第6話 ギルドに来てみたんだが

 着替えた後、とある建物にやってくるとそこには様々な奴らでごった返していた。

 人間、獣人、エルフと様々でその誰もが武装している。

 ここは冒険者ギルド。通称ギルドと呼ばれており、様々な依頼を斡旋している場所だ。

 昔は宿屋などで依頼を張り出していたんだが、個人間の契約では何かとトラブルが発生しやすいという事でギルドが発足されたのだ。

 

「ヴァイス、俺から離れるなよ」

「そ、それはもうお前を離さないぜベイビーという事でよいのか?」


 よいわけあるかい。

 ヴァイスはちびっこいから迷子にならないようにそう言っただけである。

 ていうか、どこでそんな言い回し覚えてきたんだよ。

 ちなみに、今のヴァイスの格好は襟の深いブラウスと胴衣、それから赤を基調としたスカートとエプロンを身に着けている。

 酒場のねーちゃんが身に着けてるような奴だ。

 ヴァイスによく似合っており、ジュディのセンスの良さが伺える。


「この人込みだと、はぐれたら迷子になるから離れるなって言ってるんだよ」

「む、子ども扱いするでないわ。ワシはこう見えて、アンセルよりもだいぶ……ちょっと年上なんじゃぞ」


 そこで言いなおすあたり、種族が違っても乙女なんだろう。

 年齢に対してシビアというか敏感なのは、どの種族でも共通なんだな。

 思わぬとこでヴァイスの人間臭さを感じ、俺は思わず軽く笑う。


「む! さては、ワシを馬鹿にしておるな? ワシを子ども扱いすると、いくらアンセルでも許さんぞ?」

「悪い悪い。ちょっと、ヴァイスが可愛いなって思ってな」

「んなぅ⁉」


 何やら愉快な鳴き声を出したかと思うと、ヴァイスは顔が茹蛸のように真っ赤になる。


「ひ、卑怯じゃぞ! そのように不意打ちで褒められたりしたら惚れてしまうじゃろうが!」


 えー、こんなので惚れるとかヴァイスってちょろすぎないか?

 ヴァイスのちょろさに、悪い男に騙されないか心配になってくる。

 ちょろいドラゴン、略してちょろゴン。


「で、ちょろ……じゃなかった、ヴァイス。今からヴァイスを冒険者として登録しに行くけど、構わないよな?」

「まったく婿殿は……って冒険者? なんじゃそれは」


 おぉう、そっからか。


「冒険者ってのは、簡単に言えば依頼を受けてそれをこなして報酬をもらう奴の事だ。主にモンスター退治系の依頼が多いな。依頼を受けるなら、冒険者に登録しておいた方が後々楽だから、登録してもらおうってわけだ」

「なるほど、そういう事か。うむ、それで構わんぞ。ワシはアンセルの望むなら何でも聞くぞ」


 何でも、という単語に少しばかり反応してしまったのは内緒だ。

 だって男の子だもん。仕方ないじゃない。

 女の子に何でも言う事を聞くなんて言われたらそりゃ反応しますよ、ええ。


「よし、そんじゃま登録しに行こうか」


 俺はそう言うと、ヴァイスを連れて冒険者登録に向かうのだった。


 

 結果から言えば、特に何か問題があるわけでもなくヴァイスの登録は滞りなく終わった。

 ぶっちゃけ、登録と言っても何ら難しい事は無い。

 過去に犯罪歴がなく、登録料があればそれでいいのだ。

 今回は、既に冒険者である俺の紹介という事だったので何も問題はなかった。

 冒険者は1級から10級までランク分けされており、登録したばかりのヴァイスは10級だ。

 ちなみに、俺は7級で可も不可もなくといった位置である。

 5級以内となるベテランの域に入り、3級以内は雲の上の人と言った感じだ。

 まぁ、俺には縁のない話だ。

 俺は特に冒険者として名を上げようとかそういう気は一切ない。

 とりあえず暮らせるだけの金が稼げて美人の嫁さんが居ればそれでいい。

 そもそも、冒険者をやっている理由も、戦う男はモテると聞いたからだ。

 一切モテなかったがな!


「これで、ワシも冒険者とやらになったのか?」

「あぁ。ヴァイスは10級だけど、まぁすぐ上がるだろう」


 基本的に自分のランクと同じランクの依頼しか受けられないが、パーティ内に上のランクが居ればそいつと同じ依頼を受けることができるのだ。

 上の依頼ほどポイントが多く設定されているので、10級であるヴァイスにとっては結構おいしい依頼となるのである。


「ふむ、それで? これから依頼を受けるのか?」

「まぁね。じゃないと、何しにここへ来たか分からんし」


 宿の修理代に加え、これからは家賃も上がるのだ。

 今まで以上に稼がなければいけない。

 まぁ、家族が出来た時の為の予行演習と思えばいいだろう。


「とりあえず、ヴァイスのその姿でどれだけ戦えるかも見たいから簡単な依頼にしておくか。……そういえば、今更だけどヴァイスは何か武器とか防具とか必要か?」


 今のヴァイスは、この場に不釣り合いなほど普通な格好である。

 とてもじゃないが戦いに出向くような格好ではない。


「いや、特に必要ないな。今でこそ人の姿ではあるが、戦闘力に変化はない。ワシを傷つけられる者などそうは居らんじゃろ」


 そいつはすげーや。

 だが、全部鵜呑みにするわけにはいかない。

 確かにヴァイスは俺よりもずっと強いかもしれない。

 だが、あのヴァイスである。

 この二日で、もう何度もヴァイスのポンコツぶりを目にしてる俺としては、微妙に信じ切れないところがある。

 だからこそ、今日は軽めの依頼を受けてヴァイスの実力を見たいのだ。


「まぁ、危なくなったら逃げるなりなんなりすればいいしな。それじゃ、依頼を受けに行こうか」

「うむ!」


 俺の言葉にヴァイスは元気よく返事をする。

 それを確認すると、俺達は依頼を受けに行く。


 その後、街道に出没するというゴブリン退治の依頼を受けた俺達は、そのまま街道へと向かった。

 依頼ランクは9級。

 俺からすれば楽勝と言える部類だ。

 万が一、ヴァイスがポンコツを発揮してもフォロー出来る程度の難易度だ。

 ちなみに、道中で護身用に武器を買おうと申し出たのだが、


「アンセルはワシを信用しとらんのか! ワシ強いから武器には頼らん!」


 と、謎の頑固さを発揮して受け取ってくれなかった。

 多分、人間には理解できないドラゴンなりの矜持があるんだろうな。

 そんなやり取りを思い出していると、目的の場所へと辿り着く。

 一応言っておくと、昨日俺達が通った街道とは別の街道である。


「おぉ、割と居るな」


 件の街道には、ひぃふぅ……結構な数のゴブリン達がたむろっており、耳障りな奇声を上げていた。

 体の大きさは八十㎝ほど。粗末な腰布一枚だけを身に着けており、緑色の肌を晒している。

 右手にはボロボロの剣やこん棒などを携えている。

 一体一体はさほど強くはないが、こいつらはとにかく繁殖力が高く数が多いので、地味に面倒な相手だ。

 こいつらを楽に倒せるようになれば初心者脱出と言われるほどだ。


「それじゃ、お手並み拝見と行こうか」


 まずは、ヴァイスの実力を見るべく俺は少し離れて見守ることにする。

 危なくなったらすぐ対処をできるようにはしておくが。


「ふふん、ワシの強さを見て惚れてもいいんじゃからな?」


 ヴァイスは強気な発言をしながら、臆せずゴブリン達の元へと向かう。

 闖入者の存在に気付いたのか、ゴブリン達は警戒するようにキィキィと甲高い奇声を上げて臨戦態勢へと入る。


「ふん、下等なモンスター風情がワシに挑もうなど片腹痛いわ! アンセルに良いところを見せるための糧となることを喜びながら塵と化すがいい!」


 ヴァイスがなんとも尊大なセリフを吐くと、そのままスゥっと大きく息を吸い込む。


破滅の閃光カタストロフ・レイ


 まず最初にまばゆい光が見える。

 直後、耳をつんざくような轟音が辺りに響き渡り、俺は思わず耳を塞ぐ。

 そして、光と音が収まると、そこには思わず絶句してしまうような光景が広がっていた。

 キィキィと騒いでいたゴブリン達は文字通り跡形もなく消えていた。

 そして、先ほどまでゴブリン達が居たであろう場所には直径十メートルほどのクレーターが出来ていた。


「まぁ、手加減したしこんなもんじゃろう」

 

 そして、そのクレーターを作った張本人であるヴァイスは満足げに頷いていた。

 これで手加減ならば、本気を出すといったいどうなってしまうんだろうか。


「どうじゃ、アンセル。ワシは強いじゃろう?」


 そう言うヴァイスの笑顔は眩しかった。

 そんな彼女の笑顔を見て俺は…………絶対に本気で怒らせないようにしようと改めて固く誓うのだった。

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