第4話(後編)

トム・ソーヤーの罠(パート2)

車中にて、私はこう尋ねた。


「先輩、特指課って所にいたんですよね」


ハンドルを握るかばんはフフッと笑った。


「ミミさんに会ったの?元気にしてた?」


一瞬、突然氷水を掛けられたようにドキッとしたが、私は正直に、少落ち着くための間を置いて話した。


「ワシミミズクさんはお元気でしたよ。特指課の部屋も綺麗にしてるようで」


「へぇー...」


あまり、感心がない様な言い方だった。


「ワシミミズクさんは、3人目と言ってましたけど...」


「1人目と2人目が知りたい?」


「できれば...」


かばんはいいよと言って、話し始めた。


「僕と一番最初に相棒になったのは

捜査一課のジャガーさん。

指名手配中の犯人の張り込みを任されていたんだけど、居眠りして逃しちゃって、そのせいで特指課に飛ばされて来たんだ」


「どんな方だったんですか?」


「運動は得意だったよ。けど、正直に言うと頭はあまり良くなかったかな。

今はとある事情で海外にいるんだ」


「そうなんですか」


チラッとかばんの横顔を見たが、先程変わらなかった。


「2人目はイワトビペンギンさん、

僕はイワビーさんって呼んでた。

警察学校の特別講師として呼ばれた時があって、僕は警察学校に行ってたんだ。その中に成績の悪い子がいて、それがイワビーさんだったんだ。僕は、彼女を専門的に教育した。それで何とか卒業して、僕が直接特指課にスカウトしたんだ」


「先輩が直接...」


「彼女は僕に対して、尽力する真面目な子だったよ。けど、偶に怒るとカッとなったりすることはあったけどね。

けど、彼女、警察自分に合わないって言って警察を辞めたんだ。それで今はアイドルグループPPPのメンバーになってるんだ」


「あっ...、だから沢山チケットを...」


「そう。マーゲイがファンで良かったよ。僕も偶に顔見せてるけど、流石に毎回は行けないからね…」


作り笑いをかばんは見せた。


「そうして、ワシミミズクさんに繋がるんですね…」


「そうだね」


いつの間にかホテル到着していた。

私達はそこで一晩を明かした。

コノハ総監の件に関して、私は一言も言わなかった。

いや、先輩はその事はもう知っているかもしれない。先輩に関していえば、

この世の中にある法則という物は先輩に対しては当てはまらないのだ。



翌朝、中央署に来た。


今日、ウィルス感染者の取り調べの日だが、取り調べは一課の人達が行うことになった。




一方、同日京州では中央署から送られてきたウィルス感染者名簿に数名の京州在住者が居たため、取り調べを行っていた。

ほぼ全員、アリバイがあった上、ニホンオオカミとの面識が無かった。


しかし、1名だけニホンオオカミの住所を知っている人物が居た。


「...んで、ニホンオオカミとはどういう関係なんだ?」


カラカルは問い詰めた。


「友達なだけです」


「その友達は、お金に困ってたみたいだけど...、それでトラブルになったんじゃないの?あなた、お金持ちなんでしょ?」


サーバルも口を挟む。


「ニホンオオカミとは顔見知りなだけですわ、偶々掲示板に貼ってあったリンクを騙されて踏んで、その製作者が偶々私の知り合いだったってだけです」


「シロサイさん...

あなたはニホンオオカミに金を貸した上に、犯罪の片棒を担がされちゃ、そりゃ、頭にくるでしょう...」


「けど、刑事さん。

私がウィルス製作者がニホンオオカミだってどうやって知ったんですか?

私はたった今刑事さんから聞かされて知ったんですよ?」


「それは...」


思わずカラカルとサーバルは顔を見合わせた。


「いくら面識があるからと言って、ウィルス製作者である人物がニホンオオカミと知る手立てがなければ私に犯行は出来ませんよ」


カラカルはサーバルに小さく耳打ちをした。


「課長を呼んでくれ」


「あ、うん...」







「ダメだ」


サイバー対策課へ来たのは、ヒグマだった。


「全員ニホンオオカミについては知らないって言っていた。つーか、PCに知識のないやつばっかりだよ」


「今回の事件で謎なのは、どうやってウィルス製作者がニホンオオカミだと知ったのかです」


後ろからキンシコウもそう話した。


「ですよね...」


アードウルフも右手を顎下に当て考えていた。


(そういえば、先輩は...)





