第17話 俺、この戦いが終わったら結婚するんだが
「う……あ……?」
「おお、気が付いたか」
何やら妙にズキズキと痛む頭を摩りながら目を覚ますと、ヴァイスが声をかけてきた。
「俺はいったいどうなったんだ?」
「激しい揺れで落ちてきた物に頭をぶつけて、気を失っておったんじゃ。この姿で二人を担いで逃げるのは中々に骨じゃったぞ」
担いで逃げる……?
ヴァイスの言葉に改めて周りを見渡せば、どうやら森の中のようだった。
すぐそばには、何故か正座したモルドレッドが意気消沈していた。
「なぁ、何でモルドレッドはあんなに落ち込んでるんだ? ていうか、いったい何から逃げたんだ?」
気を失っていたために状況が分からないので、俺は事情を知っているであろうヴァイスに尋ねる。
「あ奴に関してはまぁ……ワシらが逃げた理由にも関わってくるの」
「それはどういう……」
さらに詳しく聞こうとしたところで、遠くの方でけたたましい咆哮が聞こえてくる。
声の大きさからして、割と大きいサイズのモンスターのようだ。
「今の声が、ワシらが逃げた理由であり、あ奴が落ち込んでいる原因じゃ」
「す、すまない……私のせいで」
ヴァイスの言葉にびくりと震えたかと思うと、今にも泣きそうな顔でモルドレッドが謝ってくる。
……ちょっと泣き顔がそそるとか思ったのは内緒である。
「あの地下の研究室に水晶玉があったのを覚えておるか?」
「あぁ、あのやたら禍々しい奴だろ?」
いくら頭を打って気を失っていたとはいえ、あんなやばいもんを忘れるわけがない。
「あの水晶玉の中にはの……六竜が封印されて居たんじゃ」
「六竜が⁉」
「あぁ、いや……正しくは、六竜もどき、じゃの」
驚く俺に対しそう言いなおすヴァイスだったが、それでも充分まずいのではなかろうか。
「あの研究日誌にはの、六竜についての研究過程が綴られていたんじゃ」
「研究過程?」
「うむ。どうやったら六竜の力を再現できるかとかそんな類のものじゃな。その過程の非道な実験の数々を嬉々として綴っておったんじゃ」
ヴァイスはそう説明すると、怒りを露にしてギリッと歯ぎしりをする。
「ワシらの同胞をたかが人間どもが玩具にしているというのは、流石の温厚なワシでも許せんのじゃ。もっとも、断罪したくてもその当の本人はとっくの昔に亡くなっているがの。そんでまぁ、手に負えなくなったから封印したとかいう無責任っぷりじゃ」
……なるほど、日誌を呼んでる時に不機嫌になってるのはそういう事だったのか。
確かに、人間の勝手な都合で同類が好き放題されてたら怒るわな。
「ちょっといいかな? 先ほど、同胞という言葉が聞こえたが……その言い方だと、ヴァイス殿がドラゴンだという風に聞こえるのだが」
先ほどまで落ち込んでいたモルドレッドが恐る恐る話しかけてきたことで、俺達は「しまった」という感じで顔を見合わせる。
いくらモルドレッドでも、流石にここまでがっつり話を聞いてしまえばもう誤魔化せないだろう。
「えーとな……実は、ヴァイスはドラゴンなんだよ。山より低く海より浅い事情があって人間の姿に変身してたんだ」
「待て、それだと大した事情は無いように聞こえるぞ?」
こまけぇこたぁいいんだよ!
