第15話 遺跡へとやってきたんだが

「と……とりあえず、他にモンスターが居ないか各自調査せよ」

「は、はっ!」


 何とも言えな空気の中、モルドレッドが部下達に何とか指示を下す。

 うん、気持ちは凄くわかる。

 せっかく戦う気満々だったのに、あんなにあっさりと終われば拍子抜けと言うか微妙な気分になるよな。

 そして、そんな空気にした張本人はというと……。


「……」


 何やら、深刻な顔をしながらキングサーペントの死体を眺めている。

 今回は魔法を使わず、肉弾戦で倒したので死体は残っているのだ。

 ……頭があったであろう部分は完全に消し飛んでいるがな。


「なぁ、ヴァイス。いったい何があったんだ? こいつがお前のせいっていうのはどういう事だ?」

「さっき話したじゃろ? ワシの魔力が不自然に消えていると」


 あぁ、そういえばそんな事を言っていたな。


「モンスターというのは、どういう原理で生まれるか知っているか?」

「あん? そりゃあれだろ。この地上に漂っている魔力が溜まるとモンスターが発生するんだよ」


 通称、魔力溜まりと呼ばれる他よりも魔力が溜まりやすい場所が世界中に点在しており、一定以上魔力が溜まるとモンスターが発生するというのが俺達の常識だ。


「でも、それが何の関係……あ、まさか」


 と、そこで俺は一つの仮説に思い当たる。

 

「そうじゃ、さっきのモンスターはワシの魔力を糧に発生したのじゃ」


 ヴァイスのその言葉に、やはりと納得する。

 モンスターは魔力で発生し、この場所には普通ではありえないほどの魔力が溜まっていた。

 しかもヴァイスの魔力ともなれば、条件はバッチリだ。

 元の魔力が魔力だけに、キングサーペントのような強力なモンスターが発生したのも納得がいく。

 

「ワシの魔力が原因でアンセルを危険な目に遭わせてもうて……謝罪してもし足りん……」

「いや、別に故意じゃないんだから謝らなくても……」


 ヴァイスがそんな事をする奴じゃないというのは、この数日で分かっている。

 もちろん、命の危険はあったわけだが、こうして生きているわけだし問題は無い。


「じゃが!」

「あーはいはい。もうこの話はおしまい。当の本人が良いって言ってるんだから良いんだよ。分かった?」

「むぅ……アンセルがそう言うのなら……」


 俺の説得により、ヴァイスは渋々ながらも納得したように頷く。

 まったく、変なところで真面目なんだから。

 ……それにしても、ヴァイスの魔力で強力なモンスターが生まれる、か。

 これからは、迂闊にヴァイスに魔法を使わせられないな。

 いつどこで、またやばいモンスターが発生するか分かったものではない。


「ふむ、どうやらもう危険なモンスターは居ないようだな」


 俺とヴァイスが話していると、調査を終えたモルドレッドが戻ってくる。

 気づけば、あのモブ達はいなくなっていた。


「あれ? 他の奴らは?」

「ウェーディンの街に戻ってギルドに報告に行っている。この間のギガントアイに加えて今回のキングサーペントだ。流石にこれは異常だからな。報告しないわけにはいかんだろう」

「まぁ、そりゃあ確かにな……」


 キングサーペントに関してはヴァイスが原因だから、もう魔法を使わせないことで解決するだろうがモルドレッド達にとっては原因不明なのだ。

 ギルドに報告し、然るべき処置をしなければならない。

 大穴の件といい、俺達が原因だけに流石に申し訳なくなってくる。


「やはり、これも六竜の影響だろうか」

「え、ど、どうだろうね」


 モルドレッドのドンピシャな発言に、俺は内心ドキリとしつつも見た目は平静を装う。

 偶然だろうが、結構鋭いな。


「私はこのまま遺跡に向かおうと思うが、君達はどうする?」


 正直言えば、俺達はこのまま帰ってしまいたい。

 

「アンセル、ワシは同行するべきじゃと思う」


 しかし、ヴァイスが小声でそう言ってきた。


「なんでまた……」

「嫌な予感がするんじゃ。このまま放置するととんでもない事が起こりそうな予感がしてのう」


 だったら、俺はこのままトンズラこきたい。

 ――んだが、まぁそういう訳にもいかんよなぁ。

 えぇい、こうなりゃヤケだ!

 このままとことん付き合ってやろうじゃねーか!


