悪戯心 (パート2)
《北呂土地区》
ピンポーン
「・・・また、あなた達ですか?」
「ホントに申し訳ないですが、捜査にご協力ください」
「何で私の所なんですか?」
「これを」
かばんは徐にA4サイズの紙を開いて見せた。
「家宅捜索しますからね。キリンさん」
「・・・えっ」
「お邪魔しまーす」
「どうもー!」
「し、失礼します」
サーバル、カラカル、アードウルフの3人が
キリンを退ける様にして中に入った。
「ど、どういうことですか」
「ははは、どういう事って、一番自分がわかってらっしゃるんじゃ?」
「まさか私が殺したとでも?」
その問いにハッキリと応答せず、笑みを浮かべ続けた。
「えーとっ」
サーバルとアードウルフは台所を徹底的に調べた。
「あっ、サーバル先輩!」
「見つけた見つけた?」
「有りました。七味唐辛子」
「かばんちゃん、見つけたよ!」
カラカルは、机の引き出しを開けた。
目についたのは、日記である。
ペラペラと捲った。
「おっー、こっちもいいもん見つけたぜー!」
「・・・・」
キリンの顔色が少し青くなったように見えた。
「防犯カメラを解析してるので、署に着く頃には、恐らく。
ともかく、任意同行お願いできますか?」
「いいですよ。ちゃんとお話しします」
《京州署取調室》
“かばんちゃんが聴取テクはスゴイから、部屋の中で聞いてきなよ”
とサーバル先輩に言われ私は、取調室の中にいる。
「オオカミさんが殺害された日の夜、あなたは何処にいましたか?」
「言った通り、会社を19時に出て40分後には家に着いてます」
「会社の方に確認を取った結果、確かにタイムカードは19時に押されていました」
「私にはアリバイがあるんです。私が犯人でないことは間違いないですよ」
「ええ。そうですね。確かにあなたは“直接は殺していない”」
その言いぐさがアードウルフの耳にツンと刺さった。
(直接殺していない・・・?)
「アードウルフさん、例の映像を」
「あっ、はい」
パソコンを持って取調室の机に置いた。
「事件当日の夜19時25分頃、オオカミさんのアパート周辺の防犯カメラの映像です」
画面の左下には年月日と時刻、モニターには暗い夜道を通るシルバーの車が映っている。
「あなたは、事件当日、あのアパート前を走行しています」
「あの道は近道なんです」
「そして、オオカミさんのアパートに行きましたよね?
そこであなたは、オオカミさんの部屋に入った」
「なんでオオカミさんのアパートに行くんですか・・・」
「それは原稿を取りに行くために決まってるじゃないですか
僕の推理はこうです。
あなたは事件当日、オオカミさんの部屋に入った。
しかし、オオカミさんは既に息絶えていた。
急いでうどんの器に残った物を処理して、家を出た。
そして次の日の朝9時、あたかも次の日初めて発見した様な素振りをして見せた・・・」
「待ってください・・・。なんで私がオオカミさんのうどんの器を
綺麗に処理して...」
かばんは笑顔を浮かべた。
「それは、あなたとオオカミさんの関係にあるんじゃないですか?」
「・・・はい?」
「僕は、あなたと他の方のお話を聞いて違う点がある事に気が付きました。
それを僕の優秀な部下が、代わってお話しさせていただきます」
かばんはアードウルフの方を向く。
「えっ・・・?わ、私です・・・、か?」
黙って二回肯いた。
(か、かばん先輩が全部やるんじゃないの!?どうしよう・・・
キリンさんが他の方と違っていた点・・・?
いや、ここで答えないと・・・)
「えっ、えーっと・・・、そ、そ、そばアレルギーについて・・・」
「そばアレルギー?」
「そうです!あなたは、確か、オオカミさんは“そばが嫌い”と言っていた。
しかし、お蕎麦屋さんの店主や大家さんはちゃんとオオカミさんは“そばアレルギー”と明言していた」
「あなたと、オオカミさんの関係。つまり、そう言う事です。
あなたとオオカミさんの仲はそれ程親密では無かったんですよ」
かばんは真っすぐキリンを見つめた。
「なんで編集者と先生が親密である必要性があるんですか?」
「それが、オオカミさん殺害の動機と言っても過言ではありません。
押収した日記を読ませていただきました」
「・・・・」
「いつも、オオカミさんはあなたに対して、冷たかった様ですね」
かばんはいつの間にか日記帳を取り出していた。
ページを捲って、朗読を始めた。
「6月12日、原稿を取りに先生の家に行く。先生はお茶も出さない。」
「7月28日、最悪な事に先生にスーパーで出会った。先生は私の買い物かごの中に
いつの間にか買うはずもない別の商品を入れていた。レジの所でニヤけているのを見て
腹が立ったが、人前だったので抑えた。」
「10月5日、なんで私があの人の担当編集者なんだ。
底辺高校から頑張ってあの大手出版社に就職して、他人に認められる様になったのに
あの人は私を認めようとしない。一瞬殺意が芽生えるがそんな事をしたら今までの
キャリアが無駄になる。そんな事は絶対にしない」
日記の記述でアードウルフは疑問を浮かべた。
(・・・ん?殺そうとは絶対にしない?)
