第3話

正義の審判(パート1)

「おい、てめえら・・・・」


「あん?何だよ」


「弱い奴らを・・・、イジメんじゃねえよ・・・」


「テメェ、何様のつもりだ!ヒーロー気取りめ!

実際何も出来ねえだろ...、大会で優勝したからって、調子乗りやがって!

血ィ吐いてんじゃねぇか、笑っちゃうぜ」


「チッ・・・!」


ウチは・・・


“正義”の為に・・・













《京州市内 高級レストラン》


「ギンギツネ君・・・、君と、私の娘と婚約してほしい」


「・・・・」


チベスナの言葉で、オオミミは顔を赤らめた。


「そんな・・・。もったいないですよ」


「お前には、私の家の財産も継いでもらうつもりだ」





数日後。


≪銀木法律事務所≫


「ただいま。スナネコ」


「お帰りなさーい、せんせー。何か嬉しそうですね・・・

もしかして、“例の娘さん”とお食事ですか?」


「よくわかったわね」


「有名じゃないですかー。

世界的にも有名な敏腕弁護士チベスナさんの

弟子の先生が、その娘さんと付き合ってるって・・・」


「上手く行くと良いけどね・・・。私は、本気だから」


「そーですねー・・・」


スナネコは関心無さそうな言い方をした。


「そうだ、スナネコさん、残業は私がやるから

今日はもう、帰っていいわよ」


「え?いいんですかー?」


少し嬉しそうな表情を浮かべた。



「あっ、一つだけお願いしてもいいかな」


「いいですよ」


即答であった。


「残業中に仮眠をとるつもりなんだけど・・・、

22時に起きたいから、“モーニングコール”してくれない?

事務所の電話に」


「お安い御用です!」


「ありがとう・・・」



「こないだみたいな“ミス”はしないでね?」


「わかってますよ~」





「じゃあ、失礼しまーす」


スナネコは嬉しそうに、事務所を出て行った。






《スナネコ宅》


(あっ、もう10時だ・・・。めんどくさいけどやんなきゃなー・・・)


事務所に、電話を掛けた。


「もしもし、先生?10時になりましたけど・・・」


『ああ、もう10時・・・、大丈夫、起きれたから。

ありがとう。助かったわ』


ピッ






《京州市雪見が丘地区》


ピンポーン


「はい」


「私、約束の時間に来たわよ...」


「わかった。今ドア開けるね」


慣れた手つきで、エレベーターに乗り込んだ。

そして、ある部屋の前に辿り着いた。




ピンポーン


「来てくれたの。うれしいよ。

さ、入って入って。ゆっくり、お話ししましょう・・・

お互いの将来の為にも・・・ね?」





「結婚すればいいじゃない。その子と。

わたし、一人取られたくらいで逆恨みするような

嫉妬心の塊じゃないから」


「だから、言ってるでしょ?キミとは、別れなきゃマズイの」


「嫌だ。なんで、あなただけ幸せにならなきゃいけないの?」


彼女は笑顔を浮かべた。


「どうすればいいの...」


呆れたように言い返した。


「今まで通り、毎月100万振り込んで。

その金でいろいろ買い物するから。


わたしはお金が貰えてハッピー、あなたは結婚できてハッピー

それでいいじゃん」


彼女は笑いを絶やさない。


「言っとくけど、わたし、あなたの“家庭壊す”のなんて、平気だからね?」


「・・・・」


プルルルル


唐突に、電話が鳴り始めた。


「ごめん、ちょっと待ってね」




「もしもし。ホッキョクです。


・・・サーちゃん?今来る?


えっ?もうすぐ近くまで来てる?あと5分?

分かったよ・・・。じゃあ待ってるからさ・・・


はい、じゃあね」


ガチャ


「別の人を見つけようとは思わないの?」


「バカ言わないでよ。あなたほど“お金を持ってる人”いないでしょ?

指折りの大金持ちの娘さんと付き合ってるんでしょ?

わたしは、お金持ってる人が好きなの。


愛する人にお金だけ貢ぐ。・・・これって、大人の関係だと思わない?」


「もういいわ・・・。最終弁論終わりよ」


「なにそれ。急に弁護士アピール?サムいよ」


「考え直したらどうなの・・・」


「考えを変えるつもりはない」


「それで言いたい事はそれで全部?」


「そうだよ、それで何」


「判決よ・・・」



“バリーンッ!!”