「それで、どうする? 先ほどの件も含めて、私としてはついてきてもらえれば戦力的にも助かるのだが」

「あー、そんじゃまぁ……ついていこうかね。乗り掛かった舟って奴だ」

「助かる。では、森の中の遺跡へと向かおうか」


 モルドレッドの言葉に頷くと、俺とヴァイスが最初に出会った遺跡へと向かうのだった。



 道中は、特に何の問題もなく遺跡へとたどり着く。

 一週間ぶりではあるが、特に何か変化があったようには思えない。


「なるほど、ここがそうか」

「遺跡って言っても、建物は残ってないんだけどな」


 実際、目の前の遺跡には柱や石造りの床など、辛うじて何かがあったとわかる程度のものしかない。 

 それでも、誰が呼び始めたかは分からないが遺跡と呼ばれているので、皆それに合わせている。


「一見、何の変哲もない遺跡に見えるが……」


 モルドレッドは、何やらブツブツと呟きながら遺跡の周りを歩き回り始める。


「で、何か気になる事でもあった?」


 モルドレッドに声が届かない距離まで移動すると、俺はヴァイスに話しかける。


「うむ……やはり、嫌な気配を感じるの。実を言うとな、おぬしに呼び出された時からこの遺跡には、何かを感じておったんじゃ。あの時は勘違いかと思っておったが……どうやら、そうではなかったらしい」


 あー、そういえば一瞬だけ意味深な態度を取ってたな。

 なるほど、それはこういう事だったのか。


「それで、その嫌な気配ってのはどこから感じるんだ?」

「地下、じゃの」


 地下?

 ヴァイスの言葉に改めて遺跡を見渡してみるが、地下へと続くような階段は見当たらない。


「地下への階段とかは見当たらないけど?」

「おそらくは隠してあるんじゃろうな。恐ろしく巧妙に隠蔽されておるから、ワシも最初は気づかなかったんじゃ」


 ヴァイスはそう言うと、目を細めながら遺跡内を歩き回る。

 彼女さえ誤魔化してしまえるほどの隠蔽か。仮にも六竜の目をかいくぐるなど、とんでもない技術だ。

 いったい何が隠されているのか、逆に気になってくるというものだ。


「……ここらへんかの」


 しばらく遺跡内を歩き回っていたかと思うと、ヴァイスはぴたりと止まりある場所を見つめる。

 ヴァイスの傍に近づき目を凝らしてみるが、何の変哲もない床にしか見えない。


「せいっ」


 ヴァイスが掛け声とともに地面に足を叩きつけると、パキンと何かが割れるような音が聞こえる。


「……おいおい、まじかよ」


 その割れる音共に目の前に亀裂が走ったかと思うと、先ほどまで何も無かった床には地下へと続く大きな階段が現れていた。

 生暖かい空気が地下から流れており、明らかにやばい雰囲気がビンビンと伝わっていた。

 

「やはり、結界で隠しておったか」


 だが、ヴァイスはそのやばい空気にも臆さず平気そうにしている。

 普段はポンコツな彼女だが、こういう場面では物凄く頼りになる。

 思わず惚れてしまいそうだ。


「何か見つけたのか?」

「あぁ、こいつを見てくれ。どう思う?」


 俺とヴァイスの様子を見て何かを察したのか、モルドレッドがやってきたので俺は階段の方を見ながらそう尋ねる。


「すごく……大きい階段だな」

 

 モルドレッドの言葉通り、本当にデカい階段だ。

 今まで、こんな所に階段があるなんていう話は聞いたことが無かったので、ヴァイスの言う通りよっぽど巧妙に結界とやらで隠されていたのだろう。

 

「この下に六竜が……?」

「いや、六竜は居らんじゃろうが、近い気配は感じるの」


 モルドレッドの問いにヴァイスが答える。

 って、ちょっと待て。今、サラッとやばい事言わなかったか?

 六竜に近い気配って、もう命の危険しか感じない。


「行くぞ」

「あ、ちょ……っ!」


 地下の雰囲気とヴァイスの言葉にビビっていると、ヴァイスはお構いなしにさっさと地下へと降りて行ってしまう。


「お、おい。ヴァイス殿が行ってしまったが大丈夫なのか? というか、彼女は本当に何者なんだ?」

「とにかく追っかけるしかないだろう。ヴァイスの正体については、まぁ、機会があったらな」


 実はヴァイスが六竜なんです、と今説明すると余計ややこしくなる未来しか見えないのでそれはできない。

 今はとにかく、地下へ行ってしまったヴァイスを追いかけるのを優先しなければ。


「……えーい!」


 目の前の階段を見て怖気づいてしまうものの、俺は意を決してモルドレッドと共に地下へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る