第13話 やっぱり面倒なことに巻き込まれたんだが
「き、君は……! いったいどうしてここに?」
五体投地をかます俺に驚きつつも、モルドレッドはそんな事を尋ねてくる。
「そこのエルフおばさんに呼ばれたんだよ。そういうモルドレッドこそ、何でギルドなんかに来たんだ?」
確か、調査だか何だかで来たって言ってたと思うんだが。
ていうかヴァイスさん、無言でこっちを睨まないでください恐いです。
「あぁいやほら、ここで滞在して調査するにも許可は取っておこうと思ってな。知らない人間がこそこそしてるのを冒険者達もよく思わないだろうしね」
なるほど。
確かに、ギルドと言えば街の顔と言っても過言ではない。
王都などのどでかい都市ならば別だが、ウェーディンのような辺境にある所だと領主の代理としてギルドマスターが統治を務めるところも多い。
領主に対して街が多い故の措置ともいえる。
であるからして、ギルドマスターという地位は思いのほか高いのだ。
「ていうか、エルフおばさんて……ギルドマスターに失礼だろう?」
「そうだーそうだー! アン坊はもうちょっとアタシを敬えー!」
モルドレッドの言葉に賛同するようにエルフおばさんが片手を上げて抗議をしてくる。
が、当然そんな戯言は右から左へと受け流す。
いちいち構ってたらキリがないのだ、このおばさんは。
「アン坊……?」
「ああ、戯言だから気にしないでくれ。ほら、ババア。アンタに用事らしいから話を聞いてやれ」
ラピスに向かってそう言い放つと、俺はそのままヴァイスを連れて部屋から出ようとする。
「いやいやいや、何ちゃっかり帰ろうとしてるの。まだ、アン坊への用事も終わってないから」
「ちっ」
モルドレッドをダシにして、この件をうやむやにしようと思ったのに上手くいかなかったようだ。
ギルドマスターであるラピスの呼び出しなんて、絶対に碌なことじゃないんだからあんまりかかわりたくないんだけどなぁ。
「あー、なんかタイミングが悪かっただろうか?」
「いいのいいの! 気にしないで! そんじゃま、先に君の要件から済ませちゃおうか」
俺を逃がさないように牽制しつつ、ラピスはモルドレッドの要件を聞きだす。
「……」
しかし、モルドレッドは俺の方をちらりと見ると何やら言いにくそうに押し黙ってしまう。
まぁ、先ほどヴァイスが尋ねた時も秘密にしてたくらいなのだから、一般人の前では言いにくい事なのだろう。
それを察したのか、ラピスは得心したような表情で口を開いた。
「ああ、アン坊達の事は気にしなくていいよ。彼らは身内みたいなもんだからね。おいそれと口外しないだろうから安心していい」
いや、俺達が出てけば済む話だろうが。
そして、できればこのまま呼び出しの件をうやむやにしたい。
が、無理だろうなぁ……。
「……分かりました」
身内、という言葉に不思議そうにしながらもモルドレッドはそう言う。
俺の名前を知っているだけに、身内という言葉が出たのが不思議なんだろう。
そこに関しては深くツッコまないでくれると俺的にはすごい助かる。
「実は、我々……他に四人の部下が居るのですが、計五人で調査をしに来ました」
「調査?」
コテンと首を傾げるラピスにモルドレッドは「ええ」と頷く。
というか、良い年した奴が何可愛らしく首傾げてんだよ。
歳考えろよ。
……あぁ、でもヴァイスは見た目がロリだから許す。
見た目って大事。
「ウェーディンから少し離れた場所にある森の中に遺跡があるのはご存知でしょうか」
「のう、アンセル。森の中の遺跡って……」
「しーっ」
ヴァイスも心当たりがあるのか、小声で話しかけてくるがすぐに黙ってるように指示をする。
俺の嫌な予感が加速し始めているのだ。
「遺跡……あぁ、そういえばそんなのあったねぇ。それがどうかしたのかい?」
「実は、そこで先日……その、信じられないことだとは思うんですが……六竜の力を感じたのです」
はーい、俺の嫌な予感的中でーす。
森の中の遺跡に六竜の力。
もうこれは言い逃れできないレベルで俺達の事だわ。
「王宮お抱えの魔導士であるマーリン殿が遠見の術で感知したというので、我々が真偽を確かめるために調査に来たというわけです」
「六竜、ねぇ。そりゃまた随分と突拍子もない単語が出てきたね」
ラピスの言葉ももっともだ。