「あなたは、殺意は芽生えたものの、実行には移さなかった
しかし、ずっとやられっぱなしでは納得がいかない。
すこしお灸を添えてやろうと思ったんですよね。
そして、あなたはオオカミさんがそば嫌いだという事を知っていたので、
ある作戦を思いついた。オオカミさんにそばを食べさせる」
「・・・・」
黙ったまま、かばんとは目線を合わさない。
「ですが、嫌いな食べ物を無理矢理食わすという事も出来ない。
じゃあどうしたか。あなたは七味唐辛子に、そば粉とそばの実を混ぜた。
原稿を取りに来た時にこっそりオオカミさんの家の七味唐辛子と入れ替えて
そして、後はオオカミさんが七味唐辛子を使えばいいだけです」
「実際に、七味唐辛子からそば類が検出されたんですか・・・」
「ええ。もうすぐ鑑定結果が出るはずです」
コンコン
タイミングよく扉を叩く音がした。
入って来たのはフェネックだった。
「はいこれ、例の七味の鑑定結果」
「ありがとうございます」
フェネックは置くだけ置いて、部屋を出た。
「ちゃんと、ここにそば類が検出されてますね」
結果の所を指で抑えて見せた。
「・・・・、殺すつもりは・・・、無かったんです・・・・」
キリンは声を震わせた。
「今回の事件は“情報不足”が原因で発生しました。
あなたが、オオカミさんが“そば嫌い”ではなく“そばアレルギー”と知っていれば、
状況は変わったかもしれませんけど...。
しかし、過去はもう変えられないし、過失であれなんであれ、
あなたが人を殺してしまった事には変わりありません」
「....」
下唇を噛みしめたまま俯いて黙り込んでいた。
鼻を啜るような音が、何回聞こえた。
《???》
『ススススーッ』
電話口から聞こえる声は何かを啜る音だった。
「あの、お食事中ですか?掛けなおしますよ?」
『平気なのです。賢いので』
「そうですか」
『何の用件です?スッース』
「あなたの所にいたかばんは優秀な人材になって、大変助かっております」
『態々そんな事を報告するために電話したのですか』
「あなたが恨めしがると思って」
『アイツは変人なのです。私は賢いので、良い判断だと思ってるのです。
今更恨めしがるような事は無いのです』
「そうですか・・・」
『しかし、あなたの所は変人しかいないですね。ススッ
新しい人を引っこ抜いたらしいじゃないですか、何をやらかしたのです』
「特に、何も」
『変なヤツはお前もでしたか。スススッ。私は賢いので、アドバイスをしてやるです
身の危険を感じたら直ぐに逃げられるように浮輪を用意しといたほうが良いですよ』
「そんな浮輪なんていりませんよ。水泳は得意ですから」
『...勿論、私も救いの手は差し伸べないですから。
まあ、賢いので火の立つところには近付きませんけど』
「ところで、何を食べてらっしゃるんですか?」
『久々の“ラーメン”ですよ。賢いので』
「“そば”でも“うどん”でもない。あなたらしい。
食事中邪魔してすみませんでした。どうぞ、ごゆっくり召し上がってください」
ガチャッ
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「あら、どうしたの?フェネック」
「署長、アードウルフ・・・、彼女は何をやらかしたんですか?」
「何もしてないわよ」
「では、何故」
「才能を感じたからよ。刺激の強い所で育てるの。
果物と同じよ。みかんだってストレスを与えれば美味しくなるもの。
あなたも面倒見て頂戴ね?」
「・・・・、署長も変な方ですね」
「あなたも変よ。・・・というか、
ここの刑事課は全員普通じゃなかったわよね」
「普通の定義が当てはまりません...。失礼します」
フェネックは振り向いて署長室を出て行った。
「・・・あなたを含めて」
扉が閉まったのを確認して、そう呟いた。
(アードウルフ・・・、私の計画を邪魔される訳行かないのさ・・・)
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