正義の審判 (パート2)

前回のあらすじ


マンションの一室で地下アイドルのホッキョクギツネが撲殺された。

なんと驚くべきことに、刑事課のサーバルが被疑者として捕まってしまう。

容疑を晴らす為に、アードウルフは残りの仲間と共に、真犯人を見つける...


―――――――――――


「・・・という訳で、今回の事件の指揮をあなたに任せるわ」


カバ署長は微笑み顔を浮かべた。


「わ、私っ!?」


反射的に驚いた。


「あなたしかいないのよ・・・。

フェネックもカラカルもかばんもサーバルと長いから・・・。

消去法的にあなたしかいないのよ。やってくれる?」


腕を組み、窓から外の景色を見た。


「しょ、署長のたっ、頼みなら・・・」


断るに断り切れなかった。




「アードウルフ、何か考えあるの?」


フェネックが尋ねた。


「サーバル先輩がそんな人殺しなんてする訳ないって思ってます・・・」


「ウチも同感だ。私情を挟む訳じゃないけどさ」


カラカルはそう言った。



ガチャッ



「おはようございます」


そう言って、かばんは席に座った。


「かばん先輩!き、来てくれてよかったです!

お知恵を拝借して・・・」


「僕は本格的に捜査に入れないけど・・・、ヒントだけね」



立ち上がり、ホワイトボードに書き始めた。



「サーバルちゃんと、今回の被害者ホッキョクギツネ、そして、弁護士のギンギツネは

奇しくも同じ大学を卒業してる」


「ちょっと待て、弁護士?なんで弁護士が?」


「最後まで聞こうよ。カラカル」


フェネックがそう制した。


「サーバルちゃんとそのギンギツネさんはサークルの先輩と後輩だった」


相関図を書き出す。


「一方、サーバルちゃんとホッキョクギツネは同じ大学に居たけど、

知り合ったのは、卒業してからなんだ。

ギンギツネとホッキョクギツネは、同じ大学の同級生、顔を合わせる事はあった」


「ホッキョクギツネは、地下アイドルをしていた・・・。

しかし割に合わない暮らしをしてました。後であのマンションを管理している所に

問い合わせると家賃は8万円だったらしいです」


私は付け足した。


「しかし、昔に出来たからって、防犯カメラが無いとか...。

その癖にオートロックとか・・・。セキュリティがガバガバだよね」


フェネックは不服そうに言った。


「僕が口出しできるのはここまで」


私は卓上の捜査資料に目を通した。


(サーバル先輩の指紋しか出てないのか・・・

っていうかあの人、手袋みたいなのしてるのに何で指紋を残すんですか・・・

・・・ん?)


「仮に、サーバル先輩がやったとしても不自然じゃないですか?

電話やドアノブとか全て、ふき取られていたのに、何で凶器だけ拭いてないんですか?」


「そこまで几帳面にやってて、最後の最後でヘマするってのも不思議な話だ」


カラカルは腕を組みそう言った。


「今回の登場人物は3人です。サーバル先輩、ギンギツネ弁護士、そして、ホッキョクギツネ

そして3人には共通点もあります」


「じゃあ、私はギンギツネの近辺を洗うよ」


「お願いします。フェネック先輩」


「じゃあ、アドっちはウチと組んで、色々調べるか」


「あっ、ハイ。お願いします!」


「アドさん、サーバルちゃんの無実を証明してね」


かばん先輩からそう、頼まれた。


「わかりました。頑張ります!」










≪京州署署長室≫


「カバ署長。サーバルを法務省管下の拘置所に入れたのは何故ですか?」


僕は椅子に座り、にこやかな顔を見せるカバに尋ねた。


「貴女知ってるでしょ?彼女が前科アリだってこと」


「ええ、でも殺人などではない、“児童ポルノ所持”です」


「どんな罪だろうが、前科者が警官として働いてる事が公になると色々マズイの」


「それは・・・“ここだけ”に限った話では?」


「そうとも言えるけど・・・、“臭い物に蓋をする”だったっけ?

