第14話 再び街道にやってきたんだが

「ここが例の街道だ」


 ――翌日。

 ラピスに言われ、俺はモルドレッド達を街道へと渋々案内していた。

 流石に一週間も経っているという事もあり、あの大穴はすっかり塞がっている。

 個人の力では一週間やそこらではどうにもならんが、流石はギルドといったところだろう。


「ふむ、パッと見た感じ特に不審な点は見当たらんな……」


 モルドレッドは腕を組みながらそんな事を呟いて唸る。

 そりゃそうだ。

 特に何か意図があってあけた訳ではないので、不審な点なんかあるはずがない。

 強いて挙げるとすれば、俺とヴァイスがしらばっくれてるという所だが、これもモルドレッドは俺を信用しているのでそれは無い。

 俺個人だけならば別だが、ギルドマスターであるラピスの紹介だから疑う余地などないのだ。

 ……自分で言うのも何だが、これって完全に悪人の思考だよな。

 もしかしたら、俺は悪人の素養でもあるのかもしれない。

 まぁ、自分から悪事をやるような馬鹿な真似はしないが。

 何故なら、そんな事をして捕まったら美人な嫁さんなんか夢のまた夢になってしまう。

 ただでさえ望み薄なのに、更に絶望的になってしまう。

 だからこそ、俺は故意に悪人にはならない。


「イー達も、何か見つけたら、小さい事でもいいから遠慮なく教えてくれ」

「了解です」


 モルドレッドの言葉に、モブ四人組は頷き周囲の調査を始める。

 ちなみに、部下の名前はイー、アル、サン、スーと言うらしい。

 街道への案内が終わったので、俺はもう帰ってもいいのだが……万が一犯人に繋がるような証拠を見つけられると困るので、こうして残っている。

 

「なぁ、ヴァイス。穴の原因が俺達だってバレると思うか?」


 モルドレッド達が調査している間、手持ち無沙汰になった俺は何気なくヴァイスに尋ねる。


「うーん、どうじゃろうな。ワシの魔力はとっくに霧散しておるし、穴も埋まっておる。普通の人間があそこから、ワシらに辿り着くことは不可能に近いじゃろう」


 ヴァイスのその言葉に、俺は内心胸を撫でおろす。


「ただ……」

「ただ?」

「魔力の霧散の仕方が少々……不自然に感じるのう」


 不自然? 

 俺は、その言葉にはて? と首を傾げる。

 ヴァイスの言っている魔力の霧散というのは、文字通りの意味だ。

 通常、魔法を使うとその場には使用者の魔力が残る。

 例えば、誰かが魔法を使って人を殺した場合、その魔力の余波を探査して使用者を割り出すのだ。

 昔は魔法による殺人もあったらしいが、今ではそうした技術も発達してきているので少なくなってきているという。

 ただ、当然ながら魔力の余波はいつまでも残っているわけではない。

 時間が経てば経つほど希薄になっていき、最後は完全に自然に溶けてなくなってしまうのだ。

 魔法の強弱によって期間は様々だが、いくらヴァイスの魔法と言えども一週間ともなれば残っていない。

 流石に、ヴァイスの本気の魔法だとどうなるかは分からんが。

 その昔、六竜の一体が暴れた結果、ぺんぺん草の一本も生えない程の荒涼の地になった場所もあるとかなんとかという話を聞いたりもする。

 とまぁ、そんな感じで魔力の余波は自然と消えるわけだが……。


「その不自然ってのはどういう事だ?」

「うーむ、なんと説明すればいいのだろうな……ワシら六竜は、人よりも魔力の感知に優れておるのじゃ。魔力の流れを過去に遡って見ることが出来るのじゃが、ある日を境にプッツリと消えておるのじゃよ」


