第10話 何やら不穏な雰囲気なんだが②
俺が目的の場所に到達すると、そこでは既にヴァイスがギガントアイとの戦闘を開始していた。
「ぜはっ……はぁはぁ……だ、大丈夫か?」
「いや、アンタこそ大丈夫か?」
全力疾走したために息切れしている俺に対し、戦っていた奴らが逆に心配そうに尋ねてくる。
「だ、大丈夫。ちょっと休憩すれば何とか……」
と言っても、そんな悠長な時間は無いと思うが。
ヴァイスの乱入により、ギガントアイも戸惑ってはいるがすぐに立ち直るだろう。
「そこで戦っている少女もそうだが、貴殿らは味方という事で構わないのか⁉」
ギガントアイと戦いながら赤い鎧の奴が叫んでくる。
「あぁ! 残り二体は俺達に任せろ。アンタはソイツに集中しな!」
「助かる!」
俺の言葉を聞き、赤い鎧の奴は正面を向いて目の前のギガントアイに集中し始める。
ヴァイスも一体を相手にしているし、俺達は残り一体を相手にするだけでいいだろう。
ギガントアイは確かに強いが、一体だけなら何とかなるだろう。
「さーて、それじゃこっちも何とかしますかね」
「我々も微力ながら手伝おう」
モブ四人がそう言って前に出てくるが、正直言って邪魔なだけなので大人しくしてもらっていたい。
俺の魔法って、仲間と連携するのに向いてねーんだよな。
「見たところ、アンタらは怪我してるだろ。大人しく、離れてな」
が、俺はいい大人なので角が立たない言い方をして相手を退かせる。
まぁ、ヴァイスに感化されてというわけではないが、ちょっと格好つけたかったというのもあるが。
「しかし……」
「いや、マジで下がってろって。ああもうほら来ちゃったじゃん」
ようやく立ち直ったギガントアイが雄たけびを上げながら両腕を振り下ろしてきたので、俺は
巨大な盾を地面に突き立てると、反対側から轟音が響き、大盾を砕かれてしまう。
「おーおー、やっぱギガントアイやべーな」
あの盾、結構な硬さを誇るんだが……それを一撃で破壊してしまうギガントアイの規格外さよ。
「な、なにも無い所から盾が現れただと?」
「はいはい、質問は後で受け付けるから!」
何やら喚いているモブを無視し、すかさず飛んできたギガントアイの蹴りを華麗に避ける。
さてさて、何を使おうかねぇ。
こいつには、普通の武器じゃまず効かないからな……。
「グガアアアッ!」
「ちょっとは考える時間を与えてくれっつーの!」
二度も攻撃が外れたことで頭に来たのか、ギガントアイは怒号を上げて無茶苦茶に腕をぶん回してくきた。
「出てこい、カラドボルグ」
今度ばかりは避けきれないと判断した俺は、空中に魔法陣を出現させると螺旋状の刃を持つ長剣を取り出し前方に構える。
そして、ギガントアイの腕が剣に当たると、硬い肌を持つはずの奴の体にあっさり刃が食い込む。
『魔剣カラドボルグ』。
俺の持つ魔剣の内の一つで、最硬度を誇る武器である。
先ほどの大盾よりも硬く、ギガントアイ
並大抵の武器が効かないのならば、並大抵でない武器を用意すればいいだけである。
ギガントアイを相手に余裕があったのはこのためだ。
「ギャアッ⁉」
まさか自分の体に傷がつくと思っていなかったのか、すぐに手を引っ込めるギガントアイ。
だが、その隙を俺が逃すはずもない。
「伸びろ、カラドボルグ!」
怯んでいるギガントアイに向かいカラドボルグを向けて叫ぶと、俺の言葉に反応するかのように刀身が伸び始めあっさりとギガントアイを貫く。
「ふんぐぬらああああああ!」
そして、全身に力を入れ俺は思いっきりカラドボルグを横に振り払いギガントアイの体を斬り裂き、返す刀でそのまま反対側まで剣を振り切る。
「グゲ……ガッ⁉」
上半身と下半身が別れを告げたことで、断末魔の叫びをあげることなくギガントアイはそのまま倒れ伏した。
そして、カラドボルグを戻した俺もそれに続くように倒れ伏すのだった。
◆
「ご助力感謝する。貴殿らが居なければ、我々は全滅していただろう」
「いやぁ、気にしなくていいって。困った時はお互い様だからさ」
ヴァイスに言われなければ見捨てていた事はきっぱりと忘れ、いけしゃあしゃあと俺はそう言い放つ。
俺が倒れた後、赤鎧とヴァイスもギガントアイを倒しなんとか全員生き残っていた。
ヴァイスは本当に手加減が上手くなり、ギガントアイもほぼ原形を残している。
「それにしても、まさかこんな所でギガントアイに出会うとはついてなかった。しかも三体も」
「ギガントアイほどのモンスターは基本、ここらに居ないはずなんだけどな」
まったく、どうして奴らが現れたのか不思議でならない。
「まぁ、それは後でギルドにでも報告するとして……その、本当に大丈夫なのか?」
赤鎧は、俺の今の様子を見ながら心配そうにする。
現在、俺がどうなっているかと言うと絶賛ヴァイスに膝枕されている最中である。
カラドボルグを召喚した俺は、魔力切れを起こしてぶっ倒れたのだ。
普通の武器や防具ならば問題ないが、魔剣クラスとなるとあっという間に魔力が底をついてしまうのだ。
効果は絶大だが戦える時間は短いピーキーな性能である。
「大丈夫だって、ただの魔力切れだから。休めばすぐに良くなるさ」
「……ワシとしては、このままずっと膝枕しててもいいんじゃがの」
ええい、ヴァイスは余計なことを言わなくていいの。
ほら、あいつらポカンとしてるじゃんか!
