最終電車(パート3)

《京州署》


水湖署から送られた、被害者の情報が記された紙に目を通した。


被害者は元JPR職員だ。

JPRとは、Japari Railwayという鉄道会社だ。国鉄が民営化されいくつかに分けられた。


その中に1つ気になる記述を見つけた。


(15年前、JPR京州本線脱線事故該当列車に乗務...?そんな大きな事故あったっけかなぁ...)


カラカルとフェネックは水湖署に出張に行っているのでいない。


「サーバル先輩、15年前の脱線事故って覚えてますか?」


「んー」


サーバルは天を仰いだ。


「あー、あれね。あれは酷かったよね。確か運転士が発作を起こしていしきを失っちゃったんだよね。それで速度が出しすぎちゃってみたいな」


「それの捜査ってどこがやったんですか?」


「私その頃まだ警官じゃなかったから...、わかんないなー....。あっ、でも資料室に行けばなんか残ってるかも」


そう言ったので、私たちは資料室へと来た。棚にいくつものダンボールが収納されている。


「えーと...15年前...、あれ?無いですね」


「あっ...、捜査資料の保管って15年間かも...」


サーバルは顔色を変えた。


「ええっ、それってつまり...」


「あれ、お二方何をしてらっしゃるんですか?」


そう尋ねたのはマーゲイだった。


「15年前の資料を探しに来てて、

マーゲイこそ、なんで?」


「そうですか、なら良かったです!

署長に言われて15年前の資料を廃棄する為にまとめて運び出してたんです!

まだ有りますよ」


私は自然と冷や汗が出た。


「危なかったですね...

これで捨てられちゃってたら手掛かりが無くなっていましたよ...」


「マーゲイ、15年前の資料を探してくれない?」


「あっ、はぁ」


15年前の資料が入った段ボールが

山積みになっていた。3人で手分けして、脱線事故の資料が無いか徹底的に調べた。


「あっ」


マーゲイが声をあげた。


「これじゃないですか?」


青色のファイルを持ち、見せた。

たしかに、背表紙に「JPR京州本線脱線事故」と書かれてる。


「それです!ありがとうございます!」


アードはそのファイルを受け取った。


一旦部屋に戻り、調べ始めた。


サーバルが言っていた様に、事故原因は

運転士が突然発作を起こし、意識を失った事によるものだった。


被害者リストを丁寧に確認していると、

驚くべきものが目に止まった。


(アライグマ...?)


写真が貼られている。

あのフェネック先輩の卓上の上に飾られてた写真の人物と同じだった。


「先輩、このアライグマって、フェネック先輩の机の上の写真に写ってましたよね?」


「そうだっけ」


私は立ち上がり、先輩の机へと向かった。


「あんま他人の机なんて意識して見ないからなあー」


「あれ?」


おかしい。写真立てが飾ってあった筈なのに、写真立てその物が消えている。


申し訳ないと思いつつ、机の引き出しの

中を開けてみたが、あの写真立ては無かった。


(どうなってるんだ...?)


「そのアライグマをフェネックが知ってるか直接聞けばいいんじゃないかな?」


サーバルの提案に頷いた。


小一時間して、二人は戻ってきた。


「犯人に関する手がかりが全くねえ。

かばんでもいないとダメだなこりゃ」


カラカルが不機嫌そうに言った。


「砂については何か?」


私は尋ねた。


「砂?ああ、海の砂とか言ってたけど

なんで付いたかがわからないって話だったな」


「そうですか…、あっ、フェネック先輩」


「ん?」


先輩の机に向かい、アライグマの写真を見せた。


「先輩の机の上にこの人物とツーショットの写真、飾ってませんでしたか?