実際、六竜はこちらに干渉することはほとんどないからな。
それがこちらの世界にやってきただけでも本来ならば大騒ぎになる。
……これは、意地でもヴァイスが六竜だと知られるわけにはいかない。
まさか、王都にまで既に六竜の情報が出回っているとは予想外だった。
まぁ、それを察知したのがマーリンというのならばある意味納得だな。
王宮魔導士マーリン……彼女は、稀代の魔導士と言われており現代においては最強の魔導士だ。
おそらく、魔法に関して言えば彼女に敵う者は居ないだろう。ヴァイスを除いては。
そんな彼女が六竜の力を感じたと言えば、そりゃ調査にも来るわな。
「ええ、私達としてもいくらマーリン殿の言葉とはいえ、鵜呑みにはできません。それで、最近何か変わったことはありませんか?」
「変わったことねぇ。一応あるにはあるけど、丁度それがアン坊達を呼んだことと関係があるんだよね」
「俺達に?」
まさか、ここで俺達の名前が呼ばれると思ってなかったので少しだけ面食らってしまう。
「ほら、大体一週間くらい前に街道で大穴を見つけたでしょう? こっちで調査しても原因が分からなかったから改めて話を聞こうと思ってね」
おおっと、こいつはまずい状況だ。
遺跡も大穴も、実は俺達が関わってますなんて死んでも言えない。
特に、既に王都がヴァイスの存在に気付いているのならば、もしバレたら面倒なことになるのが分かり切っている。
……俺はただ、楽して美人な嫁さんが欲しかっただけなのにどうしてこんな事になってしまったのか。
「大穴、ですか」
「うん。街道にね、こうでっかい大穴がいきなりあいてたらしいんだ」
「らしい、というのは?」
「そこのアン坊達が依頼でゴブリン退治に向かったら大穴を見つけたんだって。ゴブリンが湧いてて人通りも少なかったから、他に目撃者も居なくて本当に謎に包まれてるんだよ」
そりゃ、俺達が……というかヴァイスがあけたんだから、俺達が本当の事を言わなきゃ真実は絶対に分からないだろう。
だが、俺はそれを言う気にはならない。
このことは墓場まで持っていく所存である。
「というわけで、何か知らない?」
「って、言われてもなぁ。本当に何も知らないんだよ。なぁ、ヴァイス?」
ラピスに話を振られるが、俺は役者でも目指せるんじゃないかと思うほどの演技でさらりとかわす。
「う、うむ。ワシは何にも知らんぞ」
俺の無言の圧力を感じたのか、ポンコツのヴァイスでさえ空気を読んでそう答えた。
よしよし、良い子だ。後で頭を撫でてやろう。
「ふーむ……」
ラピスや俺達の話を聞いて、モルドレッドは腕を組んで唸る。
このまま、特に何も見つけることなく穏便に帰っていただきたい。
長居するようなら、いつバレるかひやひやして平穏な生活が送れそうにないしな。
「ひとまず、その大穴とやらを見たいので案内してもらえないだろうか」
「と言っても、もう埋めちゃったよ? 流石にいつまでも放置しておくわけにはいかないし」
「構わない。もしかしたら、何かしらの痕跡があるかもしれないしな」
流石に一週間近くたっているから、魔力も散ってるし今更行ったところで何か得られるとも思えないが……まぁ、ダメ元だろうな。
「そういう事なら、アン坊。案内してあげなさい」
「何で俺が?」
「だって、第一発見者はアン坊達でしょ? アタシは見ての通り忙しいし、かといって話を広めるわけにもいかないから他の人にも頼めない。となると、やっぱりアン坊達が適任じゃん?」
「ぐぬぬ……」
ラピスが忙しいようにはとても見えないが、ギルドマスターという立場上、完全に否定できないのが口惜しい。
「はぁ……分かったよ」
「良いのか?」
渋々頷く俺に、ヴァイスは心配そうに尋ねてくる。
まぁ、仕方あるまい。
このまま意固地になって断っても、逆に怪しまれるだけだしな。
パッと行ってパッと帰ってこよう。
「すまないな」
「いやいや、美人さんの頼みなら喜んで受けるよ。ついては、調査が終わったら食事に……」
「アンセル?」
「アッハイ、スミマセン」
あわよくば食事に誘おうと思った俺だったが、ヴァイスの殺意を受けすぐに撤回する。
この時から、既に尻に敷かれ始めてると自覚していない俺だった。
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