 何それ凄い。

 今の技術でさえ、現在の魔力しか感知ができないというのに過去に遡ってまで感知できるとは、流石は六竜という事か。

 だが、プッツリ消えたというのは気になるな。


「何が原因で消えたとかは分かるのか?」

「流石にそこまでは分からん。じゃが、少々悪い予感がするのぅ」

「おいおい、そういう嫌なフラグ立てるのやめてくれよ」


 そこらへんのモブならまだしも、ヴァイスが言うと中々に洒落にならない。

 しかも、今回は俺達に原因があるので、もし何かあれば放っておくこともできないではないか。


「何をやめてほしいんだ?」

「わっほい⁉」


 俺がヴァイスと話すのに夢中になっていると、突然横から声を掛けられ思わず奇声を上げてしまう。


「うぉ⁉ きゅ、急に変な声を出すな! 驚いたではないか!」


 バクバクする心臓を抑えながら声のした方を見れば、そこには同じように驚いているモルドレッドの姿があった。


「悪い、急に話しかけられてつい驚いちまった」

「む……そう言われると、こちらにも非があるから謝らざるをえんな。それで、何の話をしていたんだ?」

「いや、なーに。他愛ないプライベートな話だよ。そ、それよりも! 何か収穫でもあったか?」


 俺は強引に話題を変えながらモルドレッドに尋ねる。

 収穫なんかあるとは思えないが、念のため聞いておかないと俺のノミの心臓がもたない。


「……いや、イー達とも入念に調べたが特にこれといった痕跡は無かったな。わざわざ案内してもらったのにすまない」

「気にしなくていいよ。何にもないのが一番だからな」


 モルドレッドの言葉に、俺はホッと安心をする。

 これで、大穴に関しての憂いは無くなったわけだ。


「そう言ってもらえるとこちらも楽に……」

「アンセル、危ない!」


 申し訳なさそうにしていたモルドレッドと話している俺だったが、ヴァイスが急に険しい顔つきになると俺を思い切り突き飛ばす。

 完全に油断していたために、俺は突き飛ばされるとそのまま尻もちをついてしまう。


「何を……」


 するんだ、と言い切る前にソレは唐突に先ほどまで俺が居た場所を凄まじい速度で横切る。


「何だ⁉」

「敵襲じゃ!」


 ヴァイスの言葉に、俺は慌てて立ち上がるといつでも武器を召喚できるように身構える。


「各自、戦闘態勢に入れ! 相手は素早いぞ!」

「「「「はっ!」」」」


 対して、モルドレッド側も事態を把握したのか緊迫した空気の中、隊列を組んでいた。


「シュロロロロロ……」


 俺達が警戒していると、それは地面から現れる。

 それは、巨大な蛇のモンスターだった。

 頭の部分が幅広になっており、目のような模様が浮かび上がっている。


「おいおい、キングサーペントかよ」


 ――キングサーペント。

 それは、先日のギガントアイにも勝るとも劣らないやばいモンスターだ。

 いや、危険度で言えばこっちの方が上かもしれない。

 ギガントアイは、単純な破壊力が恐ろしかったがこちらは体内に持つ毒が非常に厄介だ。

 噛まれれば即死亡という、頭のおかしい毒を持っている。

 おまけにスピードも速いから本当に頭がおかしい。

 こいつを最初に誕生させた奴は何考えてるんだと思わずにはいられないほどにやばいのである。


「キングサーペントか。アンセル殿! ここら辺は、こういうモンスターが跋扈しているのか⁉」

「んなわけあるかい!」


 モルドレッドの言葉に、俺はそうツッコミを入れる。

 ギガントアイもそうだが、キングサーペントもこんな所に居ていいモンスターではない。

 ――何かがおかしい。

 もしかして、俺らの知らないところで何かヤバイ事でも起こってんじゃないだろーな?


「……」

「どうした、ヴァイス?」


 無言でキングサーペントを睨んでいるヴァイスに、俺はそう尋ねる。

 こいつなら油断していてもやられるとは思えないが、それでも彼女の態度は気にかかる。


「アンセル……もしかしたら、こやつ。ワシのせいで生まれた・・・・のかもしれん」

「それはどういう……」


 ヴァイスの意図を聞きだす前に、既に彼女はその場から文字通り消えていた。


「ハァッ!」


 気づけば、ヴァイスはキングサーペントに肉薄しており奴の頭を砕いている所だった。


「……ッ⁉」


 哀れ、キングサーペントは強敵感を出して登場しながらもヴァイスの手によりかませのごとく一瞬で葬り去られる。


「「「「「…………えー」」」」」」


 危険度マックスのモンスター相手に警戒していた俺達は、あまりのあっけなさに異口同音で気の抜けた声が漏れるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る