「もしもし、フェネックさん?」


『今、手こずってるんだ。

ニホンオオカミと付き合いがあるって言う怪しいヤツが引っ掛かったんだけど、どうやってウィルス製作者がニホンオオカミだと知ったのかっていう点で引っかかってるんだ』


「そうですか。中央署もそんな感じです」


『あまり長く引き伸ばせないから、

なる早でその点を解決する情報が欲しいんだ』


「わかりました。僕もなんとかしてみましょう」


『お願いね』


そう言って電話を切った。

かばんも足早にサイバー対策課へと向かった。




「ほう...」


ずっとパソコンに向かっていたツチノコが立ち上がり、プリンターへ向かった。


機械音を立て、A4の紙が放出された。


「面白いもんが出てきたぞ」


そう言って中央の卓上に一枚の紙を置いた。


ヒグマ、キンシコウ、アードは上からそれを覗き込んだ。


「これは、生放送サイト『ライブオン』の放送履歴を印字した物だ。

んで、ニホンオオカミが殺害された時間帯の放送をピックアップしたんだがな、ここ」


水色のマーカーで線を引いた。


「この、@JW771_SitDっていう奴ですか?」


アードはツチノコを見た。


「ああ。特筆すべきは

“死亡推定時刻の直前”まで、ライブ配信をしているということだ」


「ツチノコさん、このロックマークは何ですか?」


突然指摘したのはかばんであった。


「先輩...」


「これは、友達限定配信の物だ」


「友達限定...配信?」


「このサイト私も知ってますよ。

フレンドリストって言うのがあって、

全体に公開する放送と、友達だけに公開する放送、2つあるんですよ」


不思議がってたヒグマにキンシコウが

解説した。


「で、えーっと」


ツチノコは急いでパソコンに戻り、もう1枚紙を印刷した。


「これがニホンオオカミのフレンドリストだ。ざっと...、30名近くいるな」


「これを全部調べんのかよ....

めんどくせえなぁ...」


「おいヒグマ、調べるのはオレ達サイバー対策課だかんなぁ?」


かばんはそれを見て、“あっ”と声をあげた。


「ツチノコさん、その時配信された映像って、残ってたりしませんかね?」


「んー...、会社のサーバーには残ってるかもしれない。公開請求しないと

ダメだけど」


「そうですか。じゃあ、その手配をお願いします。僕はちょっと連絡してきます」


とサイバー対策課を出た。


「アイツの言うことは大体間違ってねーからな...」


かばんの後ろ姿を見たツチノコはそう呟いた。




「もしもし、フェネックさん?」


『意外と早いね。どうしたの?』


「その被疑者に『ライブオン』のアカウント名が何か、尋ねてくれませんか...?」


『わかった』




一旦取調室を出ていたフェネックは

再度取り調べ室に戻った。

椅子に座り、シロサイを見た。


「もう聞くことはないでしょう。

帰していただけますか?」


「最後の質問に答えて貰えれば、帰って頂いて結構です。あなたは『ライブオン』というサイトのアカウントをお持ちですね?教えて貰ってもいいですか?

その場で携帯を確認してもらっても

大丈夫です」


シロサイは黙り、フェネックの心中を読もうと試みている様だった。


「教えていただけなけない場合は、

コチラで強制的な手段を取らせていただきますけど...」


「書くものを貸してください」


そう言ったので、サーバルが紙とペンを

渡した。


シロサイはスラスラと自身のアカウント名を綴り、フェネックに渡した。


「どうもありがとう」





かばんの携帯にフェネックから

写真が送られてきた。


「ツチノコさん、このアカウント調べてください」


「おう...、じゃあ、そん時配信された動画がサーバーに残ってないかと、

このアカウントのフレンドリストにニホンオオカミがいないかだな」


「はい。僕達は戻るんで、その情報を京州に送っといて下さい。」


「おう」


ツチノコはそう言って頷いた。


「えっ、先輩、もう帰るんですか?」


「犯人の目星はついたからね」


「すげぇな...」


「相変わらずですね...」


ヒグマとキンシコウの2人は感心した。


「コノハ総監にこれからもよろしくと

伝えておいてください」


そう、かばんは言い残した。


その日の夕方の飛行機で、僕達は京州に

戻った。



京州に戻ってやるべき事は、ニホンオオカミ殺しの犯人を逮捕する事だ。





■月■日


先輩の過去がわかった。一言で言うなら、“凄い方”だ。

京州に連れてこられた理由はあまりわからないが、これ以上の事はいらない。

コノハ総監がサーバル先輩とカラカル先輩についても述べていた。

アレが嘘か本当かわからないが、

総監が私にわざわざ嘘をつくとも思えない。何故なら私を“中央署に来ないか”と

誘ったからだ。アレはもしかしたら、“私への忠告”なのかもしれない。

考えすぎかもしれないが...。

刑事課で過去が未だにわからないのは

フェネック先輩だけだ。フェネック先輩と言えば机に飾ってある、同じセーラー服を着た“灰色の髪の人物”だ。

あれは一体...?




その日の夜

暗くなった刑事課の一室で一人卓上の写真を眺めていた。


「...今度の事件もかばんのお陰ですぐに解決出来そうだよ。

けどね、“あの事件”のケリは私の手で付けるから...。...アライさん」


財布を開け取り出して見たのは、

印字が掠れた、“電車の定期券”だった。


軽く息を吐き、消灯し部屋を出た。

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