何か知ってません?」


フェネック先輩は私の問いには即答せず

じっとその写真の人物を見つめていた。


「ああ、アライさんか...。

同じ高校だったよ。

そうだ。あの事故で亡くなっちゃたんだよね...」


そう答えた。


「アライグマさんと同じ学校ですか…

どこに住んでたんですか?」


「私もアライさんも土本に住んでたんだよ」


「そうですか。あっ、写真立ては何処に...?」


「ちょっと家に持ち帰っただけさ」


「持ち帰った...?」


お互いの目線が合った。


「別に持ち帰ったっていいでしょ?」


「それは...、そうですね」


これ以上深く聞くのを止めて、一旦身を引いた。



3日後、私は有給休暇を取り、電車に揺られていた。向かった先はアライさんとフェネック先輩の故郷、土本だ。


私は今回の事件、奇妙な繋がりがある。

15年前の資料を見てそう思った。


被害者は脱線事故の車掌

その列車の乗客がフェネック先輩の友達


一瞬、フェネック先輩が“犯人”という疑念が湧いた。いや、そんなはずはない。


それを証明するためにも、この土本に

行かなければならないのだ。



「まもなく、土本~」


私は、列車を降りた。



まずは情報収集からだ。

フェネック先輩は自身の住所は教えてくれたが、アライさんの住所は忘れたと言っていた。


駅前でタクシーを拾い、フェネック先輩の実家近くまで来た。


フェネック先輩は高校卒業と共に家族で京州市に引っ越してきている。

今の実家は誰も住んでいない。


とりあえず、近所の住民一人一人に聞いて回った。


5軒目で、アライさんの住んでいた家を教えて貰った。その住所に足を運んだ。


二階建ての青い屋根と白い外壁の一軒家

インターホンを鳴らした。


「どなたですか?」


「すみません、京州署のアードウルフっていいます。お話お伺いしてもよろしいですか」


インターホン越しにそう言うと、ドアを開けて出てきた。


「何の御用ですか?」


「あの、アライグマさんとフェネックさんの関係について知っている範囲でお聞きしたくて...。私、フェネックさんの部下です」


「...」


彼女はいたん後ろを振り向いてから、

家に上がらせてくれた。


仏壇にはアライさんの写真があった。

線香を手向け、手を合わせた。


「私はタヌキ。アライグマは私の姉です。と言っても、自分は養子でこの家に来たので、血縁関係はないですけどね」


そう語った。


「アライさんとフェネックさんの様子とかって覚えてますか?」


「フェネックさんは家によく遊びに来てましたよ。お泊まり会とかやってました。仲良かったですよ。とても」


「そうですか...、じゃあ、お姉さんが亡くなられた時は...」


「私も悲しかったですけど、

フェネックさんはもっとそれ以上に酷く泣いていました」


「...」

静かに息を飲み込んだ


「事故のあった日、二人は同じ電車に乗って、学校に行く予定だったみたいです。けど、フェネックさんが休んでしまって...、姉だけが犠牲になってしまったんです。いつも2号車に乗ってて、丁度被害が大きかった先頭に近い車両でしたから...」


「フェネックさん、悔しかったでしょうね...」


私の口から勝手に言葉が出た。


「どうして自分は助かったんだって。

何度も何度も、嘆いてました。

フェネックさんは悪くないって私も慰めたりしたんですけど、やっぱり、心に負った傷が深くて... 、でも、

フェネックさん、夢を叶えて警察官になったんですね」


「夢ですか?」


「ええ、姉が火葬される最後の日、

フェネックさんが言ってました。

“絶対、警察官になって悪い人を捕まえる”って」


「悪い人...、ですか」

そのフレーズに違和感のようなものを感じた。


「なんせ15年も前の事ですし、私もよく覚えてませんけど、たしか、そんな事を言っていたような気がします」


「突然お邪魔して、すみません。

貴重なお話ありがとうございました」


そう礼を述べた。


「あの、ひとつ聞いていいですか?」


「はい?」


「フェネックさんに何かあったんですか…?」


「....、私のちょっとした興味です!

フェネックさん、署ではあまり自分のこと話しませんし、うちの署はちょっと

変わった経歴を持つ人物が多いんですよ。そういうことです」


「そうですか。楽しそうですね」


タヌキは少し笑みを浮かべた。


私は再度礼を述べ、アライさんの家を後にした。


帰りの電車で、私は“もしや”と思った。


“責任を感じていた”


“警察官になって悪い人を捕まえる”


(親友を失った先輩にしてみれば、

あの事故を引き起こした車掌も...

“悪い人”になる)


認めたくは無かったが、動機としては充分だった。


そういえば、中央署で会ったワシミミズクさんはこんなことをかばんが言ったと

話していた。


『たとえ、犯人が、友達であっても、親であっても、恋人であっても、

警官になったからには、その“責任”をしっかりと果たさなくてはいけない』



私も、その“責任”を果たさなくてはいけないのだろうか。


日が落ち、太陽の代わりに出てきた月はじっと私を見つめ続けていた。





プルルル...、プルルル...


車の運転中携帯が鳴った。

車を路肩に止め 、携帯をとった。


「もしもし」


「あ、フェネックさんでありますか!

夜分遅くに申し訳ないであります。

捜査の関係で確認したいことがありまして...」


「何ですか?」


「事件当日の被害者の足取りを確認したら京州市の海岸に出かけていることが

わかりましてね。誰かに呼び出されたみたいであります。

しかし、携帯がないでありますからね...。で、靴から海岸の砂が見つかったのはそのせいでありますが、そちらの砂の鑑定結果はどうでありましたか?」


「こっちで鑑定した結果は、海岸の砂ではありませんでしたよ?」


「それは、本当でありますか?」


「はい。鑑定結果、明日送りますけど...」


「因みにどこの砂でありますか?」


「山の砂利道の砂でした。後で送付するので確認お願いします」


「わかったであります…。

あっ、お時間取らせて申し訳ないであります。それでは...」


通話を終えた。

もちろん砂の話は嘘だ。


「携帯も...、捨てようか...」

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