「と、とにかく! ドラゴンが人里に降りてきてるって知られたら、要らん混乱を招くだけだと思って黙ってたんだ」
俺はこれ以上追及されないように、そう叫んで無理やり話を押し通す。
「そ、そうか。た、確かにドラゴンが居るとなれば騒ぎになっていただろうな。私は、もう彼女の人?となりを知っているから平気だが、一般人ならそうもいかんだろうしな」
固そうに見えて意外と柔軟性があるのか、モルドレッドはあっさりと納得する。
まぁ、そっちの方が手間が無くて助かるんだけどな。
「そういう事なら、彼女の強さにも納得だ。そりゃ、ギガントアイもキングサーペントもあっさり倒してしまうわけだ」
「ま、そういう訳だからこの事は他の奴には……」
「あぁ、内緒にしておこう。恩人を売るような真似は決してしない」
俺の言いたいことを察したのか、モルドレッドは深くうなずきながらそう言い放つ。
とりあえず、一つの懸念はこれで解決だな。
「さて、そんじゃあ次の懸念だが……」
「グギャアアアアア!」
肝心の六竜もどきとやらの話をしようとしたところで、周りから見た事のないモンスター共が現れ耳をつんざくようなデカい叫び声をあげる。
が、ヴァイスの魔力に気圧されているのか、叫んだり威嚇するだけでこっちに近づいて来ようとはしない。
「ちっ、奴の魔力にあてられて湧いてきおったか!」
「どういう事だ、ヴァイス!」
「例の六竜もどきのせいじゃよ。もどき、とはいえ魔力だけは生意気にもそれなりにあっての。その禍々しい魔力で強力なモンスター共がポコポコ湧いてきてるんじゃ」
そう答えるヴァイスに、俺は戦慄する。
ざっと見渡すだけでも、キングサーペントやギガントアイに及ばないまでもそれなりにやばそうなモンスターが跋扈している。
ヴァイスの言う通り、六竜もどきの魔力のせいでモンスターが発生しているなら、奴を放置しているととんでもない事になりそうだ。
「……ヴァイス。お前なら、奴を倒せるか?」
奴、というのはもちろん六竜もどきの事だ。
「ふん、造作もないわい。ワシに比べれば子供みたいなものじゃ。しかも封印が解けたばかりの小童に負けるワシではないわ」
俺の問いに対し、ヴァイスは腰に手を当てながら自信満々にそう言い放つ。
すごい自信だが、ヴァイスのポンコツぶりを目の当たりにしてるだけにいまいち完全に信用しきれない。
いや、確かにヴァイスは強いし、おそらく勝つんだろうが……何かしらポカをやらかしそうな気がしてしまうのだ。
「分かった。なら、周りのモンスター共は俺達が何とかしておくから、ヴァイス。お前は、六竜もどきを頼む」
「……」
「どうした?」
何やら急に押し黙ってしまうヴァイスに対し、俺は首を傾げながら尋ねる。
「ワシが、あの紛い物を倒したら、惚れ直すか?」
こんな時にもかかわらず、ヴァイスはもじもじしながら顔を赤らめて上目遣いでそう尋ねてくる。
まったく、こいつはどんな時でもブレないな。
頓珍漢な質問をかましてくるヴァイスに対し、俺は軽く溜息を吐きながら口を開く。
「……あぁ、もう他の女が見えなくなるくらいにベタ惚れするね」
「っ! そ、そうか! ならば、ワシは頑張るぞい! ふふふ、すぐに倒してくるから首を洗って待っておれ!」
ヴァイスは嬉しそうにそう叫ぶと、あっという間に遺跡の方向へと走り去っていく。
……モンスター共を蹴散らしながら。
というか、最後のって意味が違うような気がするんだが……まぁ、いいか。
「というわけだ、モルドレッド。すまんが、協力してくれ」
「ふっ、はなからそのつもりさ。おそらく、マーリン殿が感じたという六竜の気配とやらもその六竜もどきのようだしな。放っておくわけにはいかん」
モルドレッドはそう言うと、武器を構えてモンスター共と対峙する。
すいません、おそらくその気配は確実にヴァイスのものです。
なーんてことは素直に言えるわけないので、六竜もどきには悪いが、気配の正体はソイツという事にしておく。
「そんじゃま、いっちょ派手にやりますかね!」
俺は武器を召喚すると、モルドレッドと共に臨戦態勢へと入るのだった。
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