップしながら馬車が停めてある場所まで歩いた。


その後ろを、お母様は満足気な笑顔で歩いていた…らしい。

御者のおじいちゃんが言っていた。





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