国の保護下に置いて、彼女の名前は報道しない事にするため。

彼女だけじゃない。もし騒ぎになれば、最悪貴女達や私にも火の粉が降りかかってきてしまうもの。

一度火が付いたら消すのは難しいのよ・・・。わかってちょうだい。

その代り裁判までに真犯人を見つける事が出来れば、彼女は自由なんだから」


「署長と中央署のコノハ総監が裏で手を回しているのはわかりましたよ

何を考えてるのか、僕には甚だ理解できませんが」


「・・・やっぱり貴女は変人ね」


カバは細い目を開け、かばんを見た。


「あなたこそ」









《京州拘置所》


サーバルとギンギツネは裁判の内容について、話し合いを行っていた。


「裁判で、裁判官が先輩の罪状を読み上げます。その時に“やりました”と言って下さい」


「なんで?私やってないよ?」


「先輩、裁判の為に資料で色々調べさせてもらいました。

大学5年の時に、一度捕まってますね?」


「・・・・」


「前科者がやってないと言ったら、嘘を付いていると真っ先に疑われるんですよ。わかります?

罪を認めた後、“殺すつもりは無かった”と言ってください。

そうすれば、私が後は執行猶予付きの判決まで持ち込みます」


「もし・・・、もし・・・、“やってない”って言ったら・・・」


「“死刑”になる・・・」


ギンギツネは小声で呟いた。

サーバルは目を見開く。一瞬血の気が引いた。


「ごめんなさい、冗談ですよ。取りあえず、裁判では私の言った通りにしてくださいね、先輩」


ギンギツネは椅子を立った。


サーバルは全身の毛が逆立ち、震えが止まらなかった。





≪京州市 中心部≫


繁華街になっている京州の中心地。

ここにホッキョクギツネの勤めていた地下アイドルの店がある。

そこにアードウルフとカラカルは聞き込みに来た。


「すみません、京州署のアードウルフです」


「同じく、カラカルです」


「ああ、ホッキョクギツネさんの事件で

犯人はまだ見つからないんですか?」


応対した人物は相当苛立っている様だった。


「ええ、いま捜査してる所です。

あなたは・・・」


カラカルが応答した。


「オオフラミンゴ、支配人ですが」


「オオフラミンゴさん、あの、単刀直入にお聞きしたいんですが、

この人をご存知ですか?」


ギンギツネの写真を取り出し、見せた。


「ん・・・、眼鏡は掛けてませんでしたけど、何度か

お見かけしたことはありますね。

この人って、弁護士さんですよね」


「ご存知ですか?」

私は彼女の職を知っていた事に驚いた。。


「大物弁護士チベスナさんの娘さんと交際してるって話で

持ちきりじゃないですか。多くの財産が手に入るようで羨ましい...」


(彼女がいる・・・、それは知らなかった・・・・)


