第19話 可愛い…けど、


魔獣の森に入ってすぐ、数メートル進んだ時


「気を付けろ、なにか居る。」


ヨシュアさんが警戒態勢に入った。


それを見て私も慌てて杖を構える。


「最初は魔法の使い方がよく分からんかもしれんからな、杖で殴ってもいいぞ。」

「はい!」


ヨシュアさんからアドバイスを貰ったその時



――――ガサガサっ!


けもの道の脇の草が揺れる。

そこから出てきたのは――――――――


「か、可愛い…」


真っ白な毛で青いクリクリとした目の色をしたうさぎだった。


「危ねぇ!」


モフろうと一歩踏み出そうとする私を、ヨシュアさんが大きな声で静止する。


すると、可愛かったうさぎは声に反応したのか牙を向き唸り始めた。


「か、可愛く…ない…!」

「ここは魔獣の森。油断は死に繋がるぞ?」


どんなに可愛くてもやっぱり魔獣なのか…、


そう思っていたら、可愛くないうさぎが私めがけて飛んできた。


「ガルルルッ!ガァァッ!!」

「わわっ!」


咄嗟に目をつぶってしまい、杖を思いっ切りあちこち振り回す。

すると、杖の先に何かが当たった感触と共にドンッと鈍い音と、何かが地面に落ちる音がしたので恐る恐る目を開ける。


「おおー、倒したな!!」

「…、」


パチパチと小さく拍手するヨシュアさんと地面に崩れ落ちているうさぎがいた。


「これは噛み付きうさぎと呼ばれるやつだな。初心者がよくこいつに噛まれて帰ってくる。正式な名前は確かシャムラビットだったかな?」


ヨシュアさんが、私が殴り殺したうさぎの死骸をつつきながら言う。


「可愛いのに可愛くないうさぎでした…。」

「ハッハッハ!まあ、初めての冒険にしては上出来だが、次は目を開いて攻撃出来るようにな?」


バレてたのか、目つぶってたの。

ヨシュアさん私の後ろにいたのに…。


「っと、進む前に素材回収も教えなきゃな。」

「素材ですか?」

「おう!噛み付きうさぎの歯は加工すると、結構切れ味のいい刃物になるんだ。」


なるほど。魔獣を狩って素材を売って稼ぐ。


これぞまさに冒険者!異世界ファンタジー!


「まず、こいつの皮は特になんにも使えねぇから歯だけ抜く。」


ヨシュアさんは説明しながらうさぎの口に手を突っ込み、歯を思いっきり引っこ抜く。


「普通はナイフとかで掘り出すんだがな、俺は面倒だから手で引っこ抜く!」


それ、みんなができる事じゃないよね…。


「んで、たまーにだが心臓の部分に魔石があるんだが…こいつは無いみてぇだな。」

「素材回収はこれで完了ですか?」

「おう!そうだぜ!あとは欲しけりゃ肉だな」


なるほどなるほど。魔石はレアってことか。

てっきりみんなあると思ってたな…、


「うしっ!じゃあ進むとするか!」

「はい!」






「一旦休憩だ。そろそろ昼だしな!」

「は、はいー」


しばらく森の入口周辺をウロウロした私達は、最初のを合わせて計10匹の噛み付きうさぎに遭遇・討伐し、ヨシュアさんはまだまだ元気だが私がへばっていた。


「さて、お疲れだな嬢ちゃん。」

「はい…、」

「だが、もうちょっとだけ頑張ってくれ。

昼飯を用意するから手順とかをよーく見て覚えるんだ。」


そう言い、ヨシュアさんは昼の用意をする。



最初に近くから乾燥した木を拾ってきて、火がつきやすいように組む。


すると、腰のポーチから丸めた紙を出した。


「これはスクロールだ。

嬢ちゃんは魔法が使えるようになるから必要ないかもしれんが、魔法の使えないやつはこれを使って魔法を“発動”させる。」

「魔法を使うのと発動させるのは、何か違うんですか?」

「発動は魔力さえあればできるんだ。

だが使うのは体内で魔力が練れないと出来ないんだ。細かいことは俺も分からんがな。」


なるほど、スクロールは魔力はあるけど使えない純獣人用の道具ってことになるのか。


「んで、これは点火の魔法のスクロールだ。」


ヨシュアさんはスクロールを開く。


スクロールには魔法陣が書いてあり、この魔法陣に手を当てると魔法が発動するらしい。


ヨシュアさんが手を置くと魔法陣が光り、紙から浮かび上がる。

そのまま手を組み木の上にかざすと魔法陣がゆっくり降りていき、木に火がついた。


「とまあ、こんな感じで簡単に出来る。」

「おおー、凄いです!」

「ま、お嬢ちゃんは多分使うことはねぇだろ」


そっか、私は全属性魔法使えるもんね…。

魔法って便利だね!


「さて、火もついたし。今まで狩ったうさぎの肉を焼くぞ!」


え、食えるの?噛み付きうさぎ…

食べれなかったら肉集めないか?


ヨシュアさんは塩コショウ(と味は同じ何か)を肉に振り、ピックのようなものに刺し焼いていく。


「いい匂い…」

「だろ?結構うまいんだぜ?」


噛み付きうさぎ、美味しいんだ…。

周りに美味しそうな匂いが広がる。魔獣が寄ってきたりしないのかな?


「ちなみに、今は魔獣避けのアイテムを使っているからいいが、本来はもっと匂いに気をつけねぇとほかの魔獣が寄ってくるからな」


やっぱり寄ってくるんだ。そしてそんなアイテムあるのか…。


「よし、焼けたぞ!ほらアツアツのうちに!」

「ありがとうございます!」


お礼を言い肉に齧り付く。


「〜〜〜っ!!!」

「美味いだろ!」

「美味しいです!凄いです!」


口いっぱいに肉を頬張る私を見て、ヨシュアさんはウンウン頷き自分の分を食べていた。



噛み付きうさぎは可愛いけど凶暴で、とっても美味しいうさぎでした!




初の冒険お昼ご飯は自分で狩った噛み付きうさぎで、とっても美味しかった。


それと、空腹は1番のスパイスって話、本当だと思う。



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