俺がロリコンだと思われたらどうしてくれるんじゃい。
「こほん。それで? そこの少女もそうだが、貴殿の先ほどの魔法といい貴殿らはいったい何者なのだ? 窮地を助けてくれたことから敵ではないと思うが」
俺にとって都合の悪い事を流してくれた赤鎧、マジ良い奴。
正直、今の状況をさらに突っ込まれた完全に詰んでた。
「ワシは、六りゅ」
「だぁぁぁぁい! ヴァイスは黙ってなさい! 俺が説明するから! ね⁉」
危うくとんでもない事をぶちまけそうになったヴァイスを慌てて止め、俺は説明をすることにする。
「う、うむ。分かった……」
俺の剣幕に押されてタジタジのヴァイスを尻目に、俺は説明をすることにする。
ロリに膝枕されながら!
「えーと、俺達はウェーディンの街の冒険者だ。こっちのロリ……少女がヴァイス。ちょっと山奥に籠ってて世間知らずなところがあるんだ。何でも隠遁していた武術家に育てられたらしい」
実際、ヴァイスは魔法を使わず徒手空拳で戦ってたので誤魔化せるだろう。
魔法を使った場合、手加減というレベルではなくなるので人前では使わないように言ってあったのだ。
それでも余裕で勝ってしまうあたり、流石は六竜といったところだろう。
「なるほど……さぞかし名のある武術家に育てられたのだろうな」
「いや、本人自体は表舞台には出なかったらしいから名前は広まっていないみたいだ。だから、多分名前を聞いても分からないだろうな。本人も基本的に外界と関わりたくないらしい」
「そうか、少しその武人に興味があったのだが……そういう事なら仕方あるまい」
うっかり会いに行くと言われても困るので、俺はそう嘘をつく。
「アンセル? ワシ、そんな生い立ちじゃ」
「いいの! そういう事にしとけ!」
流石に空気を読んだのか、小声で尋ねてくるヴァイスに対し俺も小声で答える。
まったく……いくら何でも赤の他人に本当の事を話せるわけないでしょうが。
「それと、俺はアンセル・フォーギュスター。まぁ……しがない魔法使いだ。さっき見てもらった通り、俺は武器の召喚魔法が得意なんだ」
そう、それこそが先ほど何も無い所から盾や武器を取り出した正体である。
召喚魔法。それは、こことは遠く離れた場所から何かを呼び出す魔法だ。
基本的には生物を呼び出す魔法で、俺のように無機物を呼び出す奴なんてのはまず居ない。
「なんと、召喚魔法だったのか。いやはや、武器を召喚するとは珍しい」
「まったくです。てっきり何か未知の魔法だと思ってました」
と、たいていはこんな感じの反応が返ってくるわけだ。
「……ん? 召喚魔法にフォーギュスター……? もしかして、君は
赤鎧は思い当たることがあったのか、そんな事を尋ねてくる。
しまった、こいつ……俺の実家を知ってるのか。
ウェーディンの街は割と辺境にあるので、ここまではフォーギュスター家の名前が届いてないと思って完全に油断していた。
「……フォーギュスター家を知ってるのか?」
「当然だ。私達の居る王都では召喚魔法の名家として有名だからな」
あぁくそ、王都の奴らだったのか。
なら知ってて当然か。
ていうか、王都の奴らがいったい何の用があってこんな場所まで来たんだ……?
「なるほど、確かにフォーギュスター家の者ならば珍しい召喚魔法が使えると言うのも納得だな」
「……できれば、その名前はあんまり出さないでもらっていいか? ちょっと折り合いが悪くてな」
「あ、いや気に障ったならすまない」
俺の言葉に赤鎧は慌てて謝る。
まぁ、我が家の事情なんざ他人が知るわけないんだから仕方のない事ではあるか。
「まあいいよ、次から気を付けてもらえれば。それで、今度はアンタらの事を教えてもらっていいか?」
いつまでもしょげられると、こっちも気まずくなるので俺は話題を変えるためにそう尋ねる。
「っと、そういえばまだ名乗ってなかったな。我々は王都からとある事情でウェーディンの街に調査に来たのだ。私は隊長のモルドレッドという」
赤鎧、もといモルドレッドはそう名乗るとフルフェイスの兜を取る。
兜を取ると、まずは目も覚めるような赤い髪が目に入る。
肩辺りでざっくばらんに切った無造作の髪、日に焼けたのかやや褐色な肌。
キリリとした顔立ちだが、その顔つきから女性と分かる。
年は俺より三つ四つくらい下だろう。
結構な美人さんである。
「……」
「アンセル? どうかしたのか?」
モルドレッドの素顔を見て固まっている俺に対し、ヴァイスが顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「俺と結婚してください」
モルドレッドに見惚れていた俺は、すぐに我に返ると動かない体を無理やり動かし彼女の手を握って求婚するのだった。
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