第7話 俺達は何も見てないし知らないんだが
「ふふーん! どうじゃどうじゃ! ワシってば強いじゃろ?」
ゴブリン達にオーバーすぎる程のキルをぶちかましたヴァイスは、仁王立ちで無い胸を自信満々にはりながらこれでもかというくらいにドヤ顔を披露する。
褒めてオーラが凄まじく、尻尾があれば犬のように振っていた事だろう。
――確かに、先ほどのを見る限りではヴァイスはかなり強い。
彼女の言葉を信じるならば、あれで手加減していると言うのだから恐ろしい。
ゴブリンを跡形もなく消し飛ばした事については、とりあえずは問題ない。
本当は部位を回収して売って金にしたかったのが、吹き飛ばしてしまったのだからこの際仕方あるまい。
モンスターとの戦闘記録は、冒険者になる際に渡されるカードに自動的に記憶されるから、ゴブリンの死体が残ってないのも大丈夫だ。
だが……。
「この穴、どうすんだよ……」
問題は、街道のど真ん中にぽっかりと開いた大穴である。
穴の大きさは、目視で大体直径十メートルほど。深さは落ちたら自力で出れない程度には深い。
埋めるにも大きすぎて時間がかかるだろう。
これが森の奥地とかなら良かったんだろうが、生憎とここは思いっきり人通りが多い。
こんな大穴が空いてれば、すぐに誰かに見つかり騒ぎになってしまう。
今でこそゴブリン騒ぎで人が通っていないが、それも時間の問題だ。
「アンセル、どうしたんじゃ? そんな難しい顔をして」
俺が大穴の処理について悩んでいると、ヴァイスが不思議そうな顔をしながら尋ねてくる。
「いや、この穴をどうしたもんかなって。流石に街道のど真ん中に出来ちゃってるから放っておくわけにもいかないし。……念のため聞くけど、本当に手加減したんだよね?」
「当り前じゃ。ワシはそこまで常識知らずではないわい。ワシが本気を出したらここら一帯が生物も住めない程の焦土になるというのを理解しておるしな」
なにそれこわい。
益々、ヴァイスの規格外の戦闘力に戦慄する。
……ていうか、ヴァイスってただの長生きしたドラゴンだと思ってたけど、もしかして普通のドラゴンじゃないのか?
実は、間違って呼び出した為に俺はヴァイスがどういうドラゴンかというのを知らない。
俺が知っているドラゴンは、どれも強力ではあるものの先ほどヴァイスが言ったような災害レベルの戦闘力は持っていない。
「アンセル?」
「ん? あぁ、すまんすまん。ちなみに、この穴ってヴァイスは何とか出来るか?」
また思考の海に浸っていたところ、ヴァイスに声を掛けられ我に返った俺は取り繕うようにそう言う。
正直、この穴は俺の手に余るから出来る事なら張本人であるヴァイスに何とかしてもらいたい。
「うーん、
「……そうか。なら、これは見なかったことにしよう」
『
ヴァイスにも無理ならば、もはやどうしようもない。
なぁに、どうせ目撃者は居ないんだ。黙ってれば平気だ。
最初から大穴が出来てたとでも言えばいい。
これだけの大穴を作るなんてのは並大抵の魔法では無理だ。
そんな魔法を俺が使えないと言うのも周知されているし、いくらでもごまかしが効くだろう。
うん、これは仕方のない事なんだ。
「そういう訳で、今日はいったん帰ろう。そして、この大穴は俺達とは関係ない。いいね?」
「う、うむ」
俺の気迫に若干押され気味になりつつも、ヴァイスはこくりと頷く。
そして、俺達は周りに人が居ないのを確認しながらそそくさとその場を立ち去るのだった。
◆
ギルドに戻ってきて報告する際、俺は大穴の事を職員に伝える。
あの場に俺達が向かったというのはギルド側で把握されているので、下手に隠してもすぐにバレてしまう。
そればかりか隠していた理由を間違いなく聞かれるので、敢えて自分から報告するのだ。
現場に向かったら
「大穴、ですか?」
「はい。直径十メートルほどの穴です。何か知りませんか?」
俺の問いに対し、女性職員は顎に手を添えながら唸る。
「……いえ、特にはギルド側でも聞いてませんね」
そりゃそうだ。
何せ、さっき出来たばっかりなんだからな。
「そうですか。ゴブリンは居るには居たんで討伐はしましたが、一応報告だけでもと思いまして」
我ながらよくもまぁペラペラと出まかせが出てくるなと感心する。
人間、保身の為ならば必死になれるのである。
「分かりました。大穴については、こちらの方でも調査はしてみますね」
「よろしくお願いします」
「ゴブリン討伐の方ですが、こちらも問題なく完了されていましたので、報酬をお渡します」
女性職員はそう言うと、冒険者のカードと共に報酬を渡してくる。
9級の依頼だけあって、報酬も大した額ではない。
今日はしょうがないとして、明日からは額が大きい依頼を受けた方が良いだろう。
戦力に関しても、過剰すぎる程だから多少難しい依頼でもなんとかなるだろうしな。
俺は、ヴァイスと自分の両方のカードを受け取るとベンチに座って待っているヴァイスの元まで向かう。
「お待たせ、待ったか?」
「いや、大丈夫じゃ。……その、アレは問題なかったのかのぅ?」
アレ、というのは街道の大穴の事だろう。
ギルドへ向かう道すがら、大穴の事について話したのだが罪悪感を感じているのか、先ほどからこうして申し訳なさそうにしている。
人間とドラゴンでは常識が違うので仕方ないとフォローはしたのだが、難しいものである。
「それに関しては大丈夫だって。次から気を付ければいいんだから。こうやってお互いの常識の違いを確認するために一緒に暮らすことにしたんだから、気にしてたら疲れるぞ?」
「う、うむ……しかし、おぬしに出会ってからワシは失敗ばかりで、幻滅されてないか不安で仕方ないのじゃ……」
幻滅はしていないが、ポンコツだとその度に再認識しているのは黙っていよう。
そんな事を俺から言われたら、彼女は多分立ち上がれなくなる。
「そんな事で幻滅なんかしないから、安心しろって。それとも、俺の事が信じられない?」
むしろ、俺の方が幻滅されそうではある。
「……いや、信じる。そうじゃな、いつまでもクヨクヨしてちゃダメじゃな」
ようやく立ち直ってきたのか、ヴァイスの瞳に光が戻り始める。
さっきまでハイライトさんが仕事をボイコットしていて、何とも不気味な雰囲気を放っていたのだ。
「よし、元気が出たぞ! さぁ、アンセルよ。次の依頼を受けるぞ! 今度は失敗しないように頑張るぞい!」
「あー……今日はちょっと依頼はもういいかな。それよりも聞きたいことがあるから、いったん宿に戻ろうか」
「それは別に構わんが……何が聞きたいんじゃ?」
ヴァイスのその言葉に、俺は一瞬言うべきかどうか迷ったがいつまでも放置するわけにもいかない。
「六竜について、聞きたいことがあるんだ」
俺は意を決して、ヴァイスに向かってそう言い放つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます