白小路千家殺人事件(パート2)

『前回のあらすじ』

観音渓谷で吊り橋から何者かによって突き落とされた、ハシブトガラス。

捜査を進めると今回の事件は

茶道の名門、白小路千家の跡継ぎ問題が

絡んでいる様子。

疑いがかかったのは一番弟子でメイクの仕事を行うタンチョウであった。

しかし、彼女にはアリバイがあった。

サーバル達が渓谷の“ライブカメラ”の映像を見せるとタンチョウが犯行におよぶ一部始終が捉えられていた。

アードウルフとかばんはこれが“共犯者”であると考え、タンチョウの関係者を調べるのであった...


ーーーーーーー


《京州警察署刑事課 午前6時》


この時間はまだ誰も来ていない。


プルルル...

プルルルル...


(電話・・・?)


こんな早朝から電話が掛かるのは珍しい。よっぽど緊急性のあることじゃない限り。


電話を取った。


「もしもし、刑事課...


えっ...?はい、えーっと、私は大丈夫です。はい、わかりました。

急いでいきます」


ガチャ


電話を置くと、自身のデスクにこっそりと飾っている写真を手に取り見つめた。


(行ってくるよ、アライさん)


そっと置き、部屋を出た。




「ふぁあ〜...」


昨日は色々あって中々眠れなかった。

寝ようと思ったけど寝られなかったので、今日はこの時間に署に来た。


(帰りは早く帰らせてもらえばいいか...)


ぼんやりとそんな事を考えながら歩いていると、前の方からフェネックが来た。


「アードウルフ!丁度良かった、今から出掛けるよ」


「ふぇねっくさん?何ですか?」

目を擦りながら答えた。


「事件だよ」


「こ、こんな朝っぱらから...?」


「行くよっ!」


「は、はい!?」


フェネックは意識のはっきりしない

アードウルフの腕を取って、駐車場へと向かった。



《観音渓谷 周辺》


「被害者はメンフクロウ...、

和菓子屋の主人です」


私が所持品の名刺を持って読み上げた。


「和菓子屋かぁ...」


フェネックは腕を組んだ。


「怪しくないですか」


私は視界に死体が入らないようになるべくフェネックの顔を見て話した。


「和菓子と言えば“茶道”じゃないですか」


「おはようございます、アードウルフさん」


そう声を掛けたのは鑑識のマーゲイだった。


「あっ、おはようございます…」


「朝っぱらから大変ですね...

えーっと、死亡推定時刻は昨日の夜21頃ですね」


「夜ですか...」


私がそう呟くと


「ねぇ、マーゲイ」


「なんですか」


「この手についてる白い粉...

何かな?」


「持ち帰って調べて見ます」


私は不思議で仕方がなかった。


何故和菓子屋が殺されなければいけないのか。


プルルル...

携帯を取った。


「あっ、はい、もしもし」


『アドさん、聞いたよ。事件なんでしょ?何か出来ることある?』


声の主はかばん先輩だった。


「えっと、いいですか?

和菓子屋“御綿堂(おめんどう)”の主人、メンフクロウが観音渓谷の山道

で遺体で発見されました。

私は今回の白小路千家の事件と関わりがある様な気がするんです。

“御綿堂”に行って、白小路千家との繋がりを調べて頂けたら幸いなんですが....」


『わかりました。聞いてきます』


「お願いします!」


電話を切った。


「フェネック先輩、かばん先輩に和菓子屋の事を任せました」


「ああ、そう?」


フェネックは目線をアードウルフに戻した。


「あの、個人的に気になる事があって...」


「別にいいよ。付き合うよ」


「ありがとうございます!この時間なら

...」


腕時計を見た。


「テレビ局、行きましょう」







《桜田地区》


あの白小路千家もあるこの桜田地区

その名の通り桜の名所であり、春には

多くの行楽客で賑わう。

国道沿いに佇み和風の趣を醸し出すのは

長い歴史を持つ、“御綿堂”

元々和菓子屋ではなく綿織物を扱う問屋から転身した。

京州市のガイドブックにも載るほどの

超有名な和菓子店でテレビでも見かけることがあった。

今の時刻は8時ちょっと過ぎ。

もちろん店はシャッターを下ろしている。


店舗と自宅は一体化している。

かばんとサーバルは、玄関を見つけインターホンを押した。


ガチャッ


「は、はぃ...」


その出てきた人物に、僕とサーバルは

目を合わせた。


「あの、京州署のかばんです」


「サーバル...です」


一瞬顔が青ざめたように見えた。


「今日の朝、こちらの主人のメンフクロウさんが遺体で見つかりました。

その件で伺ったんですが...」


その人物は両手で口を覆った。


「本当に....、私のせいで...」


「詳しく聞かせて貰えますか...?」


サーバルが似合わない敬語でそう優しく尋ねた。


「はい....」






「私は、マナヅルって言います…

メンフクロウの娘です」


弱々しい声で自己紹介をした。


「先程、“自分のせい”と言ってましたけど...」


かばんが尋ねた。


「ハシブトガラスを殺したのは...、

私です...」


その口から出た答えは驚くべきものだった。


「タンチョウさんに...、ハシブトガラスさんを殺さなかったら...、お父さんを殺すって、脅されて...」


「タンチョウ・・・」


サーバルが小さく呟いた。


「あなたのお父さん、メンフクロウさんとタンチョウさんにどんな関わりが?」


「この店は、白小路千家のお抱えのお店、要は白小路千家専用の和菓子屋なんです」


「という事は、今回の千家の跡取りに絡んでいる...」


僕がそう言うとマナヅルは小さく頷いた。


「父は、ハシブトガラスを推していました。彼女は、この店に対する待遇を良くすると、言ったんです...」


「なるほど、タンチョウは自分が

後継者になろうとして“邪魔”な存在を消そうと、今回の事件を起こした...」


「でも、メンフクロウが殺される理由にはなってないよね。ハシブトガラスは後継者だからわかるけど...、なんで推すだけのメンフクロウを殺さないと...」


そのサーバルの言葉で僕はハッとさせられた。


(...!)


「ここを任せてもいいかな?」


「えっ」


「急いで行かないと...!」


かばんはサーバルをその場に置いて、

飛び出した。


(タンチョウの狙いは...!)


「あっ、アドさんに連絡をっ...」







《車内》


「もしもし?あっ、先輩。はい、

えっ、そうですか...。了解です。

はい...、えっ、一応行って確認します。はい、失礼します」


ハンドルを握るフェネックが前を見ながら尋ねた。


「なに?」


「ハシブトガラス殺しの犯人が見つかったそうです...」


「共犯者の方?」


「そうです。真犯人はタンチョウで間違いありません」


「やっぱりね...」


「ハシブトガラスを殺したのは、

今朝の被害者の娘で、タンチョウは

殺さなかったら被害者を殺すと脅していたそうです」


「約束は遂行されたはずなのに...、

殺された。とんだ裏切り者だね…」


「真の目的は...、自分を後継者にすること...」


「捕まえないとね」


車をテレビ局へ走らせた。









(肝心な事を忘れていた…

あの“懐紙の鶴”をこの前来た時取り忘れたじゃない...、警察はウグイスの仕業とは思わない...、アイツを何とかしないと...)


「仕事よりも...、こっちが大事...」







《テレビ京州》


私は受付に問い詰めた。


「あの、この人物、こちらに来てますか?」


顔写真を見せた。


「いえ...、今日は見てないです。

スタッフの方ですよね?」


「ありがとうございます!」


私は急いで車に戻った。


車のドアを開けるとフェネックは

真っ先に


「やられたね」


と声を掛けた。


「ウグイスさんの家に急ぎましょう!」


「はいよっ」









「お待ちしてました。タンチョウさん」


白小路千家の門の前。

笑顔を浮かべて待っていた。


「な、なんですか...」


相変わらず彼女の声は小さかった。


「マナヅルさんが自供しましたよ。

あなたに脅されてハシブトさんを

殺したと。まあ僕はあの方に会った時

確信したんですけどね」


「私は...、犯人じゃない」


「けど、メンフクロウさんを殺しました。マナヅルさんがハシブトさんを殺さなかったら代わりにメンフクロウさんを殺すと言ったそうですね。それって裏切りじゃないですか」


タンチョウは黙っていた。


「あなたの目的は、後継者を消して

自分を跡取りにすること。

残っているのは、ウグイスさんだけです。今日は直接“やりに”来たんじゃないですか?」


「私は誰も殺してない!」


頑なにそう主張した。


「抵抗しても無駄です。マナヅルさんが真実を知ってます」


「マナヅルが嘘をついてるかもしれない...

メンフクロウを殺した証拠でも?」


「それならある」


後ろからの声でタンチョウは振り向いた。

そこに居たのはカラカルだった。

紙を開き見せつけた。


「被害者の手には白い粉が付着していた。これは、小麦粉だった」


「タンチョウさん、車を調べさせて貰えますか?小麦粉が残ってるかもしれません」


「...っ!」


「どのみち、署まで連れて行くことになるけどな。あんたの逮捕状もある」


カラカルは逮捕状も持ち出していた。









「メンフクロウさんを殺したのは、やっぱり疑いの目をウグイスさんに向けるためだったんですね」


アードウルフは言った。


「タンチョウ自身、自分で殺人はしたくなかった。だからマナヅルを利用し、ハシブトガラスを殺し、あの“懐紙のツル”でウグイスを犯人に仕立てあげようとしたんです」


かばんが言った。


「だけど、ウグイスにアリバイがあった。それでタンチョウの作戦は崩れ、

焦った彼女はもう一度ウグイスを犯人に仕立てあげようとした...。ですよね、かばん先輩」


「その通りだよ。アドさん。

けど、警察の介入があったせいでその

作戦も失敗した」


「けど、何で、ウグイスを直接殺そうとしなかったんでしょうか?」


「それはわからないけど、たぶん、

尊敬していた師匠の子だったからかもしれない。血は繋がってはいなくても、

何処かに“その面影”を感じたから...

とか」


かばんは想像力を巡らし、そう答えた。


「でも、タンチョウさんの茶道に対する熱意は、本物だよ。“譲れない物”の為に今回の件を起こした。誰かを傷つけるのは良くないけどね。だけど、時と場合によっては、他人を傷つけてしまう。

“誇り”や“信念”は凶器にもなりうるって事を改めて感じたよ」


フェネックはパソコンを見ながら、そう

呟いた。


「マナヅルさんは...」


私はかばん先輩に尋ねた。


「2週間後に裁判をやるみたい。

マナヅルはあくまでも脅された訳だから、重い罪にはならないはずだよ」




...2週間後


私は興味本位でマナヅルの裁判を見た。

裁判所に来ること自体初めてだ。


独特の雰囲気が漂っていた。


結果、マナヅルは

執行猶予付きの懲役2年になった。


(かばん先輩の言った通りの結果だったなぁ...)


特に引っかかることも無く、裁判所を後にした。






「いやあ、キミの弁護は実に素晴らしいよ」


「そんな。ベストを尽くしただけです。チベスナさん。

あなたの弁護には及びません」


「そんな謙遜することない

ギンギツネ、キミはオオミミに相応しいよ」


「ありがとうございます」


「今度、いいレストランでも予約して、ゆっくり食事でもしようじゃないか」


「いいですね...」


「フッ、じゃあまた会えるの楽しみにしてるよ...」

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