第3話 街へと帰ってきたんだが
ヴァイスロリ化事件から立ち直った俺は、ヴァイスと共にウェーディンの街まで帰ってきた。
ちなみに、ヴァイスは今俺の外套を羽織っている。
なにせ、人化した時に何も着てないすっぽんぽんの状態だったのだ。
流石に全裸のまま街に連れてくるわけにもいかないので、苦肉の策として俺の外套を羽織ってもらったという訳である。
だけど、それで安心はできない。
結局は外套一枚だけなので、万が一強風でも吹いたりしたらすぐにヴァイスが全裸だと周りにバレてしまう。
もしそうなったら、俺はすぐさま変態ロリコン野郎の烙印を押されるだろう。
「ここが婿殿の街か! 大きいのう!」
そんな俺の心配をよそに、ヴァイスは幼子のような純真なまなざしでウェーディンを囲む巨大な外壁を見上げている。
こうして見ると、人間の子供と何ら変わりないように見えるから不思議だ。
「あ、そうだ。なぁ、ヴァイスさんや」
「なんじゃ、婿殿?」
キラキラとした目で街を見上げているヴァイスに話しかけると、彼女はクリンと首を傾げながらこちらを見る。
その仕草一つ一つが可愛らしく、俺がロリコンだったら思わず惚れてしまいそうである。
いや、実際の中身は千歳なのだから、別に惚れてしまっても問題ないのだが……いかんせん、人間は見た目に引っ張られるから微妙なところだ。
「今はまだいいけど、街に行ったら……その、名前で呼んでくれないか?」
「いやさ、婿殿って呼ばれるのが何か気恥ずかしくてさ。名前で呼んでもらいたいなって」
もちろん、それも本音の内の一つである。
美少女に婿殿と言われるのは、長年童貞だった俺には中々にハードルが高い。
それに、俺とヴァイスの二人だけならまだしも、もし他人が聞いたらほぼ確実に誤解されるだろう。
そうした無用なトラブルを避けるためにも、ヴァイスには是非とも名前で呼んでほしいのである。
……まぁ、正直異性に名前で呼ばれるのも恥ずかしいが、仮初とはいえ嫁さん相手に苗字で呼べというのもおかしな話だしな。
「まぁ、婿殿がそう言うなら……ア、アンセル」
「ぐふぅっ!」
「何事じゃ⁉」
「だ、大丈夫。ちょっと、思いのほか破壊力が高かっただけだから」
唐突に吐血する俺を見て、ヴァイスは心配そうに覗き込んでくるが、俺は大丈夫だと言い聞かせる。
……それにしても、さっきのはマジで破壊力が高かった。
だってさ、考えても見てごらんよ。
超絶美少女が顔を赤らめながら、上目遣いで自分の名前を呼んでくるんだぜ?
反応すんなって方が無理である。
危うくロリコンでもいいやと思いかけてしまったではないか。
ただのポンコツドラゴンだと思いきや、まさかのとんでも飛び道具を持ってやがったな。
ヴァイス……恐ろしい子っ!
