最終電車(パート2)

かばん先輩が五国へ出張してしまった。

少し退屈だが、いつぞやにかばん先輩が

言ったように、警察は暇が一番だ。

私がナンプレでもやろうかな、と思い始めた時だった。


プルルル...、プルルル...


電話が鳴った。


「はい、刑事課...」


フェネック先輩が電話を取った。


「はい、ええ、はい。そうですか。

わかりました。今行きます」


「なになにー?何かあったの?」

サーバルは尋ねた。


「事件に決まってんだろ...」

カラカルが呆れたように言った。


「事件だから行こうか」


フェネックはゆっくりと立ち上がって、刑事課を出た。


(こういう時に限って面倒な事件だったりするんだよね...)


アードは心中でそう思った。


全員で車に乗り、現場へ向かった。

道は途中から狭くなりガタガタ道になった。道の途中に車両制限のバーもあり、慎重に通り抜けた。


途中まで行くと、何者かが立っていて、

私達の車を止めた。


「お疲れ様っす。京州署の方っすね。

この先、車Uターン出来ないんで、ここに止めてもらえますか?」


指示通りに、車をその場所に止めて、全員降りた。


「いや、態々こんな悪路を...

1時間近くかかったすよね。

自分は水湖警察署のビーバーっす」


そう言って手帳を見せた。


「京州署のフェネックです」


「わたしサーバル!」


「カラカルだ」


「アードウルフです...」


頭を下げた。


「水湖警察署って、隣の水湖市を管轄している警察だよね?どうして、京州が呼ばれたの?」


サーバルはいつものフランクな口調でビーバーに尋ねた。階級が同じだったから、あまり目上目下は意識してないのかもしれない。


「現場でそれを説明するっす。

とりあえずついてきてください」


ビーバーの後を付いて行った。

5分ほど歩いて現場にたどり着いた。


意外と時間がかかった。


数人の鑑識とブルーシートが目に入った。


「いやいや!遠方からご苦労様であります!わたくし、水湖警察署刑事課警部のプレーリーと申します」


「京州署刑事課警部のフェネックです

...ここって、水湖市ですよね」


「ええ。水湖市内なんですけどね、

今回京州署の方をお呼びしたのは少し

事情が込み入っておりまして...」


プレーリーは難しい顔をした。


「今、アードさんが立っていらっしゃる場所があるっすよね」


ビーバーが指摘した。

大体今私の立っている場所から遺体まで

目視で2mあるかないかぐらいだ。

山道の為か車一台通れるほどの道で、小石が散らばってる。

遺体の方に向かって緩やかに右道が曲がっている。


「今、アードさんが立ってらっしゃる場所が丁度、京州市と水湖市の境になってるんっすよ」


「へえー...」

私は思わず声を出した。


「それで我々が調べた結果、京州市側に血痕があったんですよ。

我々の見立てとして、一度京州市で殺された後、こっちの水湖市に引きずられたんじゃないかと思いまして、京州署の方をお呼びしたんでありますよ」


「そういうことだったんだ...」

サーバルは頷き、理解を示した。


「あの...、遺体の状況を...」


フェネックが言うとプレーリーは、嫌いな食べ物を食卓に出された時の子供のような顔をした。


「今までにわたくしが見た遺体の中で、失礼ながら、酷い状態ですが...」


「大丈夫です」


フェネックは平然とそう言った。


「アードは無理しなくていいよ」


「あっ、いえ、お気遣いなく...」


私はそう言い全員でその遺体に近寄った。


ビーバーがゆっくりとそのシートを捲りあげ見ると、たしかに酷い状態であった。


「うわぁ...」


「こりゃひでえな」


二人も思わず息を飲んだ。

私はと言うとただ単に歯を食いしばっていた。


「銃弾...」

フェネックは息を吐くように言った。


「そうであります。

足に2発、腹部に1発、脳天に1発...

これほど何発も、しかも急所に打つなんて、相当の恨みを持った人物が犯人だろうと思うでありますが...」


「被害者は、カワラバト。現在は何も職に就いてないそうですが、元JPRの職員だったそうっす」


「JPRって鉄道会社だよな?」


カラカルは尋ねた。


「そうっす。もう少しコチラで色々調べるつもりでありますが...」


「コチラと連絡を取り合って事件捜査を進めましょう。京州側で殺されたならこっちが捜査の指揮を取ります」


「そうでありますか。なんせ水湖署は人手が足りないんで、助かるであります」


「では、連絡を私にお願いします...」



私は遺体をチラ見しつつ確認していたが、1つ気になる事があった。


強い恨みを持つ人物にしては、銃の当て所が的確な気がする。

私がもし犯人だとして目の前に殺したいほど憎い奴がいたとして冷静にピンポイントで撃てるだろうか?

人によるかもしれないが、私ならできないと思う。

我武者羅に銃を連発させるだろう。


犯人はそういう感情に流されるのではなく“確実”に殺そうとしている。


(プロの殺し屋...?軍人...?)


何れにせよ、“銃の扱いに慣れている人物”の犯行ではと私は思った。


もう少し辺りを探ってみよう。


私は鑑識に声を掛けた。

京州市側の血痕の位置を教えて貰った。


微量の血痕はコンクリートに付着していた。

ここで私は遺体の状況を思い出す。


(4発銃弾を浴びたとしても...

血痕の量が少なすぎる...?)


そこが気になった。


「ビーバーさん」


「なんっすか?」


「水湖署の見立てとしては、

殺害現場はココって言う風にはんだんしているんですか?」


「ええ、まあそうっすね。

通報はここの山に来たドライバーからの連絡で、駆けつけたらこの有様、血痕も付着してるし、凶器に関しては犯人が自ら持ち帰ったとも考えられるし、この谷の下に捨てられてる可能性もあるっすからね。そこはフェネックさんが色々やってくれるみたいっすけど...」


「遺体に何か変な物が付いてたりとか...」


「そういえば、“砂”がどうとかって...自分もよくわかんないっす...」


やれやれという感じに後ろの頭を掻いた。


「砂ですか?」


「ええ、話によると海とかにある

砂浜の砂らしいっすけど...

詳しくは署まで戻って鑑定しないと」


「そうですか」


私は気になった点をメモに書き留めた。


「おい、アドっち、1回署に戻るってさ」


カラカルに言われたので、車に戻ることにした。


車に乗り、今来た道を戻る。

前方に車両制限のバーがある。


その手前で私は、


「車止めてもらえませんか?」


と言った。


不思議そうにフェネック先輩がこちらに顔を向けた。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと気になることがあって...」


私はシートベルトを外し、車外へ出るとその車両制限のバーを注意深く見た。


赤色で塗られた筒型のバーは最近塗り替えられたばかりのような雰囲気だった。


上の方へと徐々に視線を上げると丁度自分から見て左側のバー、丁度サイドミラーの位置に鋭い横線があった。

これは車が通った時に擦れて出来るものだ。


私はこれもメモした。


車に戻ると、


「何かあったの?」


とフェネック先輩に聞かれた。


「手掛かりが無いかなって思って

まだハッキリ言ってこれが役に立つかどうかはわかりませんけど...」


「なるほど」


そう短く答え、再び車を走らせた。

あのバーを針の穴に糸を通すかのごとく

慎重に抜けた。




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