「あなたが悪いの・・・。

あ・・・、指紋拭かないと・・・」



ピーンポーン



インターホンが鳴った。

恐る恐る、通話のボタンを押した。


(・・・・)


「ホッキョクちゃん?手土産持ってきたからさ、

開けてくれない?」


カチャッ


「ありがとー!!今行くからね!!」



ピッ、ピッ、ピッ


「こちら110番、警察です。どうしましたか」


「人を・・・、殺しました・・・」


ガチャッ




ピーンポーン


「あっ、開いてる!ホッキョクちゃーん!」


そう声を出したが、返事は無い。


「ん・・・?」



落ちていた物を拾った。



「なにこれ。ホッキョクちゃん?」


キッチンの方へと移動した。


「ん?ホッキョクちゃん、こんな所で寝てたら風邪ひくよ~?

大丈夫?」


起き上がらせようと、彼女の体に触れた。


「ん・・・」


変な感触がした。


両手を見ると、“赤い血”が付着していた。


「あっ・・・、あっ・・・・」


パトカーのサイレンの音が耳に入った。


「や、やばい・・・!!に、逃げなきゃ!!」





その数分後


「アドさん、被害者の所見は?」


かばんが尋ねた。


「あー。えっと、殺されたのはホッキョクギツネ。

京州大学の卒業生。死亡推定時刻は10時30分頃

犯人と思われる声の通報で、駆けつけた警察官が見つけたそうです」


「京州大かぁ・・・。国立名門だね」


「そうなんですか・・・?」


「そう・・・、ところで、一人暮らしの割には随分豪華なマンションに

住んでいるね。お金持ちとかだったの?」


「親とは疎遠、仕送り無しで、職業は地下アイドルなので、その収入かと」


「凶器は?」


かばんは尋ねた。


「この、ガラスの水差しみたいです。その取ってが落ちてました」


「現場を見る限り、犯人はそれで思いっきり殴りつけたって感じですね・・・

破片が散乱してますし・・・」


かばんは辺りを見回す。

するとテーブルの上に置かれているある物を見つけた。


紙袋だった。


「アドさん、アレ何かな?」


「ケーキ?見たいですけど・・・。

それも指紋を調べれば、所有者はわかると・・・」


「あれ・・・、この電話、録音機能が付いてる」


「そうですね。そのタイプの電話機ですね、コレは」


「マーゲイさん、再生してもいいですか?」


「はい!指紋は調べおわってるので、再生しても大丈夫ですよ」



「・・・結果は?」


「綺麗にふき取られていましたね」


「そうですか・・・」


目線を電話機に移しつつそう言った。


「聞いてみますか・・・?」


私は先輩に尋ねた。


「一応聞いてみよう」


ピッ


『あっ、もしもし?ホクちゃん?

美味しいお菓子買ったからさ、いまからそっち行くね。

お金とか、そう言うたぐいじゃないよ。後5分くらいで着くと思うからさ、

大丈夫?わかった。待っててね』



私とかばん先輩は、恐らく同じ気持ちになっただろう。


「これで・・・、サーバル先輩の声ですよ・・・ね?

手土産っていうのはあの紙袋・・・

電話の録音があった時間は10時25分・・・、その5分後にここにきているという事は・・・

まっ、まさか・・・、先輩が・・・」


「・・・、一応連絡だけ取ってみよう」


私は少し動揺していたが、かばん先輩の方は冷静だった。


「は、はい!」



《京州市尾座川(おざかわ)地区》


かばん先輩に教えて貰ったサーバル先輩の家がここだ。

私は、家の中に入った。


“ミャー”


声が聞こえた。


(猫・・・?先輩、猫飼ってたんですか?あんな猫みたいな見た目してるのに・・・)


奥の勝手口から、物音が聞こえた。


「そーっと・・・、そーっと・・・」


「せ、先輩!?」


「あっ・・・」


「ちょっと!!なんで逃げるんですか!!」



その後、私はサーバル先輩を追いかけるという、

想像もしなかった展開に巻き込まれていった・・・




《京州拘置所》


「か...、かばんちゃあああああん...」


涙を流しながら、声を上げた。


「どうして・・・、こんなことに・・・」


「私はやってないよ!信じてよ!!