「本当に大丈夫か? 実は不治の病に罹ってたとかないんじゃな? 嫌じゃぞ、婚約したその日に未亡人が確定するのは」
「だから大丈夫だって! 俺は、生まれてこの方大きな病気をしたことがないのだけが自慢なんだから」
そう言って俺は、ヴァイスを安心させるべく健康アピールをする。
別にこれは強がりではなく事実だ。
大きな病気どころか、風邪さえも引いたことのない超健康優良児である。
もっとも、本当に健康
「むぅ、それなら良いんじゃが……辛い時は正直に言うんじゃぞ? 妻として精一杯看病するからのう」
「あ、そこは魔法とかで治すんじゃないんだ」
願いを叶える龍ではなかったとはいえ、千年も生きてるのだ。
てっきり魔法に関してはお手の物だと思っていた。
「……ワシ、回復魔法使えないんじゃ。攻撃系は得意なんじゃがのう。例えば、あの街くらいなら容易く消し炭にできるぞ」
「へ、へぇ……」
何気なく破壊神宣言をするヴァイスに慄きながら、俺はヴァイスだけは絶対に怒らせないようにしようと固く誓うのだった。
◆
「ほわぁ……」
あの後、ヴァイスと他愛ない会話をしながら街へとやってくると、彼女はより一層目を輝かせる。
「そういえば、ヴァイスって街に来たことがないのか?」
「うむ、初めてじゃ。基本的にワシらはこちらの世界には不干渉でのぅ。じゃから、ちっとばかし珍しいんじゃよ。基本的な知識はあるが、実際に見るのと聞くのとじゃだいぶ違うしのう」
詳しいことは分からないが、ヴァイスも色々大変みたいだな。
まぁ、千年も生きてると俺には想像もつかないような事が色々とあるのだろう。
「それで、街に来たはいいがこれからどうするんじゃ?」
「そうだな……家に帰る前に、ヴァイスの服を何とかしないとな」
「服か? 別にワシは婿ど……アンセルがくれたこれだけでも構わんぞ?」
「いや、そうもいかんでしょうよ」
今のヴァイスは、外套一枚だけを羽織るという痴女スタイルだ。
ヴァイス本人は、そもそも服を着るという習慣がないので平気なようだが俺が平気ではない。
俺の借りてる部屋にも女物……特に子供用の服なんて置いてないので新しく買う必要がある。
予想外の出費で懐が多少痛むが、ヴァイスの為なので必要経費と諦めることにする。
「ほら……その下は裸だろ? この街でそういう格好してると、変な奴に目をつけられたりするからさ」
特に、今のヴァイスは美少女である。
ロリコンでなくてもドキッとしてしまう美貌なのだから、もし真性の変態に見つかりでもしたら大変なことになる。
いやまぁ、ヴァイスなら変態如きに遅れは取らないだろうが……なんとなく嫌なのだ。
「ふーむ、人間は大変じゃのう。分かった! アンセルがそう言うなら服を買いに行こうではないか!」
俺の言葉に納得したのか、ヴァイスはこくんと頷くと満面の無邪気な笑みを浮かべる。
くそう、笑顔が眩しいぜ。
「さて、問題は服屋だが……」
服屋に行くのが決定したところで、俺は顎に手を当てて思案する。
この街にもいくつか一般人用の服屋はあるが、その中で子供服を扱ってて尚且つ、値段も手ごろな店というと限られてきてしまう。
服屋に関しては問題ないのだ。問題なのは働いている人間だ。
「……まぁ、悩んでても仕方あるまい」
今日は休んでいることを祈るしかあるまい。
他の店はちょっと俺の予算がオーバーしてしまうので、実質一択しかないのだ。
人生、なるようにしかならないのである。
俺は覚悟を決めると、ヴァイスを連れて服屋へと向かうのだった。
道中、物珍し気に周りをキョロキョロと見渡しうろうろし始めるヴァイスを先導しながら目的の店へとやってくる。
「…………」
服屋に辿り着くと、俺は物陰に隠れてソッと店内を覗き込む。
「どうしたのじゃ?」
「いや、ちょっと会いたくない人が居てね……」
ヴァイスの問いに答えながら、俺は尚も店内を見渡す。
が、どうやらその人物は休みなようで店内には見当たらなかった。
俺は内心ホッと一息つくと、ヴァイスの方を見る。
「よし、それじゃ中に入ろうか。ヴァイスの好きな服を買ってやるからな」
「それは嬉しいのじゃが、生憎とワシは人の服というのはよくわからんでのう。アンセルが選んでくれると有難いんじゃが」
はっはっは、中々に無理難題を仰る美少女だ。
生まれてこの方彼女が居ない俺に異性の、しかも少女の服を選べというのは少しハードルが高すぎではないだろうか。
自慢じゃないが、はっきり言って俺は服のセンスがない。
今着てる服だって、店員のオススメを買ったくらいだしな。
じゃあ、ヴァイスの服も店員に選んでもらえという言葉が聞こえてきそうだが、ヴァイスの期待の眼差しがそれを許さない。
正直にヴァイスに話して店員に選んでもらうか?
そんな事を考えていると、ふと声を掛けられる。
「あれ、フォーギュスター君じゃない? ここで、何やってるの?」
「ジュ、ジュディ⁉」
声を掛けられ驚きつつそちらを見れば、そこには今一番会いにくい人物が立っていた。
年は二十代半ば、赤い髪を肩で切り揃えておりソバカスが印象的な素朴美人。
名前をジュディ。
職業は服屋の店員で…………俺を振った128番目の女性である。
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