正義の審判(パート3)

「先輩方、明日が裁判です。その前に一回整理をしましょう」


「おう」


「はいよ」


ホワイトボードに今わかっている事を書き出した。



サーバル →[友人]→ ホッキョクギツネ


↑[先輩]           ↓ 

 

ギンギツネ←[親しい付き合い?]←



「今回の事件のカギは、ギンギツネさんとホッキョクギツネさんの関係性です。

この前、ギンギツネさんをあの事件現場に連れて行った時、

“ふたつ”のおかしな点が見つかりました」


「一つは、住所とマンションの部屋番号だな」

カラカルは言った。


「そうです。ギンギツネさんはこの事件の弁護士・・・

住所と部屋番号を調書で確認しているハズです。

それなのに知らないと言った。

ここから何が考えられるか・・・」


「警戒しすぎたんじゃないかなぁー」

フェネックは人差し指を自分の頬に突き刺した。

それから、自分の考えを続けて説明した。


「初めて行く所なのに、迷わず行って、迷わず部屋番号を入力すれば

逆に怪しまれると思った...。」


「調書を覚えたと言っても、人の記憶だから、いまいち信憑性に欠けるよな」


カラカルは肯きながら言った。


「そして、もう一つ。ネコの件です」


「アレはホッキョクギツネとギンギツネを結びつける重要なカギだね」


フェネックは言った。


「ギンギツネさんはくしゃみをしていた・・・

恐らく、アレはネコアレルギー・・・

ホッキョクギツネさんの家にギンギツネさんが上がり込んでいたとしたら・・・」


「ネコを預けておく必要があるな」


「私は、真犯人はギンギツネであると思ってます」


「それを裁判で翻さないとね・・・」


「でも、現状、ギンギツネがやった証拠は無い。

となると、自供まで持ち込むか...?」 


カラカルはアードウルフを見た。


「相手は敏腕弁護士・・・。色んな犯罪者と関わってる。

一枚上手なはずです・・・。かなり厳しくなるかもしれませんが...」


「腹を括るしかないね」


フェネックは重い息を吐いた。


「私、一度サーバル先輩の所に行ってきます」


裁判の始まる前に、サーバル先輩の様子を見に行こうと思い、

サーバル先輩のいる拘置所に行った。




《京州拘置所》


「サーバル先輩・・・」


先輩は少し暗い顔をしていた。


「先輩の無罪は、私が証明します!」


「・・・・、ありがとう...。けど...」


「大丈夫です。かばん先輩から、私も色々学びました」


私は先輩の眼を見た。


「信じてください!」


力強くそう言った。



数週間後、裁判所で裁判が開かれた。




検事が法廷内を歩きながら、こんなことを言う。


「あなたは、被害者に借金をしていた。

被害者に借金を断られたから、逆上したんでしょう」


サーバルは黙ってそれを聞き流している。


「それにねぇ、刑事なのにどうして逃げ出したんですか?

死体は見慣れてるはずでしょう?」


「そ、それは・・・」


言葉が意図せず詰まった。


「言い訳が出てきませんか。図星ですねぇ・・・

それに検察の鑑定結果、あなたの指紋しか出てこなかったんですから・・・」


「弁護側、反対意見は?」


裁判長が弁護士を見た。


「特にありません」


法廷の静けさが増した。






翌朝の裁判、私はサーバル先輩の情状証人として呼ばれた。



「単刀直入に...、被告人は殺人を犯すような人物ではありません。

私は、真犯人を知っています」


「ハァ、そんな馬鹿な。真犯人だと?」

検事はそう言った。


裁判長は、目を驚かせていた。


「真犯人を知っている・・・?弁護側、尋問を」


「真犯人というのは・・・、誰でしょう?」


私はギンギツネの問いに対し、息を吐いてから答えた。


「あなたです。ギンギツネ弁護士...」


「フッ...、あなた、法廷でそんな出鱈目な答弁したら、犯罪になるって知ってます?」


「証拠があります。それを今から、見せたいのですが」


「良いでしょう」


裁判長は許可した。


「そんなまさか・・・」


検事のそんな声が聞こえた。



「まず、ギンギツネ先生は、被害者の勤めていた地下アイドルの劇場に

足を運んでおり、被告人よりも親しい関係にあったことが確認できました。


被害者は豪華なマンションに住んでいました。しかし、地下アイドルの

月給で賄える物とは思えない。


ギンギツネ先生が被害者に援助していた。と考えると、辻褄が合います。

親しくしていた理由・・・、もちろんそう言う関係に発展していたんじゃないんでしょうか」


「警察官だっていい給料を・・・」


「被告人のサーバル先輩は、何人かのご友人から借金をしています

そんな人が他人の家賃を出そうと思いますか?」


「・・・」


「次に、猫です。被害者はネコを飼っています。

しかし、事件当日ペットホテルに預けてありました。

被告人もネコを飼っていますよね?」


「サバナちゃん・・・!」


「何故、ネコを飼っているのに、ペットホテルに預けたのか」


「それは旅行に行こうと・・・」


ギンギツネの言葉をすぐさま遮る。


「あの時、旅支度の様子はありませんでした。

という事は、あの時誰か...、ネコを家に居させてはいけない理由があった。

ギンギツネ先生は、ネコアレルギーではないんですか?」


「・・・」


「そして、犯行時、犯人は電話のボタンの指紋を全てふき取っています。

そんな犯人が、凶器である水差しだけに指紋を残すでしょうか?」


「異議あり」


ギンギツネは手を上げた。


「私は事件当時、事務所に居ました。アリバイがあります。

私に犯行は不可能です。どうでしょう、崩せますか?

崩せないんだったら、さっさと帰ってください」


「わかりました。崩しましょうか」


ハァーと、息を吐いた。


「まず、事件当日、事務所スタッフのスナネコさんにモーニングコールをお願いしています

それを踏まえた上でこちらの写真を見てください」


一枚の写真を見せた。


「その写真は・・・」


裁判長は凝視した。


「これは事務所の写真です。見た通り二つの電話があります。

これは、事務用の電話と個人用の電話、二つに分かれてます

あの日、スナネコさんは、最初に事務用の電話にコールしました。しかし、出なかったので、

個人用の電話に連絡したんです。何故最初に、事務用の電話を取らなかったんでしょうか・・・」


「私が熟睡してたからでしょう・・・」


「前にスナネコさん、ミスしたそうですね・・・

だから、電話を録音するようにしたんです。それがこの、音声。

聴いてみてください」


私はその音声を流した。

モーニングコールを受け取ったときの会話が記録されている。


「この音声、不自然なんですよ」


「どこがですか・・・」


「スナネコさんは事務用の電話を切って直ぐに、個人用の電話に掛けた。

電話っていう物は、直ぐに切ったとしても“コール音”が鳴り続ける事が多いんですよ

つまり、この会話には“コール音”が入ってない。という事は、ギンギツネさん

あなたがその日、事務所に居なかった証拠です!」


「・・・!!」


「そして、あなたは重大なミスを犯した。

私達が被害者の家へあなたと行った時、あなたは住所を知らなかった。

調書に書いてあるはずの重要事項を見落とすなんて腕のある弁護士の

やる事とは思えません!あなたは被害者の家に何の戸惑いも無く行くと

逆に怪しまれると警戒した。よって犯人は、ギンギツネさん、あなたですよ」


私は、ギンギツネを見つめた。


「・・・・、ハア・・・

私は、被害者と付き合っていた。しかし、その最中に一流弁護士

チベスナさんの娘のオオミミさんとの、婚約が決まった。

上手く行けば大金が手に入る・・・。被害者はそれに目を付けた。

私の金をせしめようとしたんです。

私は縁を切ろうと思ったけど、出来なかった・・・」


「それが真実ですか」


「法廷で嘘は付きたくありません」


「まさか...、弁護人が犯人だとは...」


「あなたは、最悪ですね・・・。

無実の人を犯人に仕立て上げ、

正義の側の筈の、その弁護士という立場を使って

サーバル先輩に罪を認めさせようとした・・・」


「ゴホン...、今回の裁判の判決を下します・・・、被告人は無罪!」


「あっ...、あっ、ありがとう!アードウルフぅ...!」


サーバル先輩は私に涙を流しながら抱き着いて来た。


「やりましたよ・・・、先輩」


「今回の裁判は閉廷です・・・。

彼女の言った通り、正義の側に立つ筈の者が罪を犯すとは、失望しました

然るべき判断を司法はしないといけませんね」


裁判長はそう言った。




「じゃあ、ギンギツネ、署まで行こうか」


カラカルがそう言いながら、ギンギツネに近付いた。


「ウチは大切な人を守ろうとして、自らに罪を被った事がある・・・

けど、お前は、自分の為に他人に罪を被せようとした。

サーバルに謝れ」


「・・・・ギンギツネ」


サーバルは、寂しそうな目でギンギツネを見た。


「ごめんなさい」


小さな声で呟いた。

カラカルは、ギンギツネを連れ法廷を後にした。











「もしもし、コノハ総監ですか。お世話になっております。カバです」


『あなたですか。いやー、今回は災難でしたね』


その電話口からは微かに笑いを堪えてるような感じだった。


「どうかしましたか?笑いが止まらなくなるキノコでも食べましたの?」


『バカなことは言わないでください。賢いのでそんなものは食べません』


「私はお礼を申し上げました。今回の件が、外部に漏れなかったので」


『だったら最初からそう言って下さい。無駄な茶番は要らないのです』


「かばんではなく、アードウルフが全部解決しましたよ。

きっとかばんの教育が良かったんでしょう」


『あんなのを二人も増やすつもりですか。はっ、勝手にするのです』


「今度、ゆっくりお話でもしましょう。今回のお礼も含めて」


『スイーツの美味しい高級レストランを予約するのですよ。私は賢いので』


「ふふっ、楽しみにしていますよ...」


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