私が行った時にはもう死んでたよ!!」


「じゃあ、警官なんだから逃げなければよかったのに・・・」


「だって・・・、つ、つい・・・、“昔の思い出”が・・・」


ハァー、とかばんは溜め息を付いた。


「一体何があったの?」


「あの日は・・・、ちょうど、お、お金を借りようと思って・・・」


なおさら、呆れた視線をサーバルに注いだ。


「サーバルちゃん・・・、また借金してたの?」


「だってどーしても必要な事があったから・・・」


「このことがあからさまになれば、サーバルちゃんは

ホッキョクギツネさんにお金を貸すように頼んだけど

断られたから逆行して殺したって思われるよ・・・。

っていうか、ホッキョクギツネさんと何処で知り合ったの?」


「この数か月前京州の繁華街を歩いてたらねー・・・

すっごいお酒に酔ってたホクちゃんがいたから、それを私が介抱したの

それから、まぁ・・・、仲良くなったっていうか・・・

お金持ちだったみたいだし、ちょっーとだけ、お金工面してもらったりとか・・・」


かばんは黙ってその経緯を聞いていた。


「ねぇ、かばんちゃん!かばんちゃんなら真犯人を見つけてくれるよね!!」


「ごめん、それは無理なんだ・・・」


「な、なんで!?」


「カバ署長からの命令だよ。僕とサーバルちゃんじゃ距離が近すぎるって。

捜査に支障が出るかもしれないからって・・・

その代り、新人で日が浅いアードウルフにこの事件の指揮を任せるって」


「そ、そんな・・・」

(で、でも・・・、アドちゃんなら解決してくれるかも・・・)


「とにかく助けたいのは山々だけど、僕が出来る事は何もないから・・・

・・・幸運を祈るよ」


かばんは席を立ち、面会室から離れようとした時だった。


「ちょっと待って!一つ頼みたい事があるんだ!」


かばんは足を止めた。


「弁護士を呼んでよ!私、知り合いに一人優秀な人がいるんだ!

せめて・・・、その人と連絡を取ってほしいんだ!」


「・・・わかったよ」









「サ、サーバル先輩!?どうしてこんなところに?」


「誰かが、私を犯人にしたんだよ!」


「わかってます。先輩、一緒に無罪を勝ち取りましょう!

先輩が無罪なら、法がそれを証明してくれますから、安心してください」


「ギンギツネ・・・、あなたしか頼れる人がいないんだ...」


「大丈夫です。任せてください。

それに、先輩を救う事が、先輩の親友、ホッキョクさんの供養になりますから」


「ありがとおおおお!!」


サーバルは目に涙を浮かべ、感激していた。





接見を終え、ギンギツネは、帰ろうと、廊下を歩いていた。


「ギンギツネさん」


かばんはまだ、その場所にいたのだ。


「あっ、かばんさん・・・、でしたよね。

サーバル先輩の事、教えてくれてありがとうございます」


赤縁の眼鏡を掛け、真面目そうな雰囲気を醸し出している

ギンギツネは頭を下げた。


「僕もあなたみたいな素晴らしい弁護士先生に依頼出来て光栄です

・・・なんでも大学卒業1年目で、殺人事件で無罪を勝ち取ったそうじゃないですか」


「あれは法が味方してくれただけですよ」

照れ笑いを浮かべて見せた。


「それで...、ギンギツネさん、被害者と同じ京州大学に通ってたらしいじゃないですか

そう言えば、サーバルちゃんも京州大ですけど、お二人はどういった関係で?」


「サークルの先輩と後輩です。アニメサークルにいましたから。

私が1年の時、先輩は2年でした。蛇足ですけど、先輩は2年かけて卒業してましたけどね」


「へぇ・・・。最後に一つだけ聞いてもいいですか?」


「はい?」


「被害者と大学内で会ったことありますか?」


「確か・・・、同級生だったので、何かの授業で一緒になった事はあります

それ以外は・・・、何も」


「そうですか」


「じゃ、失礼します」


僕は頭を下げて、ギンギツネを見送った。




――――――――――――――――――――

元ネタ(参考) 古畑任三郎シリーズ「しゃべりすぎた男」

※独自にアレンジを加えております。

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