「彼女がいる身で、ここに出入りしていた訳ですか」


カラカルが聞いた。


「・・・ここだけの話、

ホッキョクギツネによく会ってた所を見たわ

単純なるファンだと思ってたけど、言われてみれば変な話ね

彼女のいる身、真面目な弁護士がこんな所に来るなんて・・・」





私達は一回店を出た。


「カラカルさん、ギンギツネのアリバイを確認してみますか」


「そうだな。法律事務所に行って聞いてみるか」






《治部法律事務所》


一方フェネックは、ギンギツネとチベスナとの関係を週刊誌で

キャッチしていた。ここにその真意を確かめに来たのだ。


卓上にお茶を置かれた。


「それで、お話とは」


「ギンギツネさんの事についてお伺いしたくて」


「彼女がどうしましたか」


「あなたの娘さんと交際しているようですね...」


「ああ、それか。

交際というより・・・、まあ警察の方なら口外することは

ありませんか。先日婚約をしました」


「ほう。それはおめでたい・・・」


「おかげさまで。ギンギツネの様な才能も有り、

誠実な人に婿に来てもらって・・・」


「あなたは莫大な財産をお持ちの様ですねぇ・・・

プライベートな事ですから、詳しくお話ししなくてもいいですけど、

ざっくりとで良いんで、どの程か教えて貰えますか」


「ははは・・・、対した額じゃない。ざっと7000万くらいさ」


「7千万...、それを全部ギンギツネさんに?」


「まあ、私が亡くなったらの話だけどね」





≪銀木法律事務所≫


ギンギツネは外出中であった。

私達は、その事務所で働いてるスナネコという人物と出会った。


「昨日の夜10時頃ですかぁ・・・

私は先生に早く帰っていいと言われたので家に居ましたが、

先生もその時間帯は事務所に居ましたよ」


「何故そう言い切れるんです?」

カラカルは聞いた。


「モーニングコールをしてくれと頼まれたんでー、

したんですよ。そしたら、出ましたから。

電話の記録でも調べたら残ってるんじゃないですかー?

多分通話記録が電話の機能で入ってるはずですよー」


「そうですか、じゃあ失礼して・・・」


私は、電話機を調べた。

確かに、通話記録が昨日の10時の時点で残っていた。


(アリバイはある・・・のか・・・。

何か他にギンギツネがあの場所にいるという証拠的なものは・・・)


「ただい・・・」


その時、帰って来たのはギンギツネだった。


「ああ、ギンギツネさん!良かった。あなたに会いたかったんですよ」


私は駆け寄った。


「は、はぁ・・・」


「ちょっと付いてきてほしい所があるんですよ、よろしいですか?」


「え、今ですか」


「ええ、今です」


ギンギツネは困惑した表情を浮かべた。





私達は国道を走行していた。


「・・・何で、被害者の家まで車を私に運転させるんですか・・・?

パトカーで行けばいいじゃないですか」


「ホントごめんなさい。お忙しいのは分かりますが、こちらも確認したい事が

ありますので・・・」


私は詫びた。


「・・・で、どこですか」


「はい?」


「被害者の家ですよ。行った事ないから、住所がわからないんですけど...」


「そうなんですか?」


「もったいぶらずに教えてくださいよ・・・」


カラカルはそのやり取りを後部座席で、黙って腕を組んで見ていた。


「さっきの交差点を右折なんですが・・・」


「・・・・」


ギンギツネは黙って車をUターンさせた。




雪見が丘のマンションに到着した。




「ギンギツネさん、マンションの被害者の部屋の番号を・・・」


「だから知らないって言ってるじゃないですか」


少し苛立った口調でそう言った。


「そうですか・・・」


私は、部屋番号を入れた。


「フェネック先輩、鍵開けてください」


「はいよー」





3人でエレベーターに乗り込んだ。



「ギンギツネさん、あなたはかなり有能な弁護士さんだとお聞きしました。

どんな裁判でも負けたことがないって・・・。

だけど、それなのに、ここの被害者の住所は知らないんですか?」


「・・・・」

ギンギツネは黙って上へと上がっていく数字を見つめていた。


「“調書”に書いてあるはずですよね?優秀な弁護士さんなら、それぐらい

目を通しているハズなんですけど・・・。全部把握してなくても、“ある程度”

マンションの部屋番号ぐらいは覚えとくものじゃないんですか・・・?」


そう言った瞬間、ドアが開いた。


私もそれ以上何かを発言しようとは思わなかった。


ドアを開けて中に入った。


「ガラスの破片が飛び散ってるかもしれないので気を付けてくださいね」


「ここで何するんですか・・・」


「課長!」


黙っていたカラカルが口を開いた。


“ミャーオ...”


フェネックは白色のネコを抱いていた。


「この子は、ホッキョクギツネのペットの“アイスちゃん”

ペットホテルに預けてあったんですよね~」


「おかしいですよね。サーバル先輩は、猫を飼ってます。

なのに、なんでペットホテルに預ける必要があったのか」


「よっぽどの猫嫌いか、または、“ネコアレルギー”か」


「何なんですかあなた達は・・・。用が無いなら、帰りますから」


ギンギツネは外に出ていった。





「ヘ、ヘーックション!」



「お大事になさってください・・・」


私はそう、ギンギツネに声を掛けた。

彼女は目を細めて、睨むように私を見た。


今度の週末、サーバル先輩の裁判がはじまる。


“正義の審